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第五十七話

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「出資しろ、と仰るのですか?」

「お金が必要という話かな?」

「最初に持ちかけられるのが金の無心とは」


 カナティアが、ルカルーの兄ちゃんが、そして魔王がそれぞれ渋い顔で俺を見つめてきた。

 会議室の壁に設置された魔法モニターに映し出される三人の顔をまともに見られない俺の背中をクラリスとクロリアが揃ってつねる。


「それぞれの国が事業として、俺たちの国と世界を認めるその意思表示として、人員と資材を投資してくれたことには感謝する。その上で、共同で祭りに金を出してもらえないか?」

「見返りは」


 すかさず口を挟んできた魔王に顔が引きつりそうになる俺。そして背中の痛みが増す。動揺や弱みを顔に出すなという二人の意思表示だ。


「今回開くお祭りの収益の分配だ」

「……ふむ」


 ルカルーの兄ちゃんの表情に変化はない。押せ、という二人の空気を察して説明をする。


「もちろん、三人ともわかっていると思うが、最初の祭りで得られる経済効果はたいしたものじゃない」

「ならば、なぜ出資しなければならない?」

「投資だよ」


 事前に打ち合わせした際に教えられたクロリアの言い方をなぞって説明する。


「この世界は俺たちしか人がいない。領土まるまるすべてが俺たちにとっての資源だ。人が増えれば増えるほどに、その利益をそれぞれの勢力に還元するのがそもそもの和平の条件……」


 なんだよね? とふり返ろうと思ったら、二人に顔を掴まれた。

 今聞くな、という強固な意志を感じて黙る俺に咳払いが聞こえる。わかった、わかったってば。


「祭りはその領土に人的資源を集めるための施策だ。それと同時に」


 一度咳払いをして、テーブルに腕を預ける。両手を組んで口元を隠すのはわざと。


「そこで行う陣取り合戦の投資額に応じて、利益を分配しようと思う」


 三人の顔色が変わった。

 カナティアは明らかに怒った顔でクラリスを見ているし、魔王は楽しそうにクロリアを見つめている。ルカルーの兄ちゃんが熱い視線を俺に送ってくる理由もわからない。


「つ、つまり……つまり、お義兄様はこうおっしゃりたいのですか? 和平は結んだ。だがその利益は金を出さなきゃ与えない、と?」

「わかりやすくていいな。つまり……金の投資による代理戦争の形を取る、といいたいんだな?」

「し、しかしそれではそもそもの和平の意味が!」

「いいや、健全でいいじゃないか。投資すればするほど陣取り合戦で優位に立てるし、共和国で存在感を発揮できて、しかも新たな世界の利益をより多く得られる。純粋な競争原理に基づいて運営するのは至極真っ当な話だと思うよ。やるな、クロリア」


 俺の後ろでクロリアがどやる空気を感じる。


「お、お姉さま!」

「カナティア、動揺しては不利になりますよ」

「ですが!」

「落ち着いて。これから詳細を説明いたしますから」


 縋るような声を出すカナティアにクラリスは涼しげな表情だ。

 横目で目にした笑みの意味に、果たしてカナティアは気づいただろうか。


「無論、資金力など諸々の条件がそれぞれの勢力によって異なることは理解している」


 ああ。義理とはいえ妹が苦しそうにしているの見てられない。マジでごめん。

 どういうことか、というとだ。

 ルーミリアとスフレは共に人的資源を投資してくれている代わりに、金はそこそこしかもらってないんだよな。逆に魔物の来る人数こそ少ないが、魔界からはお金から機材から山ほどもらっている。

 単純にお金だけで得られる利益に差が出るとなると、ルーミリアとスフレは苦しくなってくる。魔界との度重なる戦いにより政治的不安の広がるルーミリアから失業したりして生活に困っている人が大勢流れ込んできている分、こうなると存在感として一番弱いのはスフレとなる。

 ルーミリアは人々に職を用意してあげられる余裕がない分、俺たちに寄りかかっていることで成立している面があるから、結果的にはそんなに痛い目を見ていない。周囲を海に囲まれていて、さらには俺たちの世界を通ってクラーケンだのが生活の場を求めて出て行ったりしているので、周辺諸国に襲われる危険性が以前より少ない。

