第七十一話
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湯船に浸かった水着姿のペロリがつま先を出してうっとり顔で一言。
『猫でも快適バス体験! 入浴剤は魔界のリラバスタ! 最上級の湯船を――あなたに』
映像がすぐにぱっと切り替わる。
ウェイトレス服姿のコハナが、ハルブの酒場の同じ服装姿の女の子たちと笑顔で踊る。
腰を捻り、手を回してくるっと一回転。みんなでいろんなポーズを取って一言。
『人間世界へお越しの際は、スフレ王国居酒屋ぐっぱいバーへお越しを!』
そして実況の三人に切り替わる。
コハナがちゃっかりその前の映像と同じポーズを取っているんだが。
『おっぱいぽよぽよのウェイトレスがご主人様とお嬢さまにご奉仕しますよ? というのはさておいて!』
『戦いは引き続き行われているね。おや? ちょっと様子がおかしいな』
『勇者チームの魔法使いクルルの軍勢が池垣の上に浮いているな……』
目の前に迫る拳を大剣でかちあげて飛び退る。
すぐに距離を詰めようと頼りない足場なのに踏み込んでくるネイトさんの眼前を、
「リュミエイレ!」
びゅん! と光の筋が焼いた。
当然飛び退るネイトさん。
ちらっと見たら、左手の池垣の上に実況の通り、クルル率いる魔法使い隊が空中浮遊しながら陣取っていた。
たしか池垣には乗れる岩と沈む岩を設置しておいたはずだ。
脱落したら服が弾けてしまう仕掛けつき。
しかしクルルは強引に魔法で浮いて陣取り、俺の支援に来てくれたみたいだ。
「みんな! ここから敵チームを狙うよ!」
クルルの号令に魔法使いたちが歓声をあげる。
こいつは心強い!
一気に踏み込もうとする――その瞬間に鳥肌が立った。
虫の知らせにそのまま柱に抱きつくようにして屈む。
その瞬間、俺の頭上を岩が通り抜けた。それはクルルたちの方へ飛んでいく。
「わ、わわ!」
あわてて避けるクルルたち。池の水に落ちて派手に水しぶきが舞った。
『これは一体どうしたことだぁ!?』
コハナがマイクを手に叫ぶ。あいつノリノリだな……。
ちらっと見た映像に映し出されるもの、それは反対側の池にいるペロリだった。
それだけじゃない。水の精霊かなにかなのか、水で形作られた巨大な鰐に乗ったナコがいる。引き連れた軍勢の幾人かは池に落ちて脱落しているようだが、構わず横から俺たちの砦に向かっている。
「ちっ――クルル!」
「わかっているかな!」
叫ぶ俺に応えるクルルが空に花火を打ち上げる。
クラリスへの伝言か。探っている余裕はない。
急いで飛び退った柱にネイトさんのこぶしがぶち当たる。
ひええ、と思いつつも、しかし柱がどうこうなるレベルじゃないあたりに手加減を感じる。
「なに笑ってやがる」
「いや、案外、加減できるタイプなんだなあと」
「そいつはどうかな」
ボキボキと鳴らされる拳からの迫力たるや、尋常でない。
とはいえ、いい加減だらだらやってもいられない。
しょうがねえ。
「次で決着つけますよ」
クラリスのパンツを巻き付けた腕に意識を向けるが……いや、まだこいつは早い。
息を吸いこんで、大剣を握りしめる。
「すう――……ふん!」
あ、あのう。
構えて出る半透明の青白いオーラは一体なんなんすか。
なにでできてるんですか。髪の毛の色とか変わったりしませんよね、それ。
『おおっと! ネイトさんが闘気をまとっている! これは勇者ピンチかぁ!』
『アレ使うと力が何倍にも増すらしいね』
『ぱっと見……三倍くらいか』
それなんて界王拳! うっ(ry
「てぇりゃあ!」
拳をぶんと振り回された瞬間、出た! 弾みたいなのが出た!
反射的に大剣でかっ飛ばす。
すげえ重たい一撃みたいな弾だ。なんとかあらぬ方向へ吹っ飛ばしたのもつかの間、眼前に迫るネイトさんのパンチを見た。
受けたら終わりかもしれない。なら――
「――ッ」
かちあげて、飛び込んでくる額に思い切り自分の額をぶつける!
「がっ」
「ぐっ」
火花が散るが、知ったことか。
たたらを踏んだネイトさんへと思い切り大剣を振り下ろした。
右足で受け止めようとする、だが!
「――ぁあああああ!」
斬るのはただ、衣服だけでいい!
足だけでなく身体をすり抜けて、パンツを残した衣服を切り裂く!
柱に当たった瞬間にネイトさんの身体を飛び越えて、向こう側へ。
ふり返ったネイトさんに言うのは、一言だけ。
「拳はあとで受けます!」
ついてこい、と自分の軍勢に伝えるように大剣を掲げた。
一斉に声をあげる仲間たちが柱に殺到する中、ネイトさんは微かに笑って街道へと降りたのだった。
◆
『さて、勇者が戦士長に勝利した中、ルーミリアの兄妹対決は波乱の様相を呈しております!』
『いつもいつもルカルーをだまして!』
『ははは! いつまでも過去を引きずっているといい女にはなれないぞ!』
『がう!』
『っていうかただの兄妹喧嘩ですねえ。他はどうなっているでしょうか?』
空のあちこちに浮かぶ映像を見上げる暇もなく、わたくしクラリスは目の前に迫る二人の少女とその軍勢を睨みました。
「ペロリ、ナコ。こちらへ一直線ですか」
「クルお姉ちゃんの軍勢は後ろでみんなにくぎ付けにしてもらってる。その間に一気呵成に攻め込んで砦を落としちゃえって、クロちゃんが!」
クロリアの策。
となると、敵の陣地にはクロリア本人が待ち構えているということ?
見ればペロリとナコの軍勢が半分に分かれてクルルに向かっています。こちらへの補佐にはまだしばらく時間がかかりそうです。
「クラリス様。どのように?」
プリスの言葉は確認です。
好きにやってしまってよいか、それとも個別に叩くなりの手を打つのか。
懐にある二つの結晶を取り出して、息を吸いこみました。
「背後の軍勢を叩いてください。わたくしが二人をおさえます」
「クラリスにそれができるとは思えないけど」
ナコの言葉に怯みはしません。
二人に向けて思い切り結晶を投げます。
一つ、二つ。そして、叫ぶんです。
「擬態、勇者!」
指を鳴らした瞬間、結晶から盛り上がる肉体。
それは一瞬で小さな勇者さまになるんです。
二人の裸の勇者さま。
どや顔で構えるそれを見た瞬間、ペロリとナコが怯みました。
「うっ」
「か、か、かわ、」
呻く二人に私は腰に両手を当てて、どや顔で言ってやりました。
「どうです! 子供みたいな勇者さま、可愛いでしょう! 倒せますか! 戦闘能力も勇者さま並みですよ!」
「「 くっ、だが確かにかわいい……! 」」
ふっ……これで大丈夫です。
ですから、どうか……勇者さま。
わたくしたちに勝利を――!
『おおっとこれはこれは、クラリス様の秘めたる力、錬金術が炸裂かぁー!』
『彼女の特殊な力は戦況を左右するかもしれないな。なるほど、錬金術。ぜひ魔界でも研究したいものだ』
『……二人とも盛り上げようとしてそこまでするのか。まあいいけど。さて、CMです』
つづく。




