第七十話
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馬で駆けていく先、街から港へと向かう街道を挟んで作られたコース。
街道を挟む坂道、通路を限定するべく作られた池垣。そして街道の上にある一本柱などなど。
先んじて到着してどこまで妨害できるかが勝利の分かれ目だ。あそこを押さえてクルルに活躍してもらわなきゃならない。
『さて、ここでルールの確認です★』
『パンツが残ればいいじゃない! アルファベットにして略してPNI、つまりは、ぷに制限がかかったこの世界、ダメージを受けて脱衣して下着を晒したら合戦から脱落です』
『無論、砦に設置された旗を取ったチームの勝ちとなる……クロリア、期待しているぞ』
いちいち妹愛を隠そうとしないなあ、あの魔王。
まあいいけども。
プリスさんとクラリスが後方で陣形を広げて待機し始める中、俺とルカルーの兄ちゃんこと仮面の狼が一本柱に差し掛かった。
すると、どうだ。
「きやがったな……」
「……見慣れない狼がいる?」
二つの一本柱の向こう側にネイトさんとルカルーが立っていた。後ろに並ぶ軍勢は俺たちに勝るとも劣らない物量だ。
「た、タカユキどうする!? パパ来ちゃったよ!」
と、なれば。
「一騎打ちを申し込む!」
大剣をネイトさんに突きつけて叫ぶ。
「へっ……元よりそのつもりよ」
馬から下りて拳を打ち鳴らして、ネイトさんが柱に足を掛けた。
俺もまた地面に降りる。するとすかさず、
「獲物は消すな、どうせそいつじゃ俺は倒せねえ」
挑発してくる。
威圧感もさることながら……
『おおおっと! これはいきなりの熱い対決かあ! はたまた、義理のお父さんになってくれますかという勇者と、いいやお前に娘はやらんという戦士長の意地のぶつかりあいになるのかあ!』
ネイトさんの発言をきっかけにコハナが盛り上げる盛り上げる。
『解説すると、勇者であり領主のタカユキはこの後、二人の少女と婚約式を開く。その一人というのが……スフレの戦士長ネイトの愛娘、クルル嬢だ』
『下馬評では勇者有利、だがスフレの戦士長の実力もまた侮れないと聞く。さて、勇者はどう出る?』
コルリと魔王もすかさず乗っかる。
そう、これはいわば魔界で言うところの番組だ。放送だ。お祭りなのだ。
盛り上がらなきゃしょうがないし、そのために求められる立ち振る舞いというのがある。
「ペロリのパンツがあったなら、ステゴロでいくところだが……いいさ。俺の初戦の武器はクルルのパンツと決めていた!」
構え、一気に駆け出す。ネイトさんもまた、同様に走ってきた。
一瞬で詰まる間。振り下ろす大剣をただの拳が迎え撃つ。
ぶつかり合う意地と意地。魔を切り裂く刃はただの父の拳に止められていた。
クルルのパンツだから、ネイトさんには届かないのか。いいや、ちがう。
「娘の力なんざ、オヤジに届くか!」
「俺とクルルの力が届かなきゃ、あんたを越えられない!」
柱の上だろうと大剣を振り続ける。
あまりの激しさに互いの軍勢が止まり、見惚れる。
悔しいが、なるほど。
「へっ!」
「くっ――」
クルル。お前の父ちゃん、マジで強いぞ。
◆
嗅いだ臭いの懐かしさに身体中が震える。なぜか。なぜ、仮面をつけた男からルカルーの大事なお兄様の匂いがするのか。
「タカユキばかりに見せ場を譲るのもね。どうした、小さき狼よ。きみの刃は偽物か?」
「がう!」
挑発だとわかっていても、後に下がるつもりはなかった。
四肢で大地を掴み、一気に爆発するように飛ぶ。
柱など走る必要もない。
弧を描くようにして落ちながら、この日のために国から取り寄せたガントレットソードで突き刺す。
腰に帯びた剣を抜き放ち――もせず、後ろに下がってルカルーのソードを踏んだ。
「相変わらず攻撃が直線的だな。恋にもその勢いがあればいいのだが」
「ううう、がう!」
もう片手のソードを突き刺した。よけられる。けれど足は外れた。
一気呵成に打ち込む。
『おおっと! 勇者だけではない! どうやらルーミリアの皇女ことルナティカ・ルーミリア様と謎の仮面男が戦っております!』
『どこのルーミリア様なんだろうね』
『どうやら……完全に見切られているな』
しかし、悔しいが、実況の魔王の言うとおりだった。
「どうした。搦め手も使えないようでは、大勢のハーレムを相手に自己主張もできないぞ?」
「うううううう!」
うるさい男に当たらない。
「色事を覚えたか……艶が出たと思って安心したが、まだまだ小さき狼だ」
「ちがう! ルカルーは誇り高き狼だ!」
一気に距離を詰めてなぎ払う。
けれど、そんな攻撃などお見通し、といわんばかりに飛び上がり、背後に回られてしまった。
背中に迫る恐怖。身に馴染んだこの感覚、まるで国にいた頃お兄様に一撃を食らう時に似ている。
「ルカお姉ちゃん!」
大丈夫だ。お前の姉代わりがそうそう負けてなるものか。
ペロリの悲鳴に笑い、身を捻ってソードを振るい返した。
ルカルーの髪の毛を切り払う男の剣。対して、ルカルーの武器が男の仮面を切り裂いた。
割れて落ちる。落ちて、見える。
「ふむ。訂正しよう」
「な、あ」
「牙はきちんと伸びたようだ。とはいえ、まだまだ負ける気もない。そうとも!」
お、お、
「クリフォード・ルーミリアが負けていられようか! ルーミリアの血を引くものよ、吠えろ! どちらの軍勢にいようが知ったことか、狼たちの誇りと戦いを見せてやれ!」
「お兄様!」
「ううるをぉおおおおおん――!!!!」
遠吠えに本能が抗えない。思わず続いてしまうし、それはルーミリアから共和国に来た誰もが同じだった。厳密には種族の違うペロリとナコですら、思わず吠えてしまう。
『おおおっと! これはかちどきのつもりかああ!』
『これまで名前が出なかった……よね? そんな彼が名前を明かして盛り上げてくるとは、やるねえ』
『クロリア! 負けていてはだめだ! 魔界にも何か同じような記号的行動が必要だな、早急に検討せねばなるまい……!』
『おやおや、なんの勝負になってきたんでしょうか! 勇者と戦士長、ルーミリアの帝王と皇女の対決のまま、続きます! といったところで一旦、宣伝デス★』
つづく。




