第七十二話
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指輪をつけたペロリが宝石に口づけて、その手を空に掲げる。
『永遠の幸せには永遠の輝きを――』
な、なぜか肩に重さを感じます。
またしても映像がぱっと切り替わる。
白くきらびやかなドレス姿のナコがブーケを手にふり返り、極上の微笑みを浮かべる。
『結婚――新たな旅立ちは、新たなこの地で』
ピジョウ教会、という文字が出て消えた。
そして実況の三人組の笑顔に映像が切り替わるんだが……あいつら一体、いつの間に宣伝とってたんだ。しかも今の二つは妙な意図を感じるんだが、俺の気のせいなのか。
『はーい、いわゆるデートでいった映画でプレッシャーをかけられるような気持ちになってる勇者さまのおそばに寄り添いたい、コハナでーす★ 勇者さまはいよいよ元魔王クロリアさまの待つ砦に突撃をしかけていますねえ』
『対するクロリアチームも、ペロリとナコという二人を使って砦を攻めに掛かっているね。そっちはどうなったかな?』
『ち、ちっちゃいからこれはお兄ちゃんじゃないもん!』
『……正直めでてたい』
『じゃあペロリ一人でいくし!』
『どうやら聖女さまが一人で砦に向かったようだ。これにはクラリス様も慌てている』
『お、お待ちになって――!』
なにやってんだか!
とにかくペロリが砦に向かっているなら急がないとな。
追い掛けてくるネイトさんの軍勢を自分の仲間たちに任せて、滝へと向かう。
少しなだらかな坂になっているそこへ岩が山ほど転がされてくる。
『勇者チームも危機! あの岩は魔界の魔物だあぁ!』
「魔物っ!?」
瞬きして、もう一度改めて見たよ。
そしたら、あれだね。岩の中には目と口があるやつがいたね!
これあれだろ! 自爆するやつだろ!? 俺しってるよ!
目の前を転がってきた岩と目が合ったので、咄嗟に飛んだ。身体の下に大剣を出した時だ。
か、と光が瞬いた。
『おおっと! 大爆発だぁあああ!』
弾ける爆風に押し出されるように大剣が上昇する。
放物線を描いて滝に囲まれた砦に到着した。
「くくく! よくきたな、勇者よ!」
その頂点に立ち、マントをたなびかせるクロリアは演出過剰な気もするが。
「思えばお前とサシでやったことはなかったな」
「私の力を侮ると痛い目を見るぞ。今回の合戦に向けて新技を用意した」
右手を振り払うクロリアの周囲に無数の半透明の武器が浮き上がる。
俺にその手をかざした直後、それらの武器が俺目掛けて発射されるのだ。
それは剣であり、大剣であり、刀であり、槍であり、弓でさえあった。
斧を切り飛ばし、がむしゃらに防ぐ。すべて防いだと思って顔をあげるが、そうはいかなかった。クロリアの影からいくらでも武器が出てきて発射されるのだ。
「どうだ! 名付けて終わらない幻想武器、ファンタズマウェポンだ!」
「ただ発射してるだけじゃねえか!」
服だけだと不安になっている場合でもない。
鎧があった時に使えた獣になるあの力を使う。
黒く淀んだ力に包まれる身体で加速して、打ち出される武器をはね飛ばしながら愚直に前に進む。
「ふははは! 元だろうが魔王の武器の貯蓄は無限だぞ! お前がフェイカーになっても結末は変わらないぞ!」
「くぬぬぬぬ!」
頭が痛くなることばっかしいいやがって! 危ないでしょ! そのネタは!
最強の一振り的なものを出させるところまで追い詰めないと。なんでそう思うのか。頭が痛くてしょうがないのが理由なのか。
どうでもいい。パンツが二つしかない以上、手は二つ。
クルルのパンツは使い続けている。
ならば切り札はクラリスのパンツ。だがそれを使える状況に、まずは持ち込まなくてはならない。
だとしても手が足りない。どうしたらいい。どうしたら――。
眼前に迫る剣を見て、咄嗟に掴んだ。
そしてそれをクロリアへと投げ返す。
「わっ!」
あわてて屈んで避けるクロリア。
その間も俺へと殺到する武器の柄を端から掴んで投げ返す。
そうだ。クロリアが言うフェイカーとやらが偽物を使ってやり返すとして、俺にそんな能力はない。
なら、どうする?
