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勇者タカユキと悪魔の薬~異世界パンツ英雄譚2~  作者: 月見七春
第八章 今日から僕らの共和国
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第七十三話

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 合戦で盛り上がる連中を街へと誘導。その先は街に山ほど出してもらった屋台や、今日が開店となる居酒屋やご飯どころに誘導する。

 宿からなにから、国の観光産業に携わる奴らがフル活動だ。

 平常時なら各店舗などに任せっきりにしてしまうところだが、今日の祭りは国営事業。総出で手伝いに出るので、まあ忙しい。

 けれど夕方になる前に俺は背中を押されるように仲間たちと国賓を集め、領主の館の広間にいた。コルリに触れられ、天使の祝福を受けた俺はやっと自由に衣服を着られるようになったのだ。

 正装の俺が手を引く少女は二人。

 クルル、クラリス。

 二人を連れて壇上へと上がる。

 壁の向こう側からわいわいと盛り上がるいろんな連中の歓声が聞こえてくる中で厳かにやろうってのも無理がある。それに盛り上がりこそ、俺たちの未来への可能性に繋がっている。

 ならばジョッキを片手に喝采を……といきたいんだけどなあ。


「……っ(ぎろり」


 ネイトさんが地面をだむだむ蹴りながらめっちゃ睨んでくるんだよなあ。


「パパ大人げない」


 ぼそっと呟くクルルに同意したい気持ち反面、ネイトさんの気持ちもわからないでもない。

 大事な娘が婚約、しかもあとちょっとで出産しますなんて状況、まあ普通の男親なら許さないと思うよ。


「今日の主賓が二人集まりました。拍手~っ!」


 マイクを通さなくてもよく通る声してるなあ、コハナ。接客業で頑張っていた時期があるだけでなく板についていたし、実況もなかなか楽しんでたからな。

 その勢いにつられて、会場に集まったみんなが拍手してくれた。

 照れるなあ。ネイトさんが睨んでさえいなければ、ひたっちゃうところだが。

 しかし締めてかないとな。


「さて、まずは指輪の進呈にまいります。後々揉めるとなんなので、これは人間世界の慣例に習い、名前順でいきますね。クラリスさまよりどうぞ」


 俺がプレゼントした服装で決めて、そのくせ尻尾の先まで力んで緊張したペロリが手足を揃えてぎくしゃくと歩いてきた。そっと差し出されたトレイに、クルルとクラリスの指輪が一つずつある。婚約指輪だから、俺のはなし。そっちは装飾師が今も作ってくれている最中。

 まずはクラリスの指輪を取って、彼女の左手を取った。

 彼女を見る。赤面した彼女もまた、ペロリ同様にめちゃくちゃ緊張していた。

 おいおい。まだ婚約なんだっての。それだって人間世界で済ませたことだろうに……そんなに感激してくれるの、嬉しさしかないですよ。


「よろしくな」

「……はい」


 夢見がちに頷くクラリスの薬指に指輪を嵌めた。

 何かの衝動を堪えるように目をぎゅっと伏せて震えると、熱っぽい息を吐いて俺を見つめてくる。何もなければ抱き締めたいけれど、我慢。


「それでは、クルルさま」


 コハナの声にクラリスが一歩下がる。

 代わりにクルルが前に踏み出した。


「~~っ!」


 ネイトさんの怒気が。

 一歩踏み出したその足を、クルルママのプリスさんが踏みつけた。

 そして俺に向けて笑顔で手を振ってくる。だいじょうぶ、だということか。やれやれ。

 ペロリのトレイから指輪を取って、今度はクルルの左手を取った。

 薬指に指輪を――……嵌める。

 その間ずっと、クルルは俺の顔を見つめていた。

 二人の指輪は結婚指輪に繋がる前の段階だ。とはいえ長く使えるよう、取ってきた宝石のカットから台座からペロリと一緒に悩んで決めたもの。

 コハナの吹っ掛けた言葉通りに結婚式を前にしていたら、それこそ大騒ぎだったろうが……婚約式でよかった。

 二人に誓いの指輪を嵌めて、終わり。ほっとひと息吐いたところで、クルルとクラリスが二人で意味ありげにコハナを見やる。

 ……ん?


「それでは婚約されたお二人から、ご挨拶があります」


 えっ。


「まずはクルル様よりどうぞ」

「えーっと」


 え、え。


「まずは今日、この国を興すにあたり尽力してくれたみなさまに、このような私的な場に足を運んでいただき誠にありがとうございます。婚約した二人そろってこんなお腹で申し訳ありません」


 クラリスと一緒に軽く頭を下げるクルルに参列した誰かが笑った。

 ぎろりと睨むネイトさんにすぐに引っ込んじまったけども。


「だからかな。パパがすっごく怒ってます。パパは怖い人ですが、そんなパパの足を踏んで止めているママはもっと怖いです」


 今度こそはっきりと笑いが起きた。これにはさすがのネイトさんも怒れないようで、俯く。


「私はママみたいになって、タカユキのそばにいようと思います」


 笑いは広がって和やかな空気へと変わっていく。


「出産、育児が待っています。結婚式もやりたい、なのに家計も国の運営費もかつかつです。おまけに彼は、多くの愛を向けられているのに、いまだに未熟なところが目立ちます。さあ困りました」


