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勇者タカユキと悪魔の薬~異世界パンツ英雄譚2~  作者: 月見七春
第八章 今日から僕らの共和国
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第七十四話

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 執務室でうろうろする俺をルカルーが呆れた顔でたしなめる。


「もう少し落ち着いたらどうなんだ」


 そう口にした彼女のお腹は少し膨らんできていた。


「そうはいうが」


 立ち止まってもじっとしていられずに腕を組み、つま先で床を叩く。

 すかさずナコが開いていた本を閉じた。


「クルルじゃないんだから、やめて。気になる」

「でもだな」


 窓の外を見た。暗い。雨風は吹いちゃいないが、さりとて安心できるわけでもない。

 魔界から進呈された時計の時刻は既に深夜零時を過ぎている。

 ああ、落ち着かない。落ち着かないぞ。


「なんでよりにもよって二人の出産日が重なるんだよ!」

「ある意味仲良し」「違いない」


 俺の悲鳴に二人は顔を見合わせて、揃ってため息を吐いた。

 けど、俺にはそんな余裕すらない。ああもう。ああもう。


「やっぱり無理してでも部屋に入れてもらえばよかったんじゃないか?」

「そうそ。コハナとペロリとクロリアに任せっきりにしないでさ。立ち会いたかったんだろ?」


 二人に言われた言葉に頭を振った。


「だめだ。二人がすげえ嫌がった」

「……ルカルーなら立ち会って欲しいが」「どうかな。今まさに出るってところを見られるのは、ちょっと気が引けるかも」


 人による、ということなのだろうか。ううむ。ううむ。

 どうするべきか、悩んだその瞬間だった。

 雷が落ちたのだ。

 次いで駆け足で執務室の扉を開ける者がいた。


「産まれたよ!」


 ペロリだ。エプロン姿で両手も服も血で汚れている。

 そんなんなっちゃうの、と怯む俺だが。


「お兄ちゃん、早く!」


 ペロリに背中を押されて、急いで客間へ。

 二つのベッドを並べて山ほどのタオルと熱湯が用意されたそこで、クルルとクラリスが球の汗を掻いてぐったりしていた。その頭のすぐそばに、いた。


「――……、」


 声が出なかった。俺の代わりに二人の赤子が泣いていたのだ。

 ペロリ同様の姿で歩み寄ってきたコハナに背中を押されて、二人のベッドへと歩み寄る。

 クラリスのそばにいたクロリアが憔悴しきった顔で微笑み、俺に頷きかけた。

 赤子を見る。


「元気なお子さんですよ」

「二人同時に産まれたの!」

「……どちらも母子ともに健康だ。安心して……抱いてやれ」


 胸が詰まる思いで、いてもたってもいられない。

 叫び出したいのに、そうしたらすべてが壊れてしまいそうで、怖くてしょうがなかった。

 タオルでくるまれた女の子は、クルルが産んだ子。

 男の子はクラリスが産んだ子。

 背中から二人とも翼が生えている。

 女の子には天使の、男の子には悪魔の羽根が、確かに生えていた。

 もちろん二人とも、母親譲りの獣耳と尻尾を生やしてもいる。

 俺が頷くと、コハナがそっと頭以外を布で包む。

 そうしてそっと渡された。抱えてみると頼りない。二人とも同時に抱えるやりかたもよくわからなくて、コハナに指導されたが、ともあれ……抱けた。


「クルル、クラリス」


 二人が疲れ切った顔で、それでも笑って俺を見つめてきた。


「……お疲れ様」

「ふふ……ん」「名前を……考えて、くださいますか?」


 そうだ。そうだった。

 名前、名前だな……えっと。こういう時の、いわゆるお約束はなんだ。えーっと。


「と、トンヌラとサトチー?」


 途端にマジでいやそうな顔するふたり。


「それだけはいやかな」「わたくしも。元気に育ちそうですけれど」


 そろって不評です。俺も頭が痛むので、これはよしておこうと思う。


「まいったな……」

「どーせろくなの考えてないだろうと思ったかな」「なので、案があるのです。聞いて下さいますか?」

「お、おう」


 赤ん坊を二人も抱いている俺、何も出せる気がしないので素直に頷きますよ。


「娘の名はルナモワル」「息子の名はレオノワル」


 響きはいいけれど。


「でも……トンヌラとサトチーの方が強そうじゃないか?」

「だめだめ」「そうです、絶対だめです」


 絶対だめか……。


「じゃあルナモワルとレオノワルだから……ルナ。レオ。よろしくな?」


 二人に語りかけると二人そろって同時にびゃーと泣かれました。

 ううん! なかなか迫力あるサウンドですね!


「みなさんをちょっと休ませてあげてください」

「ペロリがそばについてるから、ね?」


 コハナとペロリに促されて、赤子をそっと下ろす。


「撮影機材は回しておいたけど、他にもやること盛りだくさんだな」

「部屋の温度をもう少し安定させたいです」

「っていうか裂けたとこ治すから静かにしてて」


 女子三人がきびきびと動き始めるので、部屋にいられずにそっと出る俺です。

 扉を閉めても尚聞こえる、二人の赤子の泣き声の大きさが頼もしくて、思わず拳を握りしめた。


「おめでとう」

「おめでとう、タカユキ」


 廊下から見守っていたルカルーとナコが笑顔で出迎えてくれた。

 思わず抱き寄せて、背中を強めに叩く。

 迷惑そうに眉根を寄せながらも二人は俺の背中を同じように叩いて返してくれた。

 ああ、すげえ。ああ! すげえ!

 興奮しすぎて、とても寝られるわけもない。

 朝早くに部屋を訪れたさ。


「おはよ……おお」


 目にして実感。

 二人に促されて抱き上げてさらに実感したさ。


「パパだよ?」「パパですね」


 クルルとクラリスの幸せそうな声に泣きそうになりながら、ルナとレオを見つめる。

 眠りについている二人の赤子を抱いて実感。

 すげえな。すげえ。


「……二人がママで、俺がパパか」

「なに言ってるのかな、今更すぎるかな」「そうですわね。でも、もっともっと実感していただかないと」


 深呼吸する。

 すげえ、いい、におい。語彙しんじゃう。

 俺をだめにするにおいを放つ二人の赤子に顔を擦り付けたい欲求が。

 我慢しながら呟く。


「ありがとな」


 ただ、それだけ。感謝しかない。

 胸の中にわき起こる感情に任せて叫びたいけど、そんなことをしたら起こしてしまう。

 できない。できるわけがない。

 こみあげてくる感情ぜんぶ、涙で流れてしまうんじゃないか。

 そんな俺を二人はずっと、幸せそうに見守っていてくれたのだった。




 つづく。

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