相手が投げる武器全部、掴んで投げ返してやればいい。
幸い、俺にはそれだけの身体能力が今は宿っているのだから。
「まっ、まって! わっ! ひゃああ!」
投げれば投げるだけ武器が迫ってくるからクロリアがあわてて武器を放つのをやめた。
その頃には彼女はもう砦の上から転げ落ちて、地面に這いつくばっていた。
ぜえはあと荒い呼吸を繰り返しながら立ち上がり、俺をびしっと指差す。
「ず、ずるいぞ! 私の武器を奪うなよ!」
「悪いが勇者はたぶん、魔王から奪うものだと思うぞ」
「くぬぬっ、ならば新作武器を見せてやる」
お、でるか。でちゃうのか。
絶対に勝負が決着するほどの最強武器でありながら、物語の展開上、主人公に出しちゃったが故に敗北が約束されちゃう残念武器が!
「うんせ、うんせ」
影に手を入れて可愛らしいかけ声を出すクロリアをついついほほえましく見守ってしまう。
「よいせ!」
ひょい、と取り出されたのは鍵だった。
身の丈ほどある鍵。
……剣として使えそうな、鍵。くっ! 頭痛が! がんがんするぜ!
「これはきーぶれ」
「だめ! それ以上いっちゃだめ! 消される!」
「もとい」
「よかった。もといと言ってくれてよかった」
ほっとする俺の眼前でクロリアが鍵を自身の影に突き刺す。
くるりと回して開錠。クロリアの影が光り輝き、赤い粒子が噴き出てそれは鎧へと姿を変えた。
さすがに金ぴかだったりはしない。
赤く透けた布と闘気。鍵は赤い光をまとった剣へと姿を変えている。
「敢えて言うなら、魔王モード・プリモワル! いくぞ、タカユキ! 変なものを作らせたお前を私はぶっ倒さなければ気が済まない!」
「後半私怨なんですけど!」
「だまれだまれ!」
ネイトさんに勝るとも劣らない踏み込みの速度にあわてて大剣を構える。
受け止めた剣が大剣に赤い色を侵食させていく。
「なっ」
あわてて払いのける。
だがクロリアの体術は腐っても元魔王。すかさず返す刀で打ち込んできた。
胴を狙う一撃を大剣で再び受け止めるのだが、またしても赤い色が侵食してくる。
「すべて紅に染めたら、それはクロリアのものだ!」
「くっ」
魔王もまた、奪うものということか。
あわてて払いのけて飛び退き大剣を消す。
再び大剣を出してみるが、赤の侵食は変わらず、見ればクルルのパンツに影響が出ていた。
心底、この戦いでその力が明らかになってよかったと思う。
これがもし前の戦いで使われていたら、悲劇しか起きなかった。
とはいえ考えている時間はない。
「うぁあああああああ!」
力をありったけ絞り出そうと叫ぶ。
身体中にある勇者として与えられた力を求める。
黒が身体の奥底へと侵食してきて、埋めつくす。
この世界の人にある獣としての力こそ、俺がいま引き出すべきものだ。
元いた世界でただの人でしかなかった俺が借りるべき、この世界で生きるための最低限必要な獣として力。
それは勇者であるがゆえに破格。破格であるがゆえに、獣に近づけば近づくほどに元の世界から遠ざかるもの。
戻る意志などとうの昔に捨てている。
ならばこの身全て、獣になって勝利を掴み取ってやる。
掲げた大剣に全力を注ぎ、構えた。
「いいだろう、タカユキ。一撃で決めるというのなら、こちらも全力を尽くすまでよ!」
クロリアが笑い、剣を掲げた。
赤い光がうねりをあげて、粒子をまき散らして炸裂し始めていく。
ばちばちと鳴る火花。光の奔流は嵐となって渦を巻く。
「このクロリアの全魔力を食らえ!」
バツを刻み放たれる紅の二撃を、ただ縦に一閃。
この場を切り抜けるのが、限界。
勇者と魔王が全力を出して等価。なにせこの戦いに世界はかかってない。
強いて言えば盛り上がることにこそ、俺たちの命と未来がかかっている。
