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勇者タカユキと悪魔の薬~異世界パンツ英雄譚2~  作者: 月見七春
第八章 今日から僕らの共和国
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第六十八話

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 考えようによっちゃ自爆装置様々だな。

 葉っぱ一枚でこの場に立たずに済んでよかった、とつくづく思う。


「それでは領主より、建国のご挨拶です。どうぞ」


 クラリスの案内を受けて広場に作られた席に立つ。

 見渡してみれば、どうだ。

 右手に国賓として集まる三者。そして左手にリコをはじめとする俺たちの国の重鎮たち。

 俺の後ろには仲間がいる。なら、目の前は?

 国を訪れた人と魔物、そして国の民となってくれたみんながいる。数え切れないくらいに集まっている。

 魔界から持ち込まれた機材を通して声を響かせる。仕組みはなんのこっちゃよくわからねえが、しかしみんなに声が届くんならいい。

 息を吸いこむ。

 手元に出す紙を見下ろした。クロリアが考え、クラリスが整え、何度も何度も訂正を重ねて作りあげた国としての大事な挨拶だ。

 みんなの視線を一身に浴びて、言うべき事はなにか。

 息を吸いこむ。

 期待が、願いが、苛立ちも不安も何もかもがいま、俺に向けられている。

 用意した言葉で臨むのか。即興で乗り切るのか。

 ああ、いやだな。頭が真っ白だ。服がなかったら逃げ出していた。裸じゃ立ち向かえない熱量だ。


「――……みなさん」


 呼びかける声はすぐに出た。


「今日という一日を迎えることができたことを、私は誇りに思います」


 自然と口から出るくらい練習したフレーズだ。迷わず口に出せた。


「人と魔物は世界を隔てて、互いの偏見もそのままにおりました。人と人、魔物と魔物とが争うのですから、人と魔物の溝は越えられないと――……考えられてきました」


 クロリアが考えたフレーズだ。これはあいつの言葉だ。


「知性は枠組みを作ります。枠組みは内と外を分け、内を守り、外を攻めます。それは知性から生じたものでありながら、このままでいたら死んでしまうやもしれぬという本能から来る行為です。私は……これを愚かだと思います。真の知性とは、手を差し伸べる行為にこそあると思うからです」


 クラリスが何度も練り上げたフレーズだ。だからこれはクラリスの悲しみだ。


「今日、ここにお集まりいただいた皆さまと、我々が願う形とはなにか。枠などいらぬ。隣にいる者と手を繋ごう。繋げぬならば距離をとろう。互いに居心地のいい付き合い方があるはずだ、という……至極単純なものです」


 二人が何度も考え抜いたこれは、魔物と人の願いの形だ。


「争わず、しかし衝突はする。その後に笑って酒が飲める、幸せな場所を作ろう。私はそう願い、女神からこの世界を授かりました」


 クルルパパが睨み、クルルママが微笑みをもって俺を見ている。

 ルカルーの兄ちゃんが笑顔で、魔王は俺の資質を確かめるように見守っている。

 カナティアが一途に俺を信じてくれている。

 ならば、ここから先は俺の言葉で言わなきゃいけない。


「だからみんなで笑える国を作ります。最初は私の願いでしかなかったものに、今日までの間にこれだけの思いが集まり、形を作ろうとしているこの瞬間だからこそ、建国に相応しい時が来たのだと確信しているからです」


 誰かが息を吸った。誰かの瞳が潤んだ。誰かが拳を握りしめた。


「未だ私たちはひな鳥でしかなく、この思いも願いもまた、未熟なものかもしれません。しかし、だからこそ願わずにはいられません。これだけの思いが集まる今この瞬間だからこそ、国はなるのだと。私たちは手を繋ぎあうことができるのだと」


 俺もまた、決意を胸に抱いて告げる。

 拳を握る。冷たい汗も、震えもすべて強く握りしめて掲げる。

 そして、二つの指を伸ばす。


「みなさまの愛をもって、平和の礎となるこの国の――ピジョウ共和国の建国を宣言します!」


 用意されていた鳥たちが一斉に羽ばたいた。

 魔界の火薬が弾け、空に大輪の華が咲く。

 クラリスとクロリアが手配した音楽隊が華々しい音楽を奏でた。

 撮影班の連中が機械を俺に向けて光を幾つも放つ。

 その音に混じる、山ほどの拍手と歓声を浴びる。

 クロリアが願う、みんなが共にある形。

 クラリスが祈る、平和の姿。

 まだ、ここから。いま、ここから。


「ありがとうございます」


 微笑みを向け、手を振りその場を離れる。

 入れ替わりに歩いて行くクラリスとクロリアの目が潤んでいた。

 締めてくれる二人には申し訳ないが、俺には俺で用意がある。

 袖で待っていてくれたクルルとペロリに笑顔で迎え入れられた。


「かっこよかったよ、タカユキ」

「惚れ直したくらい! 最高だったよ、お兄ちゃん!」


 照れくさいけど、正直なところ耳まで熱くて正気じゃいられない。

 あれだけの人と魔物の感情を浴びせられて、マトモでいられる方がどうかしている。

 そして、マトモでいられないくせに異常に興奮して頭の芯が冷えていく俺もやばい。

 クロリアが警告するわけだ。俺がしっかりしなけりゃならない。じゃないと、いくらでもおかしな方向へ進んでいっちまう。

 息を吸いこんで、吐いて。それでも足りないから二人を強く抱き締めて、深呼吸をする。足りない。ああ。やばい。どうにかなっちまいそうだ。マトモでいられないくせに俺は俺のままでいたから、どうにかなってくれなきゃあ困る。っていうのに、ああ。俺はさっきっから一体なにを考えているのか。


「……大丈夫だよ」

「しっかりできてたよ、お兄ちゃん」


 二人に背中を撫でられて、もう一度息を吐いた。


「わりい」


 二人を離して、待っていてくれたルカルーとナコ、コハナに歩み寄る。


「合戦の準備は?」

「できている。移動の案内、観客席、それから出店の見回りも済んでいる」

「あとはあんたが強いところを見せるだけ。でも、楽勝でしょ?」

「コハナたちの勇者さま、いつもどおり……お強いところを見せてください」


 三人そろって自然でいるのが羨ましい。

 ってえと、あれか。俺は緊張してあがりまくっていたのか。なにやってんだかなあ。


「そうだな」


 頬を叩いて気合いを入れる。


「あれだけ大見得きったんだ。だらしないところは見せられない」


 クルルパパことネイトさんとのガチンコも待っているし、ルカルーの兄ちゃんをがっかりさせたくもない。カナティアと魔王の前で負けるのもごめんだ。

 そんじゃあ、まあ。


「ガンガンいこうぜ!」




 つづく。

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