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GW 『楽多』

「うほー! 都会だ都会だ!」

「はしゃぐな、恥ずかしい」


 はやいもので、入学から一か月が経とうとしていた。


 授業の選択など、わからないことだらけだったこの一か月は忙しく、あっという間に過ぎていった。でも、楽な授業を先輩に教えてもらったり、みんなで協力しながら今のところ問題なく過ごせている。


 心に余裕が出てきた、ゴールデンウィーク二日目。


 僕たち五人は、いづみちゃんの案内で大学から五つめの駅である楽多(らくた)という場所に来ていた。


 ここは大学の近辺とは違い、人の熱気と活気が溢れていた。

 所狭しと並んだビルディング。おしゃれなお店。あらゆる方向から流れる音。避けるように行き交う人々。


 大学の周囲が悠々と広がる庭のようであるのに対し、ここはいいと思ったものを詰め込められるだけ詰め込んだ、おもちゃ箱のように思えた。のんびりと眺めるのではない、目移りする魅力がいっぱいだった。


 新歓コンパはひと悶着あったけど、僕たちは揃ってボランティア部に入部した。


 ムギさんたち先輩方は、大げさに喜んで歓迎してくれた。

 他にも何人か一年生が入部したが、その中に金髪豚野郎の姿はなかった。鬼塚が約束を守ってくれているようだ。


 この楽多という土地は、昔から歓楽街として発展してきたらしい。名前からして、なるほどと納得した。

 地元の若者が遊ぶならここが定番らしく、新生活を始めた僕らのために、いづみちゃんが計画してくれた。飲み屋街もあり、一日中明かりが消えることはないという。まさに、楽しいことが多い場所なのだろう。


 電車内や駅などでは、使い魔はドコツカに入れておくのがマナーのため、ここに来るまでに使い魔を見ることはほとんどなかった。

 だが、駅を一歩出ると景色は人と使い魔で埋め尽くされ、見たことのない規模の往来に圧倒されてしまった。


 開口一番で叫んだ信二ほどではないが。


「そんなこと言ってもよ、こんなに高いビルとか初めて見たもん。駅だって、繋文大前の十倍はありそうじゃんか」

「だな!」


 信二はよほど田舎から出てきたらしく、尻尾を振る小太郎と一緒に初めて見る都会の景色に興奮していた。

 一番小さいくせに、テンションの高さは頭一つ飛び出していた。


「えへへ、すごいでしょ!」


 いづみちゃんが嬉しそうに胸を張った。

 たわわなものが二つ、男たちの視線を集めた。


「……どこ見てんの?」


 アキラちゃんの声に冷や汗が流れた僕たちは、慌てて街に視線を戻した。

 じゃれてきたマイモに構っていたいづみちゃんには、幸い気づかれなかったようだ。


「さてと、とりあえずその辺ぶらぶらしてみる?」

「賛成!」

「おっけー。じゃあ、この先に大きな雑貨屋さんがあるから、そこに行ってみよう。近くに本屋さんもあるし、手芸の道具売ってるところもあるよ、衛くん」


 衛の顔が、嬉しそうにほころんだ。


「やっぱりさ、衛くんってかわいいところあるよね」

「「「全然似合わないけどな!」」」


 僕、信二、小太郎がハモった。


 信二には偉そうなことを言ったが、僕もそれなりに興奮している。

 地元にも遊びに出かける定番の場所はあったが、ここまで大きくはなかった。

 

 進むたびに内容が変わる飲食店の匂いや、人と使い魔の途切れることのない声。

 お洒落な店や、高級店からは嫌でも敷居の高さを感じてしまう。

 僕も目移りしすぎて目が回りそうになっていたが、信二と小太郎は二回ほど車に轢かれそうになっていた。


 ふと空を見上げると、伝線(でんせん)と建物で空が狭かった。


 でも、不思議と窮屈に感じることはなく、むしろ凝縮された青空に手が届きそうな気さえした。

なんてことを思っていると、前から歩いてきた人とぶつかりそうになって、慌てて視線を戻した。

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