 腰に両手を当てて困り顔をするクルルにペロリが笑い声を上げる。


「だから皆さんの協力をこれからもっともっとお願いすることになります。どうぞよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました」


 綺麗なお辞儀をして、クラリスに居場所を譲る。

 クルルにお辞儀をして、クラリスが前に出た。


「クラリス・ドゥ・カリオストロです。皆さま、今日はようこそおいでくださいました。心より感謝いたします」


 みんなへと深々と頭を下げる。それだけで厳粛な空気が広がるあたり、クラリスの威厳は変わらず健在だ。


「困ったことに、将来の夫となる彼には未だ姓がありません。これは共和国というものに姿形を与え、名前を授けた日にそぐわぬ由々しき事態です」


 にこ、と微笑むクラリスに空気が和らぐ。それすらも演出。


「ですから、誓いの指輪をくれた未来の伴侶に、皆さまのよき隣人となるべき彼に姓を授けたいと思いますが……いかがでしょうか?」


 まるで示し合わせたかのように――いや、事実そうなのだろう。コハナが手を叩いた。すぐにルカルーの兄ちゃんことクリフォードが続く。魔王が、カナティアが手を叩き、拍手に満ちていく。


「ありがとうございます……では勇者タカユキの姓に、国の象徴たる平和の象徴たる言葉を。ピジョウの姓を授けたいと思います」


 嘘やん。俺なんも聞いてなかったよ。なんなら砦の建設だの池垣の沈む岩の設置だの、坂道の設置だので忙しいだけじゃなく、演説まであったんだもん。婚約式は指輪はめてはい終わり、くらいの感じでしたよ?

 だって前日までは準備で忙しかったもん。聞いてないよおお!


「平和への祈りをこめて、スフレの言葉としてペイを授け、タカユキ・ペイ・ピジョウという姓名とし、共和国の領主として、みなさまのよき隣人として、クルルとわたくしの伴侶として……ますますの活躍を期待いたしますわ」


 わー、わーって。盛り上がってくれるのは嬉しいんだけども。待って。

 なんでクラリスそんなにきらきらした目で俺を見つめてくるの。

 あれだよね。この流れ、くるよね? きっとくるよね?


「それではタカユキさま、ご挨拶を」


 ほらきた!


「え、ええと……まいったな」


 演説のために頭の容量使ってたから、まるっきり言葉が出てこない。


「今日という日は、あとはみなさんと酒を飲み交わし、未来の花嫁の父から殴られ、未来の花嫁の妹から祝福されるだけだと思っていました。思わぬ贈り物を、ありがとうございます」


 絞り出してる。絞り出してるんだけど、まあ、ええ。テーマがないね。テーマが。

 締めちゃうか。いっそ、締めちゃいますか。


「結婚まで粛々とやるべきことが山積みですし、二人の少女は大きな仕事を控えています。どうか魔界の酒は飲まないよう、人間世界の酒でも飲み過ぎないように見守ってやってください。特に一人は大酒飲みなので、よろしくお願いいたします。そして!」


 咳払いをする。


「そのぶん、俺のジョッキに酒を注いでください」


 和やかに笑ってくれる仲間たちに、みんなに手を掲げて挨拶する。


「今日は楽しんでいってください。ありがとう!」


 うっし。いいだろ。これで。

 歓声を上げて拍手をしてくれる人たちに「それではささやかながらお食事を用意しましたので、お楽しみください」とコハナが声を上げる。

 長らく共和国の胃袋を支えてくれた食堂で働く連中が入ってきて、配膳し始める。

 ふう……。

 余計なこといって、という目でクルルが睨んでくるけど「あんまり呑むなよ」とおでこを叩いておく。


「クラリス、クルルを頼むな。二人とも飲み過ぎないでくれよ」

「は、はい!」


 さて……。

 そっと壇上から降りて、いろんな人たちと挨拶をかわしながら進む。

 最初に俺の腕を掴んだのはカナティアだった。


「あ、あの。タカユキさま」

「ああ……カナティア」


 足を止める。スフレで見かける時と変わらぬドレスと王冠姿。

 クラリスによく似て、けれどクロリアに操られた時にはムチで俺を苦しめた未来の妹だ。


「お姉さまを……よろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げる彼女に、こちらこそと答えて頭を下げた。

 お辞儀を済ませた時にはもう、目当ての人が来ていた。


「……勇者」

「タカくん」


 ネイトさんとプリスさんだ。


「娘をよろしくお願いいたします」


 カナティア同様に深々とお辞儀をするプリスさんに応える。

 姿勢を戻した俺に、ネイトさんはぐっとジョッキを突きつけてきた。

 渡されたそれを受け取ってすぐ、自分のジョッキを掴んでぶつけられる。

 荒々しい乾杯だった。


「俺より多く呑め。祝うのは、潰れてからだ」

「乗りました」


 つくづく勝負事が好きな人だな。いいさ。

 ジョッキを掲げて宣言する。


「今日は呑むぞおおおおお!」

「おおおおおおおおおおおお!」


 声が続く中にちゃっかりクルルも混じっていたので「お前は我慢しなさい」と言っておきましたよ? もちろんね。




 つづく。

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