 対するスフレはそういうわけにはいかない。外交上、周囲の国々とうまくやっていかなきゃいけないし、強いスフレを堅持するためにハルブの海賊たちがいたりするわけで。お金も人もルーミリアと魔界ほど出せないのが実情だ。

 考えてみればみるほどに、スフレが苦しい。魔王との度重なる戦いを経てもその都度立て直し、やってこれているスフレだからこそ苦しい。

 そんなことは説明するまでもなく、すべての勢力が把握している事情だ。だからこそ魔王の笑みは深まるし、ルカルーの兄ちゃんも焦りを見せたりしないのだろう。弱みを見せればつけ込まれる場だと理解しているのだ。

 声を上げてしまうカナティアの未熟を責められない。俺だってクラリスとクロリアがいなければもっと素のトーンでだらだら喋っちまいそうだからな。だから背中めっちゃつねられているわけで。

 黙っていたら背中がどんどん痛くなってくるので咳払い。


「だから、二つの陣に分かれて勝利により利益分配とする。その大将をそれぞれ、クロリアと俺で分ける」

「ほう?」


 魔王の眉間に皺が寄った。そしてカナティアの顔が少しだけ緩む。


「俺が勝てばスフレとルーミリアに利益を、クロリアが勝てば魔界に利益を多めに分配する」

「……ふむ」


 背もたれに身体を預ける魔王と入れ替わるように、ルカルーの兄ちゃんが前のめりになった。


「スフレとルーミリアの分配はどう決めるつもりだい?」

「先ほど話したように、スフレとルーミリアが投資した割合に応じて、とする予定です」

「となると投資して負けたら目も当てられないよね?」

「なので、あくまで祭りの開催による利益でまかなえるようにしたい。ただ、それだけの産業になるまでは――」

「負担を見込んだ上で投資し、勝利に貢献せよ、と」

「……です」


 クラリスとクロリアの指の力が弱まる。


「無論、投資に見合うだけの事業を興すことを約束しよう」

「たとえば各国が求める施策をこちらの共和国で受け持つことも、お約束いたしますわ」


 二人の提案に三者三様の表情の変化が起きた。


「たとえば魔界だが、食糧事情の悪化がずっと叫ばれていた。その食糧となる作物を共和国では既に開発し、生産し始めている」


 クロリアの言葉にクラリスが頷いた。


「栄養面でも味の上でも必ずやご期待に応えますわ」

「姉上。農業従事者が減少の一途を辿っていたはずだ。それを人間世界に頼れ、というのはすぐには無理な話だろう。だからまず共和国に頼ってみてくれないか?」

「それが投資への第一の見返りだと?」


 魔王の問い掛けにクロリアが頷いた。

 しばしのにらみ合いの後、魔王が頷き目を伏せる。了承したということだ。


「ルーミリアですが、長い情勢不安において職業訓練が不十分で、生きていくのに困っている人たちを大量に受け入れています」

「だから共和国で農業や開拓事業に従事してもらい、能力をある程度得たら自由に戻れるようにすることも考えている。また、優先的に魔界からの移民を送る準備も始めている」


 話す二人の緊張が伝わってくる。それもそのはず。


「移民か……正直、もっとわかりやすい力が欲しいんだよね」


 ルカルーの兄ちゃんの言葉に二人の手が強ばった。


「魔界から武力をもった移民を優先的に回してもらう、という条件に変えてもらいたいんだ」

「それは、どういった意図がおありなのでしょうか?」


 カナティアがすかさず割って入った。けれどルカルーの兄ちゃんの笑顔に変化はない。


「荒れやすい周囲の海と魔界の穴、クラーケンや海蛇などのおかげで、ルーミリアは長年魔界と戦争をしてどのような情勢になっても、容易に攻められることはなかった。ルーミリアが力を失った時には決まって強大な魔王軍が占拠していたからね、当然と言えば当然だ」


