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入学 『大・中・小』

「えー、これからみなさんは、この繋文大学(けいぶんだいがく)の学生として……」


 檀上で学長が単調な口調で話しているのを拝聴している。


 無駄に韻を踏んでみた。

 暇になってしまった。


 親は保護者席にいるため、僕の周りは見ず知らずの新入生しかいない。

 もちろん、式の最中に話しかける度胸はない。


 だがこの大学生活、なんとしても「ぼっち」だけは避けたい。

 そんなことを考えているうちに、早々に集中力が切れてしまったのだ。


 僕の右には、小柄な男が座っていた。


 童顔なのもあってか、年下にしか見えなかった。床に着いていない足を揺らしながら、嬉しそうに目を輝かせている。


 左には、対照的に巨体の男が座っている。


 真剣というか不愛想というか、近づき難い表情で腕を組んでいる。


 とにかく一言で言うと、怖い。


「ねぇ、きみ」


 まさか自分に声をかけているとは思わなかった。

 声の主は、右の男だった。


「おれ、永犬丸信二(えいのまるしんじ)っていうんだ。よろしく!」

高若晴人(たかわかはると)です。こちらこそよろしく」


 ぼっち回避! 友達一人目!


 平静を装ったが、心の中では激しくガッツポーズをしていた。


「ですって他人行儀だなぁ。仲良くしようよ、友達一号。あれだろ? きみもとっくに集中切れてたんだろ?」

「な、なんでそれを?」

「おれは集中力が切れてる奴は、匂いでわかるんだ!」


 彼は人懐っこい笑顔で言い切った。


 なかなか面白い奴のようだ。嫌いじゃない。


「おい」


 鼓膜を揺らす野太い声がした。


 印象通り、左の大男だ。彼は表情を崩さず、じっと僕らを見つめた。


「あ、す、すいません。うるさくて」

「俺も集中切れてる。まぜろ」

「ぶはっ」


 不意を突かれて笑ってしまった僕は友達二号、本城衛(ほんじょうまもる)を得ることができた。


 僕たち三人、並びはきれいに大・中・小だ。


「よっしゃ! やっと解放された」


 すべての説明が終わると、帰省する母さんに別れを告げ、僕は出会ったばかりの友人たちと屋外へ出た。

 

 改めて見るキャンパスは、僕の住んでいた田舎よりも舗装が行き届いていて、建物もきれいだった。


 敷地内には、入学式だということを除いても独特の空気が満ちていた。

 キャンパス内がひとつの町というか、別の世界に来てしまったように感じる。


「よーし! 待ちに待ったサークル勧誘の時間だな。見て回ろうぜ!」


 信二は一段とテンションが高かった。

 心からのわくわくが、こっちにまで伝わってきた。


「待て。その前に出していいか? 機嫌が悪くなる」


 衛が、胸のポケットから濃い紫色のカードを取り出した。


「あ、すっかり忘れてた。んじゃあ、先に出すか!」


 信二も、ポケットからカードを取り出した。

 衛の物とは違い、こちらは白地に赤いラインが数本入ったデザインだ。


「「召喚!」」


 二人が同時に叫んだ。


 地面にかざしたカードから魔法陣が浮かび上がり、光を発した。


 次の瞬間、衛の目の前には耳の大きな手のひらに乗るくらいの動物が、ちょこんと座っていた。


「え! 衛の使い魔? 本当に?」


 くりくりとした目を僕に向けると、使い魔は慌てたように衛に駆け寄り、差し出された手を上って肩に乗った。


「あぁ。正真正銘、俺の使い魔だ。宝石獣(カーバンクル)のアリエッタだ」


 アリエッタは、僕を怖がっているのか衛の影に隠れていた。


 潤んだ瞳と額の紅い魔石が、チラリと見えると慌てて隠れる。

 白く短い毛に覆われて、大きな耳とリスのような顔。ウサギとリスの中間のような姿だ。


 かわいい。


 ゴリラみたいな衛に似合わない。


「あれ? 信二はどうした?」


 言われてみれば、同時に召喚したはずの信二の姿がなかった。

 使い魔の気配もない。


「うおおお!」


 と、思ったら辺りを全力で走り回っていた。


「なんだよ、おい! 離せバカ!」


 芝生に建てられたオブジェを回って、やっと僕たちのところへ戻ってきた信二は、お尻を小さな日本犬に噛みつかれていた。


「なんだよ、小太郎(こたろう)! いきなり噛むな!」


 小太郎という名の犬は、信二から離れると牙をむき出しにして吠えた。


「シンジ! おれを忘れてたってどういうことだ! ひどいぞ、ちゃんと中で大人しく待ってたのに」


 小太郎は泣きそうな目をしていた。


 これだけだとかわいいが、ズラリと並んだ鋭い牙を見てしまうと、手放しで愛でることはできそうにない。


「ほう。人語が話せるのか」


 衛がアリエッタを撫でながら言った。


 使い魔には人の言葉を話せる個体と、テレパシーなどで意思の疎通を行うものがいる。


 アリエッタと小太郎は同じ魔獣タイプの使い魔だが、コミュニケーションの取り方に違いがあった。


「キュイ!」


 アリエッタが高い声で鳴いた。どうやら、小太郎に挨拶をしたようだ。


「おう! おれは魔犬(まけん)の小太郎っていうんだ! よろしくな」


 小太郎は尻尾を振って応えた。


「悪かったよ、小太郎。あとでジャーキーやるから」

「小さいのはダメだぞ! 大きいのだからな!」

「わかったよ」


 信二が頭を撫でると、小太郎は嬉しそうにすり寄った。


「カーバンクルかぁ、初めて見た」


 アリエッタを指で撫でながら、信二が珍しそうに言った。


「そうか? 地元には他にもいたけどな」

「同じ種類でも、こんなに愛らしさが違うんだな。やっぱり、種族の差はでかいなぁ。精霊タイプのピクシーとか、機械(マシナリー)タイプのゴーレムとか、他の種族の使い魔も見てみたいって痛あぁ!」

「なんだよ! おれじゃ不満なのか!」


 信二は再び噛みついてきた小太郎の牙に悲鳴を上げ、涙目になっていた。


「大丈夫か?」

「な、なんとかな……小太郎さん、ジャーキー奮発しますから離して……」


 見ると、あちこちで使い魔の召喚が行われていた。

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