レッツボランティア2 『ストーカー退治2』
「さ、隠れるよ」
配置は男女で別れることにした。
女の子三人は、ヨイチとマイモを出した状態でアパートの駐車場の影に。
僕たちは、偶然道に停まっていたワンボックスカーの後ろに隠れた。
辺りは徐々にうす暗くなり、涼やかな風が肌を撫でた。
「来ますかね?」
信二が小声で言った。
「一週間くらい前から、ほぼ毎日盗るらしいのよ。だから来ると思うけどね~」
「ムギさん、なんか余裕っすね」
僕の言葉に、ムギさんは得意げに笑った。
「そりゃあ、経験あるからな。コメと出会ったのも、あいつがストーカーに悩んでたことが始まりだったからな」
「マジっすか!」
驚いたが、コメさんがこの件に関して燃えている理由がわかった。
「そんとき俺が助けて、友達になって、俺たちは付き合いだしたわけよ」
「ちょっと待って、なにさらっとカミングアウトしてるんですか」
「あれ? 言ってなかったっけ? 俺たち付き合いだして二年目のラブラブカップルだぜ?」
いや、薄々は感じてはいたけれど、実際に言われるとそれなりに衝撃だ。
一年生の間で、コメさんは人気の先輩だ。何度か紹介してほしいと頼まれたこともある。この事実を知って、ショックを受ける男は少なくないだろう。
「先輩、そのときの話を詳しく」
「詳しく」
「悔しく」
「冬のマジでクソ寒い日にさ~」
「しっ、誰か来ました」
「ちくしょう!」
ムギさんの話を遮った衛の視線を追うと、帽子の上から黒いパーカーを被った男が、マンションの前を不自然にうろうろしていた。
「……怪しいな」
「アリエッタも怖がってる。ただの通行人ではなさそうだ」
男は落ち着きがなく、辺りを警戒しているようだった。
見るからに怪しい。
「あっ!」
男は周りを見回すと、器用に塀をよじ登り、二階のベランダへ飛び移った。
そして、干してあったパンツを手際よく掴むと飛び降り、素早くポケットへ突っ込んだ。
……それが罠だとも知らずに。
「「この変態がー!」」
コメさんとアキラちゃんが同時に叫んだ。
男は突然の怒鳴り声に、飛び上がって驚いた。
「いけ! ヨイチ!」
「御意!」
ヨイチの手に金色に輝く絵字不刀が現れ、男に襲いかかった。
ヨイチとの距離が詰まる前に、男はドコツカを取り出して使い魔を召喚した。
次の瞬間、男とヨイチの間で爆発が起きた。
「きゃあ!」
女の子たちの悲鳴を上げている隙に、男が逃げ出すのが見えた。
そして、逃げた先から原付バイクのエンジン音が聞こえ、荒っぽく遠ざかっていった。
「大丈夫か!」
僕たちが駆け寄ると、アキラちゃんがキッと睨んだ。
プロテスのおかげもあって、怪我はないようだ。
「遅い!」
「すいません……」
「とにかく追うよ。召喚!」
コメさんのドコツカから、レオーネが優雅に現れた。
「マイモ、大きくなぁれ!」
いづみちゃんのかけ声で、マイモがいつかのように雲みたいになった。
「みんな、マイモに乗って」
マイモはふわふわして、羽毛の感触に似ていた。
「アキラちゃん、ヨイチは大丈夫なの?」
「平気でござるよ。ちゃんと防いだでござる」
いつの間にか、ヨイチがアキラちゃんのとなりで胡坐をかいていた。
でもよく見ると、黄金の装飾が少しすすけていた。
「よかった、怪我がなくて」
「みんな! 行くよ!」
レオーネの背には、コメさんとムギさんが乗った。
レオーネは後ろ足でマイモを掴むと、力強く羽ばたいて空を飛んだ。
「高い高い高い! コメさん怖いっす! もうちょっと低く飛んで」
「情けないね。この前あたしたちが乗ったときは、これ以上高かったんだよ」
「うーん、どこに行った~? 遠くには行ってないと思うんだけど」
高さにビビりながら、僕たちは地上を見下ろした。
それらしい姿は見当たらない。
「見つけたー!」
信二が嬉しそうに叫んだ。
指差す先を見ると、原付バイクをノーヘルで走らせる男の姿があった。ちょうど、僕らが通う大学の前だ。
「おー、がんばってるなー」
「レオーネ、道を塞いで!」
レオーネはさらにスピードを上げると、原付を追い越して行く道を塞いだ。
僕たちもマイモから飛び降りて、男の接近に備えた。
「うおお!」
男は急ブレーキで止まった。
危うく倒れそうになったが、なんとか持ちこたえていた。
「さぁ! 観念しろ、このストーカー!」
コメさんが怒鳴ると、レオーネも低く唸った。
「……んで」
「ん?」
男は原付を乱暴に放ると、帽子を脱ぎ捨て顔を上げた。
「なんでまたお前らなんだよぉー!」
「「「あ」」」
「あんた……」
「うわ~、久しぶり」
目の前の男は、あの日以来まったく姿を見ることがなかった、金髪豚野郎その人だった。