 だが。


「これからは帝国が地盤を固め、力を付けなければならない。海に頼ってばかりではいられないのさ。スフレと違って、いまだ我が騎士団の海上での力は頼りないから」

「まるでスフレの海賊を疎ましく思っているように聞こえますが」

「そう聞こえたならそれでもいいよ」


 笑顔の二人の攻防が胃に痛い。


「自国を守るための兵力を手に入れるのが急務なんだ。タカユキ、我々が投資の見返りに求めるのは魔界の武力だよ」


 背中の二人が危惧していた一言を、彼は笑顔で告げた。

 ルカルーがいても、いや、ルカルーがいたなら余計にこじれそうな話だ。


「もっとも、魔王どのがよければ、だけど」

「ふ……地上の空気が吸いたい奴を送り込むくらいはなんでもないな」

「そんな!」


 魔王は笑顔だ。そりゃあそうだよな。ルーミリアとどれほどやりあっても彼らはだいたいにおいて勝利を収めてきた。なにより、ルーミリアが悪い気を起こしてもまず俺たちのいる共和国を通る。和平を切り出す俺たちはそれを看過できないし、となればいくらでも対抗策をとれる。余裕なんだよ、魔界は。

 悲鳴を上げるカナティアの治めるスフレはそうはいかない。

 ルーミリアと同じ世界にあって、外交を行わなくてはならないから、できれば平穏無事に協調路線を取りたいはずだ。そもそも今回の戦いの前にはそういう路線で進んできたのだから、いきなりの路線変更にカナティアが警戒するのも無理はない。

 けれど、クロリアとクラリスから見れば路線変更は別に急な話でもないんだろう。どうするのかを伺うように、俺の背中に触れている。

 間に世界ができたことで、魔界の脅威が緩んだ。だから対外的な施策を取れるだけの余裕ができた。

 少なくとも姫である妹ルカルーが共和国にいて、勇者である俺が舵を取る限り、これまであった魔界の穴の脅威は消えたといってもいいのだろうから。

 より怖いのは同じ世界の人間達だ。それに構えるのも当然と言えば当然の話だ。


「もしルーミリアに武力を提供するというのなら、スフレにも考えがあります」


 カナティアの固い声にクラリスの手に力が込められた。

 しんどいなあ。しんどい状況になってきた。

 ルカルーの兄ちゃんはわかっていて、笑顔でこちらの出方を窺っている。

 今この会談で真に余裕があるのは魔王だけ。カナティアは警戒心バリバリで、膨らんだ尻尾が見えるくらいだ。


「それなんだが」


 ここからだ。しんどいけれど、だからこそ意義のある段階はここからだ。


「共和国を通って力のある者がいくことを止めることはしない」

「そんな!」


 カナティアが悲鳴をあげ、ルカルーの兄ちゃんの笑みが深くなる。

 けれど。


「ただし、その行く先を限定する気もないし、なんなら留めたいとすら思っている」

「へえ?」


 深くなった笑みに皺が寄る。


「そもそも、陣取り合戦で活躍できる人材を手放す理由が共和国にはないからな。どうしてもルーミリアに行きたい奴がいるなら止めるだけの魅力を手に入れることが俺たちにとって急務だし、どうにかしたい問題でもある」

「話が見えないな。タカユキ、きみはなにを言いたいのかな?」

「ルーミリアが投資した資源などに魅力を感じた人材がルーミリアに流れるのなら、それも仕方ないという話だ」

「……つまり、武力が欲しければ金を出せ、と?」


 ただ金を出すだけなら、正直に言って魔界やスフレと同じ土俵で戦えるだけの余裕がルーミリアにあるとは思えない。けれどそれを馬鹿正直に言ってルーミリアを敵に回すのも避けたい。


「ルーミリアの魅力をわかってもらえるだけの投資をして欲しい、ということだ」

「……ふむ」


 言い方でしかない、と突っ込めるのにルカルーの兄ちゃんは踏み込んでこなかった。

 だから重ねて言う。


「スフレや魔界に対してもお願いしたい。どこがどう、と優先する気もない。作物だって魔界のみならずスフレとルーミリアにも提供するつもりだからな。ただ――」

「ただ、我らが投資すればそれに見合った事業を行う。しかし基本的には共和国の理念を元に動くし、共和国を育て、地上と魔界に争いは持ち込みたくないのだという意思表示かな?」


