レッツボランティア 『初仕事』
「晴人~、さっきのノート見せて」
「また寝てたのか、お前」
入学から二ヶ月。
大学生活に慣れてきた新入生たちの中には、信二のように気が緩んだ学生が珍しくなくなっていた。
みんな最初は真面目だったはずなのに、先生の性格や授業の内容によって、受講態度を変えていた。
とはいえ、僕もあまり人のことを言えた立場ではなく、五月病が長期化したような気怠さがあった。
「僕も途中で眠たくなったから、字汚いぞ?」
「サンキュー、問題ないよ」
「じゃあ、いつも通り」
「ジュース一本で」
僕たちの間では、ノートを見せてもらう度にジュース一本を奢ると決めている。
それで怠け過ぎを防止しようとしているのだが、そのジュースが大学内の売店で売っている百円以下のものなので、ほとんど抑止力が働いていない。
「シンジ、あんまりサボってたらダメだぞ?」
「わかってるよ、小太郎。ほら、昼飯だ」
午前の授業が終わり、僕たちは食堂にいた。
僕と信二は、一番安い日替わりランチを。小太郎は、魔獣タイプ用の使い魔ランチを食べていた。
食堂は広く、座席数も多いのだが、大勢の学生が利用していて席を確保するのが大変だった。さらに、体長一メートル以下の使い魔なら食堂内で食べられることから、昼時になると学内で最もにぎやかな場所になる。
壁にかかった大きなテレビからは、昼のニュースが流れていた。
「みんな、おつかれ~」
「おつかれ。席取っててくれてありがとう」
僕らが談笑していると、アキラちゃんといづみちゃんがやってきた。
僕たちはとなりに置いていた荷物をどかして、席を譲った。
「あれ? 衛くんは?」
頭の上にマイモを乗せたいづみちゃんが首をかしげた。
「あぁ、なんか手芸部で使う材料を買いに行くってさ。なんだっけ? フェルト?」
「未だに想像つかないなぁ。衛くんが手芸してるとこ」
アキラちゃんがサラダを口に運びながら笑った。
「でも、この間手作りのコースター見せてもらったけど、すっごくかわいかったよ! 今度わたしにも作ってくれるって」
「へ~、そんなの作れるレベルなんだな」
「あたしも今度見せてもらおうかな」
「ん?」
後ろから肩を叩かれて、おもむろに振り返った。
すると、目の前にはニヤついたムギさんの顔があり、僕の頬には人差し指が押し付けられていた。
「やーい、ひっかかった」
「ウッザいですよ、ムギさん」
「あははは」
笑い声の主は、ムギさんの正面に座ったコメさんだった。
全然気がつかなかったけど、二人は僕のちょうど真後ろの席で、向かい合って食事をしていた。
「ムギさんお疲れっす!」
「コメさんも、おつかれさまです」
「ども」
それぞれが挨拶をした。
「あ、そうだ。みんな、今度の土曜か日曜、空いてるかな?」
「僕は大丈夫です」
「おれもいいっすよ」
「わたしも」
「あたしはバイトの面接があるんで、土曜日はちょっと」
アキラちゃんの言葉に、信二が素早く反応した。
「え! アキラちゃんバイトするの? どこどこ? なんの仕事?」
「まだ決まってないし、食いつき方がウザいから教えない」
「うぅ……」
信二がうなだれた。
見ている分には楽しいやり取りだが、まったくへこたれない信二の根性は、ある意味尊敬するものがある。
「オッケー。まぁ、詳しいことは、また連絡回すつもりだから」
「わかりました。急にどうしたんですか?」
「実はね、ボランティア部の仕事が入りそうなの」
コメさんの言葉に、信二が目を輝かせた。
「本当っすか! 初仕事だ、はりきってやりますよ!」
「あははは、元気いいなぁ、信二」
「さっきまで寝てましたからね」
すかさずツッコんだ。
「アキラちゃんは、日曜なら大丈夫?」
「はい、問題ありません」
「じゃあ、日曜日にするか。衛にも声かけといてね」
「了解です」
昼食後、僕らは衛と合流し、ボランティアのことを伝えた。
「うむ、了解だ」
色とりどりのフェルト生地を抱えた衛は、全然かわいくなかった。




