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レッツボランティア 『ゴミはゴミ箱へ』

 時刻は日付をまたいでいた。


 静かな夜の帳には涼しい風が吹き、空気の籠った部屋から出た僕たちを、優しく撫でてくれた。


 ドコツカから出た小太郎は眠たそうにあくびをし、アリエッタはそんな小太郎の上に乗って丸くなっていた。

 フォークスにいたってはなにをしても起きず、ムギさんが脇に抱えてハンドバッグ状態だった。


「うん、麻雀楽しい!」


 最後の最後に逆転を決めた僕は、上々な気分で公園へ歩いていた。


「くっそ~。次はこうはいかねぇぞ!」

「こっちだって。次はちゃんと勝てるようになるさ」

「慣れてきたら金賭けるからな」


 ムギさんが悪い笑顔を向けてきた。


「賭博反対です」

「そんなに多くは賭けないって」


 談笑していると、あっという間に公園へたどり着いた。


 にぎやかだった日中とは違い、声を失った暗い園内には、点在する街灯の光だけが不気味に浮かんでいた。

 時折吹く風が、生き物が通ったように草木を揺らした。闇を孕んだ公園は、謎の生き物が存在していてもおかしくないように思えた。


「さーて、正義のヒーロー。ボランティア部の到着だ!」


 少し身構えた僕と違い、ムギさんは昼間と変わらない明るさで声を上げた。


「なんか迫力に欠けるヒーローっすね」

「で、信二。謎の生き物はどの辺に出るんだ?」

「えーと、あそこ……あの繁み」

「……誰かいるな」


 衛が五十メートルほど離れた繁みを睨んだ。

 目を凝らすと、たしかに動く影が見えた。


「マジかよ」

「ま、まぁ、人の可能性のほうが高いじゃん? と、とりあえず衛行ってきて」

「ついて来い」


 嫌がる信二を引きずって、衛が歩き始めた。

 正直、僕も行きたくなかったが、なぜかテンションの上がったムギさんに背中を押されて、重い足を進めた。


 僕たちは、昼に昼食をとった場所で身を屈めた。ベンチと屋根があり、低い壁で丸く囲まれたこの場所は、謎の生き物から二十メートルほどの距離にあった。


「こっちに気づかないな」


 信二が声をひそめて言った。


「なにしてるんだろうな。繁みとあのオブジェが邪魔でよく見えん」


 公園のシンボルであり、長く雨風に晒された『勇者の像』が悲しく見えた。


「行ってみるか!」


 ムギさんが興奮気味に言った。


「マジっすか! 危ないですよ」

「だって、行かなきゃ謎の生き物かわからないだろう。大丈夫だって!」


 身を屈めたまま、ムギさんはそろそろと近づき始めた。


「ちょ、ちょっとムギさん!」


 仕方なく、僕たちもムギさんに続いた。


「ブ……ム……グ……」


 近づくと、鈍い音がした。

 いや、音というより鳴き声に近い。


 繁みの影で、なにかが、なにかをしている。


「……ヤバくね?」

「よし、帰ろう」


 自分から近づいたくせに、本物らしいとわかるやいなや、顔をひきつらせたムギさんは素早く踵を返した。


 カンッ


 その足に空き缶が当たり、気持ちの良い音を出して飛んでいった。


 この日は心底、掃除の大切さを学ぶ日になった。


「グアアアアア!」

「「「ぎゃああああ!」」」


 大気を揺らす雄叫びと共に、僕、信二、ムギさんが叫んだ。


 謎の生き物は、この目で見ても謎のままだった。


 黒い塊がデコボコとうねりながら肥大し、萎む。


 それを繰り返す物体を、果たして生物と言っていいのかさえ、疑問だった。


「アリエッタ、戦闘強化(バーサク・マテリア)!」


 衛の体が膨張し、魔力を纏った。


「ガアアア!」


 黒い塊の一部が触手のように伸び、僕たちに襲いかかった。


「永犬丸流印術、防火乃術弐式(ぼうかのわざにしき)鳴椀(おわん)!」

「オーンッ!」


 炎を纏った小太郎が高らかに吠えると、火がドーム状に僕らを囲み、触手から守ってくれた。


 触手を引っ込めると、塊は繁みの影に隠れるように萎んだ。


「逃がすか!」


 半裸の衛が弾丸のように繁みに飛び込んだ。


「衛!」

「フォークス・アタック!」


 この状況でも起きないフォークスを、ムギさんが思いっきり投げつけた。


「無駄です」


 なされるがままのフォークスを、衛が片手で受け止めた。

 戦闘強化を解いている。


「どうした、衛?」

「逃げられた。信じられんが、姿がない」


 僕らも慌てて駆け寄った。


 雑草がごっそり抜けていて、地面は荒れていた。乱暴に潰された植え込みが、痛々しく横たわっていた。


 が、あの生き物はどこにもいなかった。


 本来の大きさは知らないが、見たところ最大でレオーネ並に大きくなったし、触手も十メートルは伸びた。そんな巨体が一瞬で姿を消すなんてありえない。


 もし、瞬間移動の魔法なら、魔法陣とかなんらかの痕跡が残っているはずだ。

 しかし、それもない。

 自然界の生物で、そんなことができる生物がいるなんて聞いたことがない。


 いや


 あれはそもそも生物だったのか?


 あんな生き物、伝記でも見たことがない。現実ではない、小説の世界くらいだ。


 もしかして


 この世ではない、別の世界のものなのか。


 考えていると、全身の熱が引いていく感覚があった。途端に怖くなって思わず身震いした。

 その場に残った魔力のカスは、吸うと頭を揺らすような感覚があり、気持ち悪くて吐きそうになった。


 さすがに、みんな言葉が出てこなかった。


 フォークスのいびきだけが流れ、イラついた衛が地面に叩きつけた。


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