GW 『楽多の母2』
「さぁ、次は誰を占おうかしら?」
「じゃ、じゃあわたしで」
いづみちゃんが緊張した面持ちで進み出た。
「はい。じゃあ、百円いただくわね……だいぶおっとりした性格ね。それが貴女のいいところではあるんだけど、今までは周りの人がカバーしてくれていたのね。でも……そうね、これから今までと同じでは解決できない試練が起きるわ」
「えっ」
いづみちゃんは泣きそうな顔で、占い師を見た。
「いつ……というのは言わないでおきましょう。そのとき、貴女は他人の力に頼るのではなく、自分の力を試されることになるわね。自分と、自分の大切な人を守る強さを持ちなさい。そういう意味では、さっきのお嬢さんと一緒にいるのは、いい刺激になるでしょうね。従姉妹同士、仲良くやりなさい」
「は、はい!」
いづみちゃんが後ろに下がると、信二がためらいながら前へ出た。
「なんだよ、急に萎れちゃって」
「い、いや、アキラちゃんの見ちゃうと、どうも……」
「シンジ?」
足下の小太郎が心配そうに見上げた。
「ふふふ。大丈夫よ、視えたものを詳しく口にはしないわ。彼女のときは、例外よ」
占い師はアキラちゃんを指さした。
だいぶ落ち着いてきたアキラちゃんは、苦々しく指先を見つめた。
「そ、そうっすか? なら……はい、百円」
信二は手を台の上に置いた。
「……へぇ~、ずいぶんと立派なお家に生まれたのね。……あら、なるほどね、ふ~ん……」
なにが見えているのかはわからないが、占い師はしきりに頷いては信二の顔を見ていた。
「貴方は、今のままでいいわ。今まで出来なかったことを、思い切りやりなさい。それが、運命を乗り越える力になる……なんのことを言っているのか、わかっているわよね?」
「はい」
いつになく、信二の顔つきが真剣だった。
「うん。それでいいわ。じゃあ、どうする? そっちの大きなお兄さんも視てあげましょうか?」
衛がぶっきらぼうに進み出て、台の上に百円玉を置いた。
「よろしく頼む」
「はいはい……あら貴方、見かけによらずかわいい趣味があるのね。今時、女の子でも手芸なんてできない子が多いわよ?」
心の中で、これを言い当てるのは本当にすごいと思った。
「……あら、こっちは言っていいのかしら?」
占い師は衛の顔を見上げた。
「いや、よしてくれ」
テレパシーでも使ったのだろうか。
衛には言葉の真意が伝わったらしく、低い声で答えた。
「わかりました……うん、残念ながらまだ貴方の願いは叶えられそうにないわ。でもね、鍵になるものは貴方の近くにある。それを見つけなさい。鍵さえ見つければ、願いは叶うでしょう」
「……了解した」
ついに僕の番が回ってきた。
なんだか、みんな神妙な面持ちになっているから、本音を言えばあまり視てもらいたくない。でも、僕以外の全員が終わった今、そんなことは言えないだろう。
「はい、では最後の貴方。いらっしゃい」
僕は百円玉を渡し、右手を差し出した。
ひんやりとした指が触れると、頭の中を冷たい球が駆け巡るような感覚がした。
「さて、どれどれ~……えっ?」
ゆったりとした態度から一変、弾かれたように僕を見上げた。
「……貴方は……まさか……本当に……」
かと思いきや、すぐに先ほどのように占いを再開し、なにやら呟き始めた。
というか、僕のときだけ異様に長い。他の四人のように語らず、しばらく独り言が続いた。
「あ、あの。僕は?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと面白かったから、つい」
占い師がとぼけたように舌を出して、首を傾けた。
つい、じゃねぇ。
「貴方、本当に面白いわ。これから、どんどんトラブルに巻き込まれていく人生になるでしょうね」
「いや、それ全然面白くないんですが」
「ふふふ、大丈夫よ。死にはしないわ。まぁ、苦労はするでしょうけど」
こちらの心情など気にせず、占い師は本当に楽しんでいる口振りだった。
「でも、楽しむことよ。それが貴方に定められた運命でもある。楽しみなさいな」
どうも腑に落ちない言いぐさだった。
しかし、占い師はそれ以上語ろうとせず、僕の占いは終わったようだった。
「……わかりました。とりあえず、キャンパスライフを謳歌しますよ」
「うん、それでいいわ」
「それじゃあ、ありがとうございました」
「ええ、今日はここまでにしましょう。貴方たちを見るのは面白いわ。また会えたら、そのときはもっと細かいことを教えてあげる」
正直、もう一度会いたいとは思わなかった。頭を下げて、占い師の下を去ろうとした。
「あ、言い忘れてたけど、みんなを不吉な影が覆ってるから気をつけてね」
「へ?」
振り返ると、占い師の姿は消えていた。
そして今までなぜか途切れていた喧噪が蘇り、僕たちを包んだ。




