GW 『楽多3』
「ねぇ、ちょっとお腹空かない?」
恥ずかしいのか、いづみちゃんがもじもじしながら言った。
時間を確認すると、午後1時を過ぎていた。ドーナツを食べたとはいえ、たしかになにか口に入れたくなっていた。
「お昼にしようか。来るときファミレスあったけど、あんたどうせ行ったことないんでしょ? せっかくだから、そこにしようよ」
「アキラちゃーん!」
勢いで抱きつこうとした信二だったが、煙のように現れたヨイチに止められてしまった。
「ふふふ。甘いでござるよ、信二殿。お嬢のCカップは拙者が守るでござぐはあ!」
余計なことを口走ったヨイチは、後頭部に強烈なげんこつを食らってしまった。
ヨイチはうずくまり、悶絶して震えている間に問答無用でドコツカにしまわれた。
「みんなは、なにも?」
「「「聞いてません」」」
今までで一番怖い顔のアキラちゃんに、僕と信二はもちろん、衛も即座に反応した。正直、ガゼルよりも怖かった。
「……よし、行くよ」
僕たちは乱暴に歩くアキラちゃんのあとに、身を小さくして続いた。
ファミレスに着くと、僕らは努めて、何事もなかったかのように振舞った。が、罰なのかヨイチだけは昼食抜きになっていた。
信二はここでも元気にテンションを上げていた。喜び方が子供みたいで、見た目もあって同級生には見えなかった。
よほど気に入ったようだったので、店を出るときにもらったドリンクバーの券をあげると、跳んで喜んだ。
「あー、うまかった! そして安かった!」
「元気だなぁ、お前」
「さてと、今からどうしようか」
「あ! ごめん、みんな。お母さんに伝球買ってくるように頼まれてたの! 買いに行ってもいいかな?」
声を上げたいづみちゃんが、申し訳なさそうに僕らの顔を覗いた。
「いいよ、そのくらい」
僕の言葉に、みんなが同意した。
「ありがと~。じゃあ、家伝量販店に行こう」
いづみちゃんについて行くと、これまた大きな建物にたどり着いた。
「うひょー、これはまた」
「あ、あたしもモバイルバッテリー見たいな」
「ついでだし、ここも見て回ろうか」
店内は家族連れなどで人が多く、呼び込みの声もあってにぎやかだった。
視界の外を走る子供に注意しながら、商品を見て回った。ちなみに、人が多いので使い魔たちはドコツカの中に戻されている。
「あ! このカメラ、ムギさんが持ってたやつだ」
信二の視線の先には、たしかに見覚えのあるカメラが並んでいた。
「ん? なんか聞いてたのより三割くらい安いような……」
カメラは激安セールで叩き売りされていた。
たしかムギさんは、新歓コンパのために先月買ったばかりだと言っていた。なんだか、不憫になってきた。
「……このことは黙っていよう」
「うん」
「だな」
目の前の現実は、胸にしまっておくことにした。
「あ、あった!」
いづみちゃんが嬉しそうに駆け出し、商品の前でちょこんとかがんだ。
立っている僕からは、ちょうど谷間が見えてしまった。無意識に見てしまったのはもちろん男の性だけど、背後から感じたアキラちゃんの殺気は女の怖さをこの身に感じた。
「最近のって省エネなんだよね~。魔力代が全然違うらしいし」
「自分の魔力で補う人もいるらしいけど、結構キツイよね」
「だね。こんなモバイルバッテリーが限界だよ」
「アキラちゃん、いつの間に」
「そこにあったから、ついでに選んでた」
アキラちゃんは手に持った商品を僕らに見せ、背後の陳列棚を指さした。
伝化製品は、魔力を動力源とし、固定化された魔術回路が組み込まれている。
魔力を伝えて動くから伝化製品という名前だ。
「わ~、アキラちゃんかわいいの選んだね」
ピンクの下地に、小さなリボンが散りばめられたデザインは、たしかにかわいらしかった。
「ま、まぁね」
照れながら視線を逸らすアキラちゃんは、普段見せない可愛らしさがあった。
「なぁなぁ! あっちに家庭用のプロジェクターあるってよ! 見に行こうぜ!」
思わず見惚れそうになっていた僕を、信二の無邪気な声が攫っていった。
「マジか!」
でも、こんなノリも悪くない。
ぐるりと店内を回り、僕たちは外に出た。
信二はなにか買いたくて仕方なかったみたいだが、財布の中身がついて来ないようで泣く泣く諦めていた。
「あのカメラは買う!」
「マジかよ。ムギさんと被るぞ?」
西の空が金色に輝いていた。
これからゆっくりと広がりながら、赤みを帯びていくのだろう。
「もうこんな時間か」
「はやいね~。じゃあ、来たときとは違う道で駅まで戻ろっか」
相変わらず人通りは多かったが、ぽつぽつと店先に明かりが点り始めていた。
帰り道には飲食店が多く並んでいて、それぞれがたまらんばかりの魅力を携えて、食欲を刺激するいい匂いを届けてきた。
「腹減ったな」
「うん。この匂いは卑怯だ」
「あはは。うーん、晩ごはんなにか食べたいものある?」
「あたしはなんでもいいよ」
「僕も」
「オレも」
「俺もだ。ただ、できれば使い魔も一緒に入れるところがいいな」
衛の肩に乗ったアリエッタが「キュイ!」と高く鳴いた。
信二の足下で、小太郎が「おれもそれがいい!」と叫んだ。
「そうだね~。わたしもそんなに詳しいわけじゃないんだけど、駅の近くなら行ったことがあるお店があるよ。パスタのお店なんだけど、使い魔のメニューも多いよ。美味しかったし」
「じゃあ、そこで晩ごはん食べようか」
「さんせー!」
「ちょっと、そこのお兄さんたち」
耳元で囁かれた気がして、思わず飛び退いた。
シャッターが閉まり、テナント募集の広告が貼られた店舗の前に、淡い光に照らされた女性がいた。
両腕を乗せるのがやっとの台を机替わりにし『占い』と書かれた垂れ幕と、提灯を下げている。
女性は色とりどりの石が付いた装飾を身に着け、紫色のローブを被っていた。
紅い口紅で彩られた唇が、ほんのりと笑みを浮かべていた。




