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GW 『楽多の母3』

「……なんだったんだ、あの人は」


 歩き始めた僕たちを、なんとなく沈んだ空気が覆っていた。


 限定的ではあるが、みんなの過去や知らなかった一面を知ることができた。

 しかし、必ずしもいいものだったとは言えない。すっきりしない、モヤモヤしたものが残る。でも、これ以上踏み込めないもどかしさがある。


 僕らはまだ、それほど仲を深められてはいない。


 それをみんなわかっているのだ。


 そもそも、別れ際にあんな気になることを言うようなあの占い師の性格が悪い。


「……ね、ねぇアキラちゃん。あの、アキラちゃんってさ」


 腫れ物に触るように、いづみちゃんが聞いた。


「一人っ子だよね?」

「え!」


 信二が思わず声を上げた。


「ううん。いづみが知らないのも無理はないよ……実はね、あたしは双子だったらしいんだ。でも、生まれてすぐに兄さんが死んじゃったんだ。うちでは、いつもあたしの誕生日に兄さんの弔いもしてるんだよ。親戚とはほとんど会う機会がなかったし、わざわざ子供に教えることでもないしね。たぶん、従姉妹で知ったのはいづみが初めてじゃないかな?」


 本当に驚いた。


 あの占い師は、従姉妹のいづみちゃんも知らないことを言い当てたのだ。鳥肌が立つと同時に、あの占い師が本物であることを改めて痛感した。


「そうだったんだ……ごめんね、掘り返すように聞いちゃって」


 いづみちゃんは涙ぐんでいた。


「いいよ。むしろ、気にしてくれてありがとう。でも、だからこそ驚いたんだ。あの占い師、家族しか知らない兄さんのことを言い当てたから」

「お嬢……」


 砂状化したヨイチが心配そうな声で呟いた。


「っていうかさ、晴人の占いだけ適当だったよな!」


 思いついたように、信二が僕をいじり始めた。


「あぁ、たしかに」

「うっせ! そんなの僕は悪くないだろ!」

「ほらほら、これも楽しまないとダメだよ?」

「アキラちゃんまで~」

「あはははは!」


 ……まぁ、みんなに笑顔が戻ったから、これはこれで良しとするか。


「それにしても、不思議な人だったよな。目が合うだけでこっちがなに考えてるのか、わかってるみたいで。おれのほうも、なんとなく向こうの言いたいことがわかるんだよな。テレパシーが来てたわけじゃないんだけど」

「うん。しかも、あのときは気づかなかったけど、なんらかの結界が張られていたんだと思う。いつの間にか周りが静かになってたし、誰もこっちを見ようともしなかった。あの空間だけ切り取られてたみたいに」

「あれが、楽多の母か」


 衛が腕を組んで唸った。


「なんだか、思ってたのと違ったけど、都市伝説じゃなかったんだ~」

「そんなにレアだったんだ?」

「うん。おばあちゃんが若い頃からいるんだって」

「え?」


 衝撃の事実に、みんな言葉を失った。

 僕の印象では、三十代くらいに見えたんだけど。


「じゃ、じゃあいくつだ? あの人」

「いや、そもそも人間か?」


 再び、沈黙が訪れた。


 やがて目的の店に着いた。


 パスタは美味しかったけれど、みんなの頭の中は楽多の母でいっぱいだったと思う。不吉な影っていうのも、なんのことかわからず、不安になるばかりだった。


 楽しめと言ったくせに、あの人のせいでディナーが全然楽しめなかった。

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