ならば。
俺の眼前で互いの力が衝突し合い、爆発する直後。
俺とクロリアは互いににらみ合い、笑い合った。
どちらが勝っても、盛り上げなければならない。その未来を互いに認識して。
そして俺はそっとクラリスのパンツに念じたのだった。
◆
『おおっと! タカユキさまとクロリアさまの対決に決着かー! これは確認せねばなりません!』
マイクを手に叫びながら、コハナは撮影カメラを借りて翼を出して空を飛びました。
街を眼下に、映像を見守る来客者や国民を見ます。みな、固唾を呑んで映像を見つめています。
ばさばさと飛んで、魔王陣営の砦に降り立ちました。
煙が晴れていきます。
大剣を手に立っているタカユキさまの衣服は、上半身が弾けて消えてしまいました。
勇者、まさかの敗北か。
どよめくみなさま。
けれどカメラをクロリアさまに向けます。
煙が晴れた時、立っていたクロリアさまは――……なんと、白のマイクロ下着姿。
そう、下着姿なのです!
ひゅるるるるるる、という音に続いて、ぱし! という音がしたのでタカユキさまにカメラを向けました。
タカユキさまの手にはブーメランが握られています。そのブーメランには、クロリアさまが羽織っていた衣服がくっついているのです!
『おおっと! これは大番狂わせかー!』
言いながら、しかし理解していました。
『勇者タカユキ、彼の力はパンツから特別な武器を出すこと! そのブーメランはスフレの元第一皇女クラリスさまのパンツから出たものです! 当たったものから何かを奪い取る力の結晶です! 勇者! 大一番でブーメランを放っていた-!』
『やるね。となると?』
『勇者タカユキ、今一度ブーメランを投擲ぃ! ああーっと! クロリアさまチームの旗を奪い取りましたぁあ! 勇者チームの旗はぁ?』
コハナの実況に映像が切り替わります。
するとちょうどクラリスさまに抱きつかれたペロリさまがダイブして旗を取る瞬間でした。
『ざんねん、あと一歩届かなかった-! つまりつまり、第一回陣取り合戦の勝敗はぁ?』
駆けつけたカメラ班にカメラを預けます。
ブーメランを再びキャッチしたタカユキさまの手を握って、空高く掲げて宣言します。
『勇者チームの勝利でぇす!』
直後、街から花火と喝采があがり、音楽隊が華々しいファンファーレを鳴らしました。
『勇者さま、勝利についてどう思われますか?』
『えーっと』
咳払いをしてから、ブーメランと大剣を消して力をおさめ、元の姿へとお戻りになります。
クロリアさまのお洋服などをお返ししてから、タカユキさまはカメラに向けて微笑みました。
『みなの力あればこそです。あとは……強いて言えば』
『強いて言えば?』
『今日婚約する二人から預かった力のおかげです。愛してるよ、ありがとう』
手を掲げて勝利者インタビューを終える勇者さま。
その内容もまたしっかりと考えたものでした。
ホッとすると同時に、ちょっと妬いてしまいます。
駆けつけたコルリがクロリアさまにインタビューをしたり、魔王さまがクロリアさまを抱き締めて可愛がろうとしたり。
盛り上がりはまだまだ続きそうな中で、一人ほっとしているタカユキさまにくっつきます。
「いつかコハナのためにも頑張ってくださいますか?」
マイクをオフにして、二人だけの会話のつもりで聞いたら。
「当たり前だろ」
本当にごく自然に答えてくださるのが嬉しかったので。
コハナは楽しみが増えたのでした。
「くふ★」
「なんか幸せそうにしてるとこ悪ぃけど、婚約式も頼むぞ」
「この後もまだまだ行事が山ほどありますものね」
正直大変すぎてどうしよ、と唸っていらっしゃいますけれど。
きっとあなたなら大丈夫ですよ。
つづく。




