第五十四話
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悪魔になったり人間に戻されたり忙しいクラリスの母体が無事なまま出産できるように効く薬を手に入れて地上に戻った俺たちを出迎えてくれたのは、クラリスの妹でありスフレ王国の女王であるカナティアをはじめ、ルーミリア帝国の国王ことルカルーの兄ちゃんたち二国の重鎮たちだった。
聞けばルーミリア帝都の茨は魔王の魔法によるもので、和解した途端に解けたんだとか。
魔王と三人で調印式を結ぶ連中を横目に、やっと羽根を伸ばせると思って帝都の部屋に入ったのはいいんだが。
「しくしくしく……」
泣きべそを掻いている女神がいた。
ベッドの上に正座をして待っている理由はなんだ。
「どないしたん」
「勝手に、世界、つくるなって、すっごい怒られた……」
ああ……。
「そういうことほいほいしてたら、きりないって、いわれて」
「まあ……うん」
俺もその通りだと思う。
「お給料減らされた……」
「もらってんのかい!」
女神が給料制ってなんなの? 誰に雇われてるの?
「今月ガチャくるのに……シンデレラガチャくるのに……しまむーお迎えしたかったのに……倍プッシュできない……」
「なんかしらないけど」
あんまりぐずぐずに泣いているから、ベッドに腰掛けて女神の頭を撫でる。
「お前の財布への尊い犠牲によって俺たちは救われた。ありがとな」
「……もうできないから、女神もう世界つくれないから、これ以上お給料減ったら」
「減ったら……なんだよ。食べていけないほど貧乏になるとかか?」
だとしたら申し訳なさすぎる。
「毎月ガチャを天井まで回してゲーム会社の奴隷になることもできない」
だいぶガチャ狂いだね、お前ね!
「それは幸せなのか? お前にとって幸せなのか? 本当にそれでいいのか?」
「ぶっちゃけ買い切りゲームの方がお財布に優しい現実。しかし会社がただただ儲かる基本プレイ無料のガチャ方式の方がいいっていうユーザー多数の麻痺した現実。女神絶望」
光を失った瞳で虚空を見るな。怖いだろうが。
「戻ってこい。お前が言っている言葉の意味がさっぱり理解できないから」
「ダウンロードコンテンツなんか消え去ればいい……とにかく、新しい世界、大事に活用してねんねんねん」
言うだけ言って消えやがった。
正直、すまん。
だが助かったよ。生活に関わる重課金はやめとけよ。程ほどにしとけよ……!
毎月天井って相当だからな!
◆
調印式を済ませたカナティアたちに呼び出された俺は、魔王をはじめとする重鎮たちを前に思わず聞き返す。
「なんて? もう一度言ってくれないか?」
「だから、人間世界と魔界との間にできた新しい世界の領主になってくれませんか?」
カナティアの言葉にルカルーの兄ちゃんとクロリアの姉ちゃんが頷く。
「厳密にいえばスフレ王国に住処のあるタカユキくんだが、我が妹をはじめ三つの陣営の人間と深い関わりのある唯一の立場にいる人間でもある。そもそもきみは勇者だ。きみになら任せられると思ってね」
「発起人はお前だ。ならばお前が責任を持つべきではないか」
魔王の発言の重みよ。
「お義兄様以外にその、戦興行とやらの完成図を思い描ける方がいないのです」
う、それを言われると。
っていうかカナティアにお義兄様って呼ばれるとくすぐったいな。
初めてじゃね?
やっと認めてくれたってことかね?
個人的にはむしろここからが正念場だと思いますけども。
「い、戦興行だと頭痛がするんで言い方変えるぞ。要するに陣取り合戦を遊戯として取り入れた祭りのようなものだ。そんな難しい話じゃないんだが」
「それでも、きみにしか頼めない」
ルカルーの兄ちゃんの言葉に二人が頷く。
どうにかして責任から逃れられないか考えを巡らせる俺に、カナティアは咳払いをしてから言った。
「お姉さまと我が王国の筆頭魔法使いを妻に迎えるだけならば、我が王国であなたの身分を立てていただく必要がございます。おわかりでいらっしゃいますでしょう?」
「うっ」
そ、それを言われると。
「もしきみが私の妹に手を出しているのなら……スフレに預けるわけにはいかない。私の後継者として、ルーミリアに来てもらわなくては困る」
「ううっ」
兄ちゃんまでそれを言うか。
完全なる板挟み!
「クロリアを預けているこちらとしては、魔界と人間世界の橋渡し役を任せたいんだが。そうでないなら……魔界から持ち出した金銀は返してもらわなければ。窃盗として裁かなくてはならない」
「うううっ」
魔王の一言がとどめだ。
三つ巴はさすがに無理!
「つ、つまり……なるしかないのか? その、新しい世界の領主とやらに」
三人そろって頷いた。
「共和国という形を取って、その初代領主になってもらいたいのです」
「……責任ある地位だな」
ううん。そういうのからなんとかして逃げようとしてきたツケが回ってきた。
「興行主となって、魔界と王国、帝国の人々からうまく金を集め、取りまとめ、成立させるよう尽力してもらいたい。無論、我らも手を貸そう」
魔王の言葉に兄ちゃんが頷いた。
「ああ。それとも……どっちつかずのまま、私たちにその身を三つに裂かれるくらいの多忙を押しつけられたいかな?」
「りょ、領主を引き受けたら結局同じじゃないのか?」
「だが……逃れるよりはまともな生活が送れると思うよ」
にっこりされると困る。
「み、みんなに確認してみないと――」
「そう仰ると思って、承諾を既にいただいておりますわ」
カナティアが見せてきた羊皮紙には仲間達の署名と血印が押してあった。
逃れる術なし。
「勇者は世界を救うのだろう? なら……新しい世界をまず救ってもらわなければ、我らは誰も救われない」
「くっ」
魔王の一言が止めになった。
……しょうがねえな。ここは腹を決めるか。
そうと決まればまず最初に聞かなければならないことがある。
「お給料って、どうなります?」
つづく。




