レッツボランティア2 『ストーカー退治3』
「久しぶりじゃねぇ! こっちは鬼塚に命令されてお前らに近づかなかったのに。なんで、お前らから来るんだよ!」
金髪豚野郎は涙目で吠えた。
丁寧に染められていた金髪には、黒い地毛が混ざっていた。
「あんたがストーカーなんてしてるからでしょうが!」
「黙れハーフ! それこそお前たちに関係ないだろうが! 俺はただ、元カノの近況が知りたかっただけだ!」
「え? 元カノ?」
コメさんが驚いた。
友達は、金髪豚野郎の元カノ三十人のうちの一人なんだろうか。
「あの娘、まだ誰とも付き合ったことないんだけど」
違った。
まったく違った。
それも、金髪豚野郎にとって、最悪の形で。
「ってことは?」
「こいつの勘違い。生粋のストーカーだな」
金髪豚野郎の顔は真っ赤だった。
「はいはい、とりあえず話は署で聞こう」
「うるせぇ! このホラ吹き! 何が不死鳥だクソ! てめぇら、全員死ね! 死ね死ね死ね!」
金髪豚野郎は、唾を吐き散らしながら血走った目で僕らを睨んだ。
……なんだか可哀想になってきた。
「チャドラ! 全魔力を注ぎ込んでやる! こいつらぶっ殺せ!」
「ギチャー!」
ドコツカからチャドラが現れ、牙を剥いた。
頭上に燃えるファイアボールは、前回の倍の大きさにまで膨らんだ。金髪豚野郎はどうやら、信二との一戦からちゃんと使い魔に魔力を注いでやることを覚えたようだ。
「いけぇ! ファイアボール!」
僕はもちろん、ヨイチ、小太郎、レオーネ、大きくなったマイモ、強化した衛、フォークスを構えたムギさんが身構えた。
と同時に、地面から真黒な無数の触手が現れ、チャドラを引きずりこんだ。
「……え?」
この場にいる誰もが、目の前で起きたことを理解していなかった。
ただチャドラがいた場所には、染みのように濃い影が残っていた。
「チャ、チャドラ?」
術者である金髪豚野郎は、ひと際動揺を隠せないでいた。
「お、お前らじゃないよな? な、なんなんだこれ? チャドラは……」
次の瞬間、金髪豚野郎の体が不自然に跳ねた。
そして立ったまま、ありえないほど体を反らせて、ありえないほど高い声で鳴いた。
「プぎ……ギリ……ウリィーーーーー!」
「ど、どうした!」
慌てて駆け寄ると、なぜかむっとする血の匂いがした。
金髪豚野郎は、激しく痙攣しながら泡を吹き、白目をむいていた。
その間も鳴き声は止まることなく、体を反らせたまま立ち続けていた。
「リィーーーーーーーーーーーーーー!」
「や、やばいだろこれ」
「リィーーーーーーーーーーーーーー!」
「見ればわかる! 衛、アリエッタの回復!」
「リィーーーーーーーーーーーーーー!」
「ダメだ、アリエッタが怖がってできん」
「リィーーーーーーーーーーーーーー!」
「と、とりあえず救急車だろ」
ムギさんが携帯を取り出すと、金髪豚野郎は糸が切れたように倒れた。
「ギチャ……」
最後に聞こえた声は、チャドラにそっくりだった。
「おいおいおい、どうなってんだよ! あ、もしもし救急車お願いします……」
ムギさんが電話をしている横で、声が聞こえた。
地の底から響くような、不自然に上擦った気味の悪い声が。
また会おう。
周りには、怯えたいづみちゃんをなだめるアキラちゃんとコメさん。金髪豚野郎に声をかける衛と信二。救急車を呼ぶムギさん。
他には誰もいなかった。




