レッツボランティア 『大学生っぽいこと』
日曜日。僕たちはボランティア部の活動で、町内の清掃をしていた。
内容を聞いて正直行きたくなくなったのだが、入部後初めての活動なので、僕たち五人は揃って参加した。だが、一年生は僕らだけだった。まぁ、内容が内容だし、来なかった奴らの気持ちもわかる。
参加率の悪さは例年のことらしく、ムギさんは「お前たちが珍しい」と笑っていた。
そんなことを言いながらも一番働いているムギさんとコメさん、それに数人の先輩たちで町内会の人たちとゴミを拾い集めていた。
「けっこうあるねぇ、ゴミ」
いづみちゃんが、湿ったお菓子の包みを拾いながら言った。
たしかに、思ったよりもゴミが落ちている。
学生街をはじめ、この辺りは見たところ整備も清掃も行き届いている。だが、いざゴミ拾いを目的に歩いてみると、必ずしもそうだとは言えなかった。僕らに渡されたゴミ袋は、川沿いを歩き始めて十五分でもう半分を迎えていた。
「っていうか、たばこの吸い殻多過ぎ。携帯灰皿くらい持てっての」
ひばさみを鳴らしながら、アキラちゃんが愚痴を吐いた。
公正なあみだくじの結果、僕たち三人と、信二と衛ペアに別れていた。信二はブーブー文句を言ったが、アキラちゃんに一蹴されて黙った。
「大丈夫? 晴人くん。重たくない?」
「うん。ありがとう、いづみちゃん。このくらい、まだまだ大丈夫だよ」
「さすが男子。まぁ、あそこまで、たくましくなくていいけどね」
アキラちゃんの視線の先には、川から引き揚げた古い自転車を楽々と運ぶ衛の姿だった。
「……さっすが~」
「……うん」
決められたコースを回り終えると、ちょうどお昼になっていた。
解散後、町内会の人からお弁当がもらえたので、僕たちは近くの公園で食事をすることにした。
この公園は敷地が広く、普段から散歩やジョギングに利用する人が多い。今日は日曜日だからか、子供連れが目立っていた。
「いただきまーす。いやぁ、意外に疲れたな」
信二がさっそく箸をつけた。
「そうだね~。でも、町がきれいになると気持ちいいよね」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
気がつくと、背後にムギさんとコメさんが立っていた。他の先輩は解散済みらしい。
「いやぁ、みんな助かったよ。はい、つまらないけどお礼」
ムギさんが一人一人にお茶を配ってくれた。
「ありがとうございます!」
「いいっていいって」
「それも町内会の人がくれたものだから」
コメさんのカミングアウトで、ムギさんの太っ腹が亡きものとなった。
「まぁ、とにかくボランティア部の活動って、こんな感じだから。あ、個人からの依頼だってあるんだぞ? 落し物調査とかいろいろ」
「また地味ですね」
聞けば悩み相談なんてのもあるらしく、ボランティア部というより、なんでも屋と言ったほうが合っている気がした。
「あ、そういえば知ってる? この公園の噂」
信二がエビフライを頬張ったあと、思い出したように言った。
「なに、それ」
「さっき町内会のおばちゃんが言ってたんだよ。一週間くらい前から、この公園で謎の生き物が目撃されるんだって」
「謎の生き物? どんな?」
「なんか、大きかったり小さかったり丸かったり歪だったり」
「本当に謎だな」
アリエッタにお弁当のリンゴをあげながら、衛が鼻で笑った。
「だって、そう言ってたんだもんよ。見た人によって違うんだけど、たしかに夜中に変なうめき声と生物が目撃されてるんだって」
「で、見た人がシルエットしか言ってないのはどうして? 生き物っていうんなら、見ればだいたい何なのかわかるでしょ。あたし、そういうハッキリしないの嫌いなのよ」
「アキラちゃん、目が怖いよ?」
「いや、それがね、影は見えるんだけど、近づくと消えるらしいのよ。いた痕跡はあるんだけど、姿は消えちゃってるんだって。だから謎なわけよ」
日向で寝ていた小太郎を撫でながら、信二はお茶を口に運んだ。
「うーん。それは気になるな……」
ムギさんが腕を組んで唸った。
「この公園、俺んちからも近いしな……よし、野郎ども! 今日は俺んちに泊まれ。謎の生物を調査しようぜ!」
「えー!」
「なんだよ、いいだろ? これもボランティアだ。住人の不安を無償で取り除く。これぞ、ボランティア精神。いやさ、ヒーロー魂!」
ムギさんは楽しそうに拳を掲げた。
おかげで子供たちから注目されてしまい、コメさんに叩かれた。
「よし、そうと決まれば荷物取ってこーい!」
「決定かよ」
「まぁ、楽しそうだからいいじゃん?」
「……まぁね」
こういうノリは、実はまんざらでもない。
「はぁ~。男って、なんでいつまで経っても子供なんだろうね。ねぇ、女の子二人は、これからどうする?」
「特に予定はないですけど」
「わたしも」
「じゃあ、私たちも遊びに行かない? 楽多駅前のクレープ、今日半額なんだよ」
「「行きます!」」
「けってーい」
なんだろう。
楽しそうなのはどちらも同じだと思うのだが、この男女の差はなんだろう。
昼食を食べ終わるときちんとゴミ箱に捨て、食べカスも残さず最後まで清掃に努めた。
「じゃあ、お弁当食べたし、そろそろ行こうか。召喚!」
コメさんはバッグから、虹が描かれたドコツカを取り出すと使い魔を召喚した。
現れたのは、蒼白い美しい毛に覆われ、鳥のような頭に大きな翼、馬のような体に鋭い爪が光る魔獣。ヒッポグリフのレオーネだ。
「じゃあ、みんなお疲れ。駅まで行くよ、レオーネ!」
「また明日~」
「レオーネ、出発進行!」
コメさんが手綱を引くと、三人を乗せたレオーネは澄んだ声を上げた。駆け出し、後ろ足で地面を蹴ると、日光を受けて輝きながら遠ざかっていった。
「なんか、負けた気がする」
「……気のせいだ」
華麗に飛び去った女性陣を見送ると、僕たちは泊まる準備をするためにそれぞれの家へ向かった。
……徒歩で。




