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第五十三話

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 ドレスを与えられたノーパンの仲間たちに挟まれて全裸で席に腰を下ろした俺は、向かい側を見つめた。

 魔王がいる。老いた執事もいる。クロリアに似た男女も。要するに魔界の重鎮たちが目の前に勢揃いなのだろう。

 名乗られたが覚えられる気がしないので、魔王ABCDEFくらいの覚え方にしておこう。

 クロリアの姉でもある魔王Aがまず口を開いた。


「お前達が魔界をどうする気なのか、まずは聞かせよ」


 仲間達の息づかいが聞こえる。

 クラリスとルカルーが互いに目配せをしていた。

 どちらが先に発言するかは重要な問題なのだろうが、序列とかを気にしていたら喋れなくないか? と思ったので咳払いをする。


「コホン。俺は勇者だ。勇者とは世界を救う者であるべきだと考える。その世界ってのは……別に人間達がいる世界だけを指し示すと限定する気もない」


 言ってみりゃ、納得だわ。

 クルルとふたりで暮らすあの部屋に呪いや悪意を感じとることもできるだろう。

 けれど、俺もクルルも沁みたのだ。あの場所に。詰まっていた優しさに。


「魔界だって人間の世界と同じ世界の一部だろ? だったら喧嘩するより和平を結びたい」


 俺の発言にクラリスは頷き、ルカルーを見つめた。

 だからルカルーはやっと口を開いた。


「ルーミリアは常に魔界と接して、幾度となく衝突を繰り返してきた。だがルーミリアの願いは平和であること。だから攻められないように結界を張った」

「その結界、いずれ力をつけるまで隔絶し、こちらを滅ぼす用意が整ったら攻め込んでこないとも限らない」


 魔王Aの発言にルカルーが「そんなことしない!」と慌てる。

 だが向こうの問い掛けは結構痛い。何せそうでないと証明する手段がないからだ。

 ルカルーが生きている間は無事だとして、じゃあ帝国の子孫はずっと和平を大事にするだろうか? 証明しようがない。

 それ故に、


「姉上も意地が悪い」


 クロリアが笑いながら口を挟んだことに期待するしかない。


「このクロリアを仲間に引き入れ、ただ日常をのんびり過ごすようなゆるい地上の連中にそんな考えあるわけなかろうに」


 いいカードだ。

 クロリアの存在そのものが、魔王ないし魔物たちとの暮らし方を証明する。

 ここで攻めなければ、と思って口を開こうとするのだが。


「お前だけが特例であるという見方もできる」


 先手を打たれてしまった。


「事実、そこの勇者は清らかな乙女を奪ったこちらの手の者を、ただ力をつけるためだけに大量虐殺したぞ」


 ……あっ。

 やば。確かにペロリがさらわれて助ける時、コハナに案内された洞穴で経験値やまほどもった奴らを倒したっけ。

 クロリアが黙り込む。痛い指摘で切り替えされたことの証でしかなくて、魔王たちの顔が愉悦に歪んだ。やばい、ピンチ。

 そんな時だからこそ、だろう。


「おかしいですねえ。勇者さまの武器で倒された魔物は魔界へと強制送還されているはずですけど……死んでないはずですよ? それならコハナにはわかりますもの」


 くふふ、と意地の悪い笑い方をするコハナはいつものメイド服で俺のそばに立ち、魔王たちを見つめていた。

 魔王たちの笑顔が固まる。ということは、コハナの指摘は事実だ、ということだ。

 でも。


「え、そうなの?」


 初耳だぞ!? それ!


「勇者さまたちも死んだら教会に戻りますよね? あれと一緒ですよ。女神の授けた力ですからね、血なまぐさいのはなし。ただ追い払うだけなんです。魔物に変えられた人を攻撃した時も、その悪性しか斬りませんでしたよね? つまり、そういうことです」

「ええええええ……めっちゃ大事な話やんけ。言ってよ!」


 前の旅の時には教えてくれてもよかったじゃん、それ。

 そう思えるくらい、効果的過ぎるカードだった。

 だってほら、魔王たちがなにも言えずに悔しそうな顔してコハナを睨んでいる。


「この、死神め……!」

「死神ゆえに、死については誰よりも存じ上げておりますので」


 にこおお! というコハナのどや顔を口惜しげに睨む魔王たち。

 空気が変わったこの瞬間にクラリスが口を開いた。


「失礼ながら、我々のいる世界に攻めいる理由があるのは寧ろそちらではないか」


 お。クラリスってばマジモードだ。


「ルーミリアに伝わる茨姫の歌にもそちらから攻め込まれたことを示す歌詞がある」


 すかさずルカルーが声を上げる。


「古より続く争いの根源……まずそちらが我らの世界を攻める理由を述べよ」


 毅然とした態度で臨むクラリスには風格が漂っている。

 王位を継いだ妹がたまにこぼすのだ。「お姉さまこそ王位を継ぐべきだ」と。

 それだけの威厳と迫力を彼女はいま全力で発揮していた。

 魔王達が気色ばんでいる。


「言ってやればいいではないか。魔界はその勢力図が拮抗してきており、限界に達してきている。新たな土地を手にして資源を手に入れ、魔界を統一するための土台にしたいのだと」


