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第五十六話

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「お金がありません」


 それは真夜中、クルルの寝室で二人きりの時に言われた一言でした。

 祭りのお金をどうしようって話したばかりだぞ? なのにないの?


「嘘やん」

「嘘じゃありません」

「嘘やん、魔界で大金かせいだじゃん」

「国の運営費用で消えました」

「え」


 固まる俺にクルルは笑顔でした。


「嘘やん」

「嘘じゃありません」

「……カジノから奪ったお金は?」

「消えました」

「嘘やん」


 クルルがベッドの下から取り出したハリセンで俺の頭をすぱんと叩く。


「落ち着いて、タカユキ。これが現実かな」

「……まじで?」

「まじで」


 思わず目と目の間の肉を摘まんで天井を仰ぎ見る。

 俯いて、指を離して深呼吸をしてから、縋るようにクルルを見た。


「まさかのどっきり?」

「だったらいいなあと思うけど、ないものはないんだよ」


 そんな馬鹿な!


「どうしてなくなるんだよ! いかにも地下帝国築いていそうな大金持ちから有り金奪ったんだぞ! まだこっちにきて一ヵ月も経ってないだろうが!」

「そう言われてもないものはないんだよ! だってタカユキが魔界の重機たくさんいれたいとか地上の作物とか生き物連れてきたいとかみんなに給料払いたいとかいうから、月終わりに支払ったらそりゃあお金だってなくなるよ!」


 ぜえはあと息をする俺たちのいる部屋の扉が、こんこんと叩かれた。


「あのう……大丈夫ですか?」「お兄ちゃん、もめごと?」


 クラリスとペロリの心配そうな声が聞こえてあわてる俺たち。


「なんでもない!」「大丈夫かな!」


 はあ、と困った声を出す二人の足音が遠のいていく。

 俺たちは顔を見合わせて、同じタイミングでため息を吐いた。


「「 はあ…… 」」


 まいった。いきなり窮地に追い込まれてますけど。


「金、ないのか」

「ないものはないかな」

「……どうしよう」

「それなんだけど、金策が必要かな。結婚式も挙げたいし子供の養育費も必要だけど、それより先に生活費がなくなっちゃってるもの」

「致命的じゃねえか」

「そうなんだよね」


 はあ、ともう一度ため息を吐いたクルルなのだが、その顔は決して悲嘆に暮れてはいなかった。


「でも、こうなると見越していた私には策があるんだよ? タカユキちゃんと仕事してるし、ここらで一発、私もお仕事しないとっておもって!」

「おおお! クルルさすが! すごい! かっこいいぞ!」

「ふふん」


 さすがはクルル、と目を輝かせる俺にクルルはどや顔で胸を張る。


「そこでタカユキに問題です。この新しい世界でお金を稼ぐ方法とは、なんでしょう」

「え」


 まさかのシンキングタイム。

 まるで思いつかないですけど。思いついてたら実践してましたけど。


「ええ? なんだ? みんなで金でも掘るのか?」

「鉱夫さんとか来て貰えたら考えるけど、後かな」

「じゃあ……風俗街を作って魔界と人間界の客を呼び込むとか?」

「タカユキ、あんまりふざけてると怒るよ?」


 やばっ。クルルのやつ、笑顔だけど目が笑ってない。

 いや、ネズミ親分の話が記憶に残ってただけやねん。


「魔王やカナティアたちに借金する?」

「はあ……タカユキの生活力のなさには不安ばかり募るよ。だから私やクラリス様がいるんだけど」


 お小遣い減らさなきゃだめかも、という呟きに絶望する俺です。

 現状で既に月に酒瓶ひとつ買えてぎりぎりくらいのお小遣いなんだけど!


