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勇者タカユキと悪魔の薬~異世界パンツ英雄譚2~  作者: 月見七春
第二章 再びの港町、海賊娘、白鯨
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第八話

 08------>>




 町外れに手押し車が手配される。

 クラリスの威光は彼女がぷちなホムンクルスになろうと決してくすんだりしない。

 騎士たちが勢揃いで見送る構えを示す中、俺たち勇者一行はふたりのぷちを見守る。


「それじゃあクラリス様、お願いします」

「かしこまりましたわ!」

「タカユキ、またね? おやすみなさい」


 手押し車にのっかった途端にまるで力尽きたようにくたっとするクルルぷち。

 まさかの手押し車を押す役はクラリスぷち。

 なぜか三度笠をかぶり縞合羽を纏っている。

 なんだろう。風来のクラリス?

 ぷちがつくけど。

 迷宮探索ゲームかな?


「く、クラリス……その格好は?」

「クルルの提案で急きょ用意させましたの。東の国ではこれが旅をする格好なのです! クルルがクルルぷちから離れた時、無防備になるクルルぷちをこうして運ぶのですわ!」


 どやあ、とちっちゃなクラリスが主張してくる。

 可愛いんだけども。可愛いんだけどもさ。


「なんでその格好なん?」

「なにやら東の島国では、悪事を裁く正装だそうです!」


 せやろか?


「お忍びで悪事を調査する王族の私にぴったりな格好ではありませんか?」


 どないやねん。

 自慢げなところ悪いんだけど、王族推しでいくならさ。

 むしろ市中にまぎれる何気ない格好の方がいいと思うし、お付きの者が何人か必要だと思うぞ。うっかりとか超強い奴とかお色気要員とかな。

 なんでそう思うのかよくわからないけど!

 嫁が楽しんでいるのなら、水を差す必要もない。

 クルルもこういうのがすげえ好きだからクラリスに提案したんだろうしなあ。


「いかしてる。超似合ってる。さすがクラリスだな。ちなみに攻撃はどうやるんだ?」

「えっと、まず虚空からたるを出します」


 ……ん?


「それを投げるんです!」


 ん? ん? ん? 待って? え?


「それ世界観がちょっと変わってこない? なんていうか、その。クラリスの錬金してるとこ見てなんとなく察してはいたけども。大釜をぐるぐるかき混ぜているところからなぁんとなく察してはいたけども。え? たる投げるの? なんで?」

「たーるっ」


 どや顔? なぜ? なぜに可愛い声で言う? どや顔なぜ!?


「いやわかんない。待って。確かに俺の連想しているところのとある創作物に出ている子達はみんなそんなノリで言いますけども。え? そこ? 敢えてのそこ? 会社名が霧みたいな感じ?」

「うにー!」


 あたりだね! 大正解だね!


「やめて! もうやめて! こわい! 全力でかぶせていくそのスタイルが怖いやだやめて! わかった! もう突っ込まないから!」

「えへへ」


 照れるポイントがわからない。

 知らないところが山ほどあるなあと気づかされてばかりいる。


「ちなみに極めると両手パンですごいことができます」

「クラリスぅうううう! もうやめてぇぇええええ!」


 それ絶対アウトな奴だから!

 さんざん騒いできゃっきゃはしゃいでから、クラリスぷちたちを見送るのだった。


 ◆


 ジャックとアメリアが息を呑む中、俺とペロリはコハナを見守る。

 ジャックの家で眠るリコの顔色は青白くて、とても健康そうには見えない。

 彼女の唇をそっと押し開いて、コハナが水差しを傾けた。

 その中には黄金の液体が入っている。

 白鯨から取り出した黄金の結晶と、コハナが指示をして集めたハルブにあった果実から抽出した液体なのだそうだ。

 味付けなどを整えて出来た珠玉のジュースらしい。

 すげえうまそうなんだが、果たして効果はあるのか?


「どうぞ――……飲んで」


 慈愛に満ちた囁きと共に注がれる液体がリコの口中に僅かに注がれた。ほどなく、リコの喉から飲み込む音が聞こえた。


「ど、どうなんだ!」「なんともならないんじゃあお話にならないよ!」


 親二人へと微笑みを向けて、コハナが囁く。


「彼女はまだ、死ぬ運命にはありません。決してね。コハナが約束いたしますよ」


 その言葉はコハナが死神だと知る俺にとっちゃ勝利フラグのようなものだ。

 リコの目が薄らと、だが確実に開いていく。

 おお、と声を上げようとした俺たちの前で突然がば! と起き上がった。


「「「「 おっ、おう? 」」」」


 みんなで一斉にアシカみたいな声だしちゃったよ、おい。

 そんな俺たちの前でリコの顔はみるみる真っ赤に染まっていく。

 だばあと鼻血が凄い勢いで出た。そして白目を剥いて倒れてしまう。


「お、おい! 大丈夫なのかよ!」


 ジャックが慌てる一方で、アメリアは呆れた顔をしてコハナを睨んだ。


「なるほど。こいつはよっぽど強い気付け薬だね……メイド、何を混ぜたんだい?」

「えっとぉ」


 ジュースの残る水差しをベッド脇の小机において、コハナが頬に指を当てる。


「ローヤルゼリーとぉ、スッポンの生き血とぉ、マカ。あとはぁ、ハブとマムシのエキスにぃ――」

「コハナ、それ精力剤やんけ」

「くふ★」


 手元を手のひらで隠して、けれどあふれんばかりの笑顔。

 そっと水差しを身体で隠して、もう片手を背中に回しているのはなんでかな?


「まあ今晩は悶々とするでしょうけど、気付けにはなります。後遺症もありません。なにせ死神印の精力剤デスから★ 止まった時も動かす欲望の味ですよ?」


 そういうノリで解決しちゃうの!?


「やっぱり精力剤じゃねえか!」

「まあまあ、これで大丈夫なのは本当ですよ? あとは体力が落ちているせいもあって、明日あたりは一気に疲れちゃうと思います。起きたとしても安静に寝かせてください」

「やれやれ。妙なことばかり続くね。ありがとよ……あとな? 隠すまでもない。その液体は、あんたたちがもっていきな」

「ありがとうございまぁす★」


 アメリアに満面の笑顔を浮かべて水差しを抱えるコハナが不穏でしょうがない。

 なにに使うつもりか確かめてもごまかされてしまう。

 ああだこうだと話しながら宿に移動した頃にはもう、すっかり良い時間になっていた。

 星空はこの世界に来て良かったと思える要素の一つだな。

 星座から何から元いた世界と違いすぎるのか、それとも元々俺に星座に対する思い入れも知識もないのか。

 ただ綺麗。俺の語彙力ってなんなん……?


「お月様、もっと早く丸くなればいいのにね」


 妙に切なそうな声をペロリが出すので見たら、彼女は欠けた月を見ていた。


「どうした?」

「さあね!」


 舌をべーっと出してから、走って宿の中に入ってしまう。

 ペロリはいったい、満月のなにを気にしてるんだ?


「くふ★ くふふふ★ いいデスねえ、いいデスねえ★」


 コハナもなんなの?

 ペロリの背中をにやにや見つめて。

 色々と前の旅と勝手が違うから戸惑いしかないよ!




 つづく。

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