 クロリアの言葉に魔王Aが厳しい顔を浮かべた。


「クロリア、しかし」

「真実だ。魔界の王としてクロリア含め姉上たち魔王がいるが、いつだって王位を簒奪しようとする血の気の多い連中が魔界にはゴロゴロしていて、そういう連中をなだめる最も手っ取り早い手段こそ地上侵攻だと言えばいいだろう」

「クロリア!」


 魔王Aの顔がどんどん張り詰めていく。

 だからクロリアの言葉は真実なのだろう。


「なるほど。自国をまとめるために他国を利用する。その手段こそ侵攻である、と……」

「よく聞く話だ。敵を外に置いて団結する空気を作る。敵がいる間は内側で揉めている場合ではない、という流れを作り、内紛を収めるために秘密裏に手を打つ」


 そんな単純な話なの?

 きょとんとしている俺、ナコ、ペロリにコハナがにこにこしながら耳打ちして教えてくれた。

 そういうものなんですよって。

 実際、クラリスとルカルーとクロリアは攻め続ける。


「不備を指摘する場ではない。それゆえに交渉の材料にこそすれ、非難はしない」

「だが反人間界思想というものがある限り戦いは終わらないし、また……そちらに終わらせる気がないのであれば、そもそも和平など結べない」

「はっきり言ってやればいいのではないか、姉上。どうするのだ」


 魔王たちが苦しげな顔を一瞬だけ見せて、息を吐いた。

 魔王Aに視線を集める。彼女こそ、今の彼らにとっての頭なのだろう。


「……率直に言おう。進化の秘法は未だ完成せず。魔界は人間たちのいる世界に比べて発展しすぎたが故に、限界に来ている」

「はっ」


 クロリアの楽しげな反応こそ、魔王Aの言葉を真実たらしめる証なのかもしれない。


「外に敵を置いても、内実を変化させない限り世界は変わらない。その限界を感じていることも認めよう」

「……そこまで」


 クラリスの素の声は、魔王Aが明かす内情に何かを感じているからか。


「この場で我らがお前たちを倒したとて、またいずれ……近いか遠いかは別にしても、やがて攻めてくることは明白だ。魔界のほうが発展しているのだから、技術を欲する可能性も大いになる」


 たしかに彼女の言うとおり、その可能性は否定できない。

 技術が発展している側に立ち向かうほど愚かな真似はしないだろうっていう奴は、じゃあこっちが魔法技術を発展させている現状と、その発展性についてどう考えるか将来性に尋ねるべきだ。魔界が引いて、やがて地上が発展したら? そのとき、魔界はどうするか。


「この場でお前達を洗脳したとて、人間世界を攻めれば第二、第三の勇者が現われることもまた……明白」

「それが世界の摂理ですから」


 コハナの笑顔の肯定に魔王Aが深く呼吸をした。一度、二度……三度。


「争い続ける構図で何度も繰り返していく……それが今までの歴史であるし、人間世界は幾度となく勇者たちによって救われてきた」


 前回の旅の途中で勇者の墓で出会った冴えない幽霊たちは、それでも真実勇者だったのだ。


「争うか、諦めるか……政治に気を配りながら、難しい局面と向き合う必要がそもそもあるのか……」

「それこそ考えるべき問題ではないか」


 クロリアの願う声に視線が集まる。


「前回、姉上の代わりに地上へ出て……戦った時に思ったよ。勇者と戦うのは楽しい。陣取り合戦もいい。だが……魔界の問題はなにも変わらないと。ただ問題を抱えた土地が広がるだけなのだと思ったよ」


