レッツボランティア 『大学生っぽいこと2』
「ロン! タンヤオ、ドラドラ!」
謎の生物が現れる深夜まで、僕たちは一人暮らしをしているムギさんの家で時間を潰すことにした。
ムギさんの家は言っていた通り、例の公園を望むことができる距離にあった。大学からは少し遠いが、車を持っているムギさんには、あまり関係ないことだろう。
全員揃うと、僕が持ってきたテレビゲームで白熱したバトルを繰り広げた。
意外にも信二はこういったゲームの経験があまりなく、終始悔しそうにしていた。日が沈み、ゲームにも飽きてきたとき、ムギさんが押入れから小さなトランクを取り出した。
「みんな、麻雀はできるか?」
テーブルに緑色のシートを広げ、トランクを開けた。
中には、使い込まれた麻雀牌が並んでいた。
「おっ、衛は経験者か!」
見ると、衛が黙って手を上げていた。
僕と信二は未経験だったので、驚いているとこれみよがしにドヤ顔を向けてきた。
「なんだぁ! その顔はぁ!」
「腹立つ~。ムギさん、教えてください!」
「はっはっは! いいだろう。衛も教えてやれよ? じゃあ、まずは牌の種類だけど……」
こうして手ほどきを受けた僕と信二は、やっと覚えた簡単な役を武器に経験者二人に挑んでいた。
ムギさんは、点数は低いが小さい役で細かく上がる。
自分が親のときはそれで継続するし、誰かが親のときは相手をイラつかせる。
衛は回数は少ないが、たまに上がると点がデカい。
誰かに振り込んでしまうこともあまりなく、さすがは経験者だと感心する。
同じ初心者の信二は、ゲームでの不調が嘘のように調子がよかった。
経験者の二人が手加減してくれているのかもしれないが、もう何度も上がっている。
一方僕は……絶不調だ。一度も上がれていない。
役が揃ったと思っても、勘違いだったりする。今だって、信二に振り込んで点を取られてしまった。
「麻雀面白い!」
「そうでもない」
「まぁまぁ、最初はそんなもんだって。信二はセンスがあったんだな」
「悔しいです!」
そばに置いていたペットボトルに手を伸ばし、お茶を飲んだ。
麻雀を始めてしまうと外食するのも面倒になり、アパートの近くにある自販機で飲み物を買って、夕食は宅配ピザで済ませていた。
「あれ? いづみちゃんからメッセージだ」
『やっほ~、みんな今日はおつかれさまでした。わたしたちも今、コメさんのおウチに泊まってまーす。女子だけでパジャマパーティー。いぇーい!』
添付されていた画像には、パジャマ姿のいづみちゃん、コメさん。
そして、恥ずかしそうに顔を赤らめたアキラちゃんが写っていた。
「「「「うおー!」」」」
男どもの雄叫びが響いた。
「これはいい! 三人ともベストショット、特にアキラちゃん!」
「いやいや見ろ。いづみちゃん、やっぱりでかいなぁ」
「保存だな。ロックかけて保存だ」
「いづみちゃん、グッジョブ!」
男子がフルテンションになったことを伝えると、アキラちゃんから短く『キモイ』とだけ送られ、少し冷静になることができた。
「よーし。じゃあ、次が終わったらそろそろ出るか」
ムギさんが時間を確認して言った。
「そうっすね。ま、このままだと晴人が負け越しなのは確定っぽいですけどね~」
「絶対上がってやる!」
自分の牌を並べながら、僕は固く決意をした。
が、現実はそんなに甘くなく、上がれない悔しさは続いた。
「いよいよオーラスですが、晴人さん今の気持ちは?」
「お前を殴りたい」
「まぁまぁ、まだ諦めんなよ。役満で上がれば逆転できるし」
「そんなに簡単じゃないけどな」
必死で頭を回転させて、知ってる役を目指した。
みんなが油断している今がチャンスだ。
絶対に上がって、みんなを(特に信二を)見返してやる!
そのとき、奇跡が起きた。
「やった! ツモ! えーと、トイトイ!」
「お~、やったな!」
「いや、まだだ。また役が揃ってないかも」
そんなはずはない。ちゃんと確認したのだから。
僕は自信満々に、手牌を倒した。
「え?」
「これは……」
みんなが黙った。まさか、本当に役が揃ってなかったのだろうか。
「晴人、これはトイトイじゃない」
衛の低い声が、せっかくの興奮を押し潰した。
「なんだよ~。じゃあ、またチョンボなのか?」
チョンボとは、さっきから僕がやっている、役が出来ていないのに上がったりすることだ。
不安な僕の正面で、衛はゆっくりと、首を横に振った。
「これ四暗刻。役満だ」
 