 魔王は楽しくて仕方がないという顔だった。

 クロリアとクラリスが予め考えて誘導するべく作った話の全貌を、魔王は見抜いたのだろう。


「ああ」

「……どうかな?」


 魔王の問い掛けにルカルーの兄ちゃんが頷いた。


「いいだろう。ルーミリアはこれまで通りの支援を約束しよう。事業については希望をまとめるから、後ほど共和国側との協議で固めていきたいな」

「魔界も同様だ。希望事業に支援内容を添えて提案するから、クロリアと話を詰めてもらえばいい」

「では」「また」


 大人二人が余裕で結んで映像を切るのに反して、カナティアは渋い顔である。


「……納得いきませんわ、お姉さま」


 素直な言葉を露骨に出してしまうあたりが、二人に比べれば未熟なところなのかもしれないし、率直な外交姿勢と取ることもできる面でもある。

 ぶっちゃけ共和国において主軸の俺と国の方針をまとめるクラリスが親スフレな時点で、お察しというところもあるけどな。


「そう言わないで。スフレはどうするのかしら?」

「これまで通り。現状維持でいこうという方針を改めて固めるため、未来をどうするのか話し合うための時間でしたのに、スフレはいいようにやられっぱなしでした」


 ぶすっとするカナティアをクラリスがまあまあとなだめる。


「陣取り合戦ではわたくしとクルルと勇者さまがあなたに勝利をもたらしますから」

「……その言葉、決して忘れませんから」


 言うだけ言ってぶつっと映像が切れた。

 ほっと息を吐く。


「勝利をもたらすとは言ってくれるな、クラリス。ルカルーもそちらに入って余裕か?」

「ペロリとナコにコハナがいるんですよ? そこにあなたが加われば十分でしょう?」


 やっと会議が終わったっていうのに二人で火花を散らさないで欲しい。

 やれやれだ。


 ◆


「はぁー!」


 嫁が夜の食堂の壇上で杖を手にうなりを上げた。ランタンの火だけに照らされた室内は魔界はもちろん、スフレやルーミリアと比べても薄暗い。


「金がねえ! 指輪もねえ! 式を挙げる気あんのかな!」


 クルル。お前なにやってん。なに歌ってん。


「すみません、魔界のお酒は妊婦には悪いってお止めしたんですが」

「コハナ……お前まさか、クルルに酒のませたの?」

「まさか。お子様に悪い影響があるようなことはしませんよ。ただ、だめだって言ったらぶちって何かが切れる音がして、あれです」


 コハナが指し示した壇上で、魔界からもちこまれた機械から音楽が流れ出ている。


「お酒ねえ! 休みもねえ! お肉も魚もまだまだねえ!」


 どうしよう。


「朝起きて、みんなとね、肉体労働しまくって! 妊婦だぞ! 出産間近、だけど働きづめなのなんでかな!」


 あれ、俺の嫁なんだけど。


「こんな世界いやだー、こんな世界いやだー、元の世界にかえるんだー、元の世界に戻ったら-、毎日寝るんだいー」


 やんやと盛り上がる住民達には申し訳ないけど。


「ばかなの!? この世界いいよねって話をしなきゃいけないでしょ!」

「いいから黙って二番を聞け!」


 とん、と押されてしまいました。

 なんかの替え歌なのか、どうなんだ。男達の喝采を浴びてご機嫌なクルルを横目に、ペロリに手を引かれて椅子に座る。


「まあまあお兄ちゃん。クルお姉ちゃん人気者なんだよ?」

「……みたいだな」


 口笛を鳴らされたり手を叩かれたり。

 みんな笑顔でクルルを見つめているんですが。


「おかげで俺は死ぬほどはずかしいんですけど」

「クルお姉ちゃんにもクラお姉ちゃんにも、ちゃんと指輪あげて式かんがえてあげなきゃだめだよ」

「うける。ペロリに説教されてやんの」

「うっせ」


