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入学 『使い魔』

 使い魔は人間にとって、なくてはならない存在だ。


 使い魔の召喚は人が必ず行う儀式で、生まれて初めての魔法となる。


 三歳の誕生日に、保護者と一緒に召喚陣を描いて、その中心に血を一滴垂らす。すると、血に含まれた魔力が素となり、使い魔が生まれる。


 こうして生まれた使い魔は、あらゆる場面で支えてくれる生涯のパートナーになる。


 だが、術者である人間が死ねば使い魔も死ぬ。


 使い魔が死んでも人間が死ぬことはないが、抜け殻のような状態になってしまう。回復には時間がかかり、そのまま一生を終えることもある。


 そんな使い魔には、様々な種族がいて種類がある。


 アリエッタと小太郎は、宝石獣と魔犬で種族が違うが魔獣タイプという種類では同じだ。他にも、さっき信二が言っていたように多くの使い魔が存在する。


 基本的に使い魔の種族や能力は術者に応じたものになる。それは個性と呼ばれ、文明が発達した現代では、魔法使いとしての優劣を競う重要な要素のひとつだ。


 だが、例外もある。


 一般的などの種族にも当てはまらない、珍しい個体。


 希少種(きしょうしゅ)伝説(レジェンド)タイプと呼ばれるモノたちがいる。


 多くが強大な能力を持ち、神話や伝説上の高位の存在が召喚される。

 しかし現代まで、彼らが使い魔となる理由はわかっていない。



「ん? お前は召喚しなくていいのか?」

「ああ、僕はいいんだ。ドコツカ持ってないし」


 ドコツカというのは、衛たちが使ったマジックアイテムのことで、『どこでもいっしょ使い魔カード』という意味らしい。

 カードに描かれた魔法陣には、使い魔を魔法で創り出した異空間に送る効果がある。


 これによって大き過ぎたり、周囲に影響を及ぼしてしまうようなモノでも、術者と一緒に行動ができるようになった。

 安全のための機能も付いていて、持ち主の身に危険が迫ると使い魔が自動的に召喚されるようになっている。


 このカードが発明されてから、公共の場や入学式のような催しでは、使い魔を召喚しないことがマナーとされるようになったほど広く普及している。


「持ってないのか? なら、使い魔はどこにいる」


 聞いてきた衛は驚いたようで、目を丸くした。


「ああ、それは……」

「きゃー! 避けてー!」

「「「え?」」」


 悲鳴を聞いて振り返ると、大猪が暴走しているのが見えた。


 恐らく魔獣タイプの使い魔だろうが、閉じ込められたことが不満だったのか、興奮して術者らしい新入生の制止をまるで聞いていなかった。


 周囲の人はギリギリで避けてはいるが、いつ怪我人が出てもおかしくない状況だ。

 ハラハラしながら見ていると、あろうことかそいつは僕らに向かって走り出した。


「おいおいおい、こっち来るぞあのデカいの!」

「ぬぅ」


 信二は見るからに慌てていたが、衛は迫りくる巨体を睨みつけていた。

 なにか手立てがあったのか、彼はおもむろに前に進み出ようとした。


 でも、ほんの少しだけ、僕のほうが早かった。


「術者の人! ドコツカ構えて!」


 正直、衛に任せればよかったとちょっとだけ後悔した。


 しかし、もう遅い。

 ここは僕がなんとかしなくては。


「アメ! 力を貸せ!」


 僕は右手を、暴走する大猪に向かって構えた。


 すると、体中からビー玉ほどの光の粒が湧き立った。光は蒼白く輝きながら、構えた右手に集まった。


「いけ!」


 僕の言葉反応して、光は大猪に向かっていった。

 そして、無数の光の粒は猪の周囲を囲み、円を描くように回り始めた。


 これで終了だ。


 光に囲まれた大猪は、かまうことなく地面を蹴った。

 鋭い角が、今にも僕の体に突き刺さりそうだ。でも、そうはならない。

 こいつがいくら走ろうが飛び跳ねようが、もうこの場所から動くことはできない。


 囲んだ対象が存在する場所を固定する。


 動きを封じるのではなく、今この時いる場所に縛りつけ移動できなくする。


 それが、僕の使い魔アメの力だ。


「おお!」


 信二たちを含め、周りから歓声と拍手が起こった。

 動きを止められた大猪は、放たれたドコツカの光から逃れられず、悔しそうに鼻を鳴らして消えていった。


 術者からお礼を言われ、ちょっと照れくさかったが、僕の心中は複雑だった

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