「準備資金をもらえばもらうほど共和国である意義が薄れるし、政治的な意味でもあまりに情けなさ過ぎてだめかな。独り立ちできない国に魅力はないもの」

「う」

「そうじゃなくて、税金をとったり交易を始めるの。幸いにして女神さまが作ったこの世界には人間世界にも魔界にもいない生き物や作物がたくさんある。それに間にあるから、交易をするなら私たちの国を通る必要がある意味でも、通行料を取ればお金は入ってくるかな」

「なるほど、とは思うが……それって、なんかせこくないか?」

「あんまりいい手じゃないんだけどね。人に来てもらわなきゃいけないのに、そのためにお金をせびっていたらいい印象は持たれないかも。でもお金もらわないとやっていけないよ」

「……じゃあ、税金徴収と交易をするのか?」

「とりあえずはね。そもそもこの世界のお金を作ったりしないといけないんだけど、外の世界との交流のためには外の世界のお金がいまはまだ必要かなって。で、いよいよとなったらそれくらいしなきゃだめって話だから、覚えておいてほしいかな」

「わかった」


 にしても、ふむ。


「税金はさておくとしてな。生き物や作物があります、で商売になるのか?」

「それだけじゃ意味ないから、既に色々と準備してるかな。説明する? 結構長くなるけど」

「……お、お任せします」

「情けないなあ、もう。じゃあざっくり言うね」


 笑われてしまう屈辱よ。

 悲しいかな、あれほど女神にダメだししていたざっくりに助けられてます。


「クラリス様の錬金術で作物の活性化と進化の研究をしてます。人間世界っていうよりは魔界に売り出す作物が開発できれば、いい資金源になるかも」

「ほう」

「ハルブから来てもらったリコたち海賊に海域の探索をしてもらいながら海洋資源の調査をしてもらってるから、こっちも期待かな」

「いつの間に。え、リコ来てんの?」

「ん。魔界の人たちと手を組んで港つくったり、魔界の船持ち込んでもらったりしててさ。取引上手だから、いろいろ活躍してもらってるかな」


 そういやリコには前の旅ん時に世話になったな。アイツは両親が海賊だけあって、そこいらの奴よりもよっぽどしっかりしてそうです。


「重機は基本的に街の整備に使っているよ。来月には少しばかり格好つけられるかも」

「仮設小屋あたりをやまほど作る感じか?」

「違うかな。そっちは一通りできてきたから、今は領主の館と道の整備をしてるよ」

「……領主の館って、いま必要なのか?」

「共和国としての体裁を保つ上で必要かな。タカユキがいる場所が国の中心ってみんながわかる形にしないとだめだよ」

「なんでだ? そんな余裕は今はまだないと思うんだけど」

「あのね。規律がないとまとまりようもないんだよ?」


 わかってないなあ、と渋い顔をするクルルに俺、おもわず正座です。


「法の成立にしてもクロリアとクラリス様と私でまとめている真っ最中なの」

「いつの間に」

「タカユキの気づかない間かな」

「すげえ」


 どやるクルルを拍手で讃える。


「いずれにせよ作物は目処が立ちそうです。海洋資源とかはむしろ、私たちの食事事情の改善って意味合いが今はまだ強いから、こっちは様子見かな。住居はまだ準備段階だけどね」

「……ってことは、どういうことだ?」

「すぐにお金は入ってこないけど、耐えれば状況は変わるかも」

「……じゃあ、問題がないのでは?」

「あるよ。なにいってんの? 祭りのお金はどうする気なの」


 ……おう。


「な、なんとかならないか?」

「なりません。来月のタカユキのお小遣いくらい、なんともならないよ」

「さりげに俺の小遣いがなくなってる!」

「だから金策は何か考えてみてね」

「遠回しになんとかしないと小遣いでねえから宣言!」

「諸行無常だよ」


 そこ、別にどやるところじゃないと思いますよ!

 くそ! 魔界に行くのも魔王退治も結局お金のためだったのに、世界を救っても結局お金で悩むのとかなんなの!

 早く何とかしなければ! お小遣いゼロから始める新生活なんて非常に厳しい!




 つづく。

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