表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/97

レッツボランティア2 『ストーカー退治』

 速足で近づいてきたコメさんは、信二の言葉を遮った。

 ムギさんは後ろから、のんびりと歩いてきていた。興奮したコメさんと、微妙に温度差がある。


「えっと、大丈夫な人は手上げて」


 戸惑いながらも、みんなゆっくりと手を上げた。


「あ、いづみちゃんは遅くなっちゃうもんね」


 いづみちゃんだけは家が遠いので、申し訳なさそうにうつむいていた。


「いいじゃん、いづみ。遅くなったら、あたしの家に泊まりなよ。おじさんたちには、あたしからも言ってあげるから」


 アキラちゃんが言うと、いづみちゃんは嬉しそうに顔を上げて明るい笑顔を見せてくれた。


「はっはっは。いやぁ、偶然だな」


 悠々と歩いてきたムギさんは、なんだか楽しそうだった。


「んで、先輩方。なにをされてるんです?」


 興奮状態のコメさんが、鼻息荒く答えた。


「ストーカー退治よ!」


 話を聞くと二人は、最近ストーカーの被害に悩んでいる友人から相談を受けたらしく、張り込みに向かう途中だったそうだ。


「で、そのストーカーはね、友達の下着盗んだり無言電話かけたりして、本っ当に気持ち悪いの!」


 コメさんは心底嫌そうに、眉間にしわを寄せていた。


「許せませんね!」

「見つけ次第、やっちゃいましょう」


 女の子二人はやる気満々だった。


 ストーカーに対して強い嫌悪感を抱いたようだが、それにしてもアキラちゃんの目が怖かった。


「ほら、見えてきた」


 コメさんが指さす先には、きれいなベージュ色をした四階建てのアパートがあった。


「あそこの二階に友達は住んでるんだけど、いつもこれくらいの時間に、外から視線を感じるらしいの。現に、下着を盗まれたのも今くらいの時間だったの」


 たしかに人通りはあまりなく、目立たないところにあるが今はまだ午後七時だ。

 こんな時間に盗みを働くなんて、肝が据わっているというかなんというか。


「よし、みんなそこに並んで」


 言われるがまま、僕たちは横一列に並んだ。

 コメさんは、バッグから白い杖を取り出した。


「おぉ! ワンドだ」

「いいでしょ。ちょっと高かったけど、ネットで買ったんだ」


 ワンドは、古くから西洋で使われてきたマジックアイテムだ。


 呪文の効果を高めたり、魔法を記憶させて詠唱破棄なんてこともできる。コメさんのものは、約三十センチほどで丁寧に磨かれた白樺の杖だった。


「『亀甲の光よ 固まり光れ 纏いし衣に石の強さを 百夜の風雨も凌げる壁を 包み築きて我が身を守れ 包み築きて他が身を守れ プロテス!』」


 杖先から光が放たれ、僕たち一人一人を雨ガッパのように包んだ。

 重さや痛みはまったくなく、ほんのり温かかった。光は全員を包み込むと、炭酸の泡が弾けるように消えた。


「すげー! 今の防御魔法ですよね? しかも複数に!」

「えっへん! まぁ、複数にかけちゃうと効果も弱くなっちゃうから、そんなに強い衝撃からは守ってあげられないけど」

「いやいや、十分ですよ」


 一年生は、みんな驚きと感動の声を上げた。


 魔法陣や魔術回路は主に理系の魔法だが、文系の真骨頂はこの呪文だ。


 狂いなく、正確に呪文を唱えることで、魔法現象を起こすことができる。上級魔法ともなれば、発音やリズムまで決められているものもあるし、名作と呼ばれる作品の一節が、呪文として力を発揮することだってある。


 一つ一つの言葉に魔力を込め、奇跡を生み出す。

 しかし、唱える手間や効率の悪さから、今では一般に伝わっているものも、使える人も少ない。初めて見る呪文の力に、一年生はみんなコメさんに尊敬の眼差しを向けていた。


「みんなも、後期で必修の防御呪文Ⅰの授業で習うはずだよ」

「うおー! はやく習いたい!」

「でも、集中しないと単位落としちゃうよ、信二くん。ここに落としたバカが一人いるから」


 ワンドで差された先には、なぜかドヤ顔のムギさんがいた。

 言われてみれば、僕らと一緒に、ちゃっかりプロテスの呪文をかけてもらっている。


「いや、なんでちょっと誇らしげなんですか」

「ふっ、人には向き不向きがあるってことさ。さぁ、お前たちも俺に続いて単位を落とそうぜ」

「「「お断りします」」」


 一年生全員がきれいにハモった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