 テーブルについたナコに指差されて笑われた。ナコからは酒の匂いがぷんぷんする。隣にいるルカルーは手を叩いてクルルをはやしたてていた。

 なんだかなあ。


「はーいお待たせしました。お料理をお持ちしましたよー」


 さっき話したコハナが両手に抱えきれないほどの料理を持ってきてくれた。

 遅れて食堂に来たクラリスとクロリアが同じテーブルにつく。

 見れば別のテーブルにはリコをはじめ、ハルブで見かけた奴もいて、魔界から来た人型の姿の魔物たちと肩を並べている。


「酒場がねえ! お風呂もねえ! 温泉掘りたい何処掘るの?」


 ぴょんぴょんとぶクルルのお腹はもう十分身重のそれなんだけど。


「明かりがねえ! 火しかねえ! 個室もねえし落ち着かねえ!」


 なんであいつあんなに元気なの? っていうかなんであんなに楽しそうなの?


「娯楽がねえ! 読むものねえ! 話をするしか遊びがねえ!」


 そしてそんなあいつの歌になんでみんな楽しそうに手を叩いてんの。


「しょうがねえ! 肩ならべ、笑う以外にやるこたねえ!」


 どうしよう。


「どうしようも~ねえ~、笑うしか~ねえ~、どうせ住むならば~」


 ほんと、どうしよう。


「やるだけやって~、理想郷にして~、幸せになってやるのだー!」


 みんなの中心になって楽しそうに歌ってるの、あれ俺の嫁なんだけど。


「……コハナ」

「はい?」

「お酒、とびきり強いの残ってる?」

「もちろんデス!」


 持ってきてくれたお酒を一気に飲んで息を吐く。

 がつんとくるアルコールに身を任せて、もう一度食堂を見渡した。

 最初はぎこちない空気しかなかった、国の体裁だってまだ整えようとしている真っ最中の俺たちだ。

 打ち解ける気配だってなかったはずだし、不満や文句も遠回しに聞くこともあった。

 そのトップと会議をして神経をすり減らして、腹が減ってきてみればなんだ?

 嫁がぶちぎれて歌って踊って、それで仲良くなってんじゃん。

 なんなの、もう。


「ねえお兄ちゃん、こっちきて毎日たのしいね!」


 ペロリの言葉に笑って頷いた。


「ああ」


 壇上ではクルルが踊っている。

 あんな身体で無茶しやがって、まったく。


「ふーっ! 楽しかった。歌ったうたった、久々にがっつり楽しんじゃった」

「おう」


 汗を掻いてひとしきり歌い終えて飛びついてきたクルルを受け止めた。

 賑やかな食堂に集まる、共和国へとやってきた連中の空気はじゅうぶん和やかなものになっていた。

 どうせなら、もっとあげていきたい。


「ペロリ、次はお前の番だ。頼めるか?」

「ん!」


 微笑む彼女を見送る。

 コハナが目を付けた女の子たちが給仕にかけずり回り、男達が笑い声をあげ、食堂で魔物と人間が笑顔で言い合いながら料理を作る。

 壇上に立った聖女が踊り、身を翻して光りと共に大人へと姿を変えた。

 口笛や指笛の鳴る中、魔界から持ち込まれた壇上の機械がご機嫌な音楽を鳴らし始める。

 宴は始まったばかりだ。

 いい一日に違いない。いや、幸せだ。

 いろいろ面倒なこともいやなこともあるだろうが、なんだか乗り切れそうな気がしてきたよ。

 まったく……。


「タカユキ-、スフレからお酒もってきてもらおうよう。なに、魔界のお酒は身体にさわるって。むしろ飲みたくなるじゃないの!」

「あのな! あんまり飲むんじゃないの」


 クルルをなだめながら、ペロリの歌と踊りを見つめる。

 こんな夜を毎日過ごせるようにしよう。

 クルルが歌ったように理想郷にしてやろうじゃないか。




 つづく。

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