 それは……。


「一概に肯定する気はありませんわ。領土拡大で解決する問題もあるのだから」


 クラリスが真っ先に声を上げた。


「けれど、クロリアの言葉にもまた真実があると考えます。現状でいても……わたくしたちの目的は達成されないという……真実がそこにはあると思います」


 威厳よりも誠実さを声に滲ませるクラリスの姿勢に舌を巻く。


「いかがでしょう。問題を先送りするような争いよりも、わたくしたちは互いに歩み寄ることはできませんか?」


 やはり……クラリスは凄い。

 魔王Aの顔が初めて悩ましげに歪む。


「……頷ければいいだろう。そう思いもする。だが、取り決めをまとめたとてそれが履行されるとは限らない」


 いや、と彼女はすぐに否定を口にした。


「そちらを疑っているだけではない。こちらにも問題を抱えているのだ。クロリアの言葉は……真実だからな」


 それを認めてしまうことで厳しい状況になるだろうに、魔王Aは確かに認めた。

 まあでも……そうだな。ネズミの親分みてえな悪党がいるわけだから、他にも困ったちゃんは山ほどいそうである。


「……ううん」


 クルルが腕を抱えて唸った。


「ねえタカユキ、なんかもっとこう……うまい手はないかなあ」

「お前ね。ここでいきなり俺に振る?」

「でも勇者でしょ? 世界を救う勇者なんだよね?」

「でも、なあ! 難題すぎんだろ!」

「じゃあ――……私たちの愛するタカユキなら?」


 ずるいしきゅんとくる言い方するね、相変わらずお前ってやつは!

 思わず唸る俺。

 全裸に視線が集まる。


「ええ? ええっと……参ったな」


 腕を組んで考える。


「ただ争うだけでもだめで」


 魔王Aやクロリアを、ルカルーの国を思えば真実その通りだ。


「かといって普通に手を組んでも問題は山積みだから、うま味がなさそう……なんだよな?」


 俺の問い掛けに何人かが頷いた。


「仲良くケンカして、終わったらすぐ仲良しになれて。わいわい盛り上がれて、すっきりできればいいのにね」

「いっそ運動したりお祭りでもみんなでするとか?」


 ペロリとナコの素朴な発言に魔王勢のみならずクラリスやルカルーも「そんなうまい手段はない」と困惑顔なんですが。

 だからこそ、二人の素朴な発言に俺は頭痛と共に閃いてしまうんです。


「ああ……あるわ。そんなうまい手段が一つだけ」


 みんなの視線が集まる中、俺は仲間達を見た。

 みみとしっぽの生えた仲間達。

 そして……互いに攻撃しても互いの世界に戻されてしまうだけで、悲惨なことにはならない優しい世界。

 それはきっと、あの普段は雑な女神が見せる慈愛によってできている祈りそのものだ。

 なら……ちょうどいいじゃないか。


「コホン、なあ女神」


 呼びかけると空に光が差した。

 そしてごく当たり前のように女神が顔を出す。そばにはコルリもいた。

 すげえな。三つの世界のトップ会談状態だぞ、これ。

 感動している場合でもねえけど。


「頼みがあるんだけどさ。お願いできねえか?」

「なにかな?」


 きっと聞いてきてはいるが、俺の意図などお見通しなのだろう。

 女神は幸せそうな笑顔で俺の言葉を待っている。


「戦興行をはじめたい」


 その発言は頭痛を伴う。

 元いた世界の知恵だからだ。


「そのための摂理を人間世界に活用できるようにならないか?」

「まさかの犬日々。でもでもタカユキがそれを思いつくってことは、みんなのみみとしっぽにやっと思いを馳せてくれた証だと思うので、女神はそれを叶えてあげたいなあ」

「じゃあ――……」

「でもまんまやると、世界の摂理を変えるほどの魔法を付け足すことになる。女神も天界のみんなに怒られちゃうから、女神流にアレンジしちゃうけど。それでもよければ……お願い聞いてあげる」

「できるのか?」

「楽園が欲しいって、前にぽろっと言ってたもんね?」

「――……覚えてたのかよ」


 帝都戦のときだったかな。つい口走った気がするよ。

 話についてこれてない面子を見渡して、女神は微笑んだ。


「そーだなー。今ある世界だけを舞台にすると揉めちゃう気がするから。新たにもう一つ、境界をつくっちゃおう。設定はどのくらいがいいかな、ねえコルリはどう思う?」

「男は獣玉かちび魔物に、女は脱衣でいいんじゃないかな」

「女性客向けに男も脱衣の方がよくない? だいたいさー。それだと元ネタと同じじゃん。まんますぎるじゃーん。怒られるよ?」

「じゃあ、みんな脱げればいいんじゃないかな。ただしどちらもパンツだけは残る方式で」

「なんでなんで? なんでパンツはのこるの? 女神そこ気になるんだけど」

「だってパンツで救われる世界だろ? ならパンツ一枚あればいいじゃないか」


 なるほど、と指を鳴らした女神が両手をかざした。


「じゃあ傷つくかわりに脱衣しちゃうような世界を魔界の穴と人間世界の間にもう一個作るから、あとの詰めはタカくんたちでやってね? こほん、せーのっ」


 のののののーんっ!!!!

 女神の叫びによって何かが起こった……らしい。

 俺からそっとパンツを取って女神は消えてしまった。


「……ええと」

「話についていけてないぞ。誰も。説明しろよ勇者」


 困った顔のみんなに頬を掻きながらも、しかし俺の心に不安はなかった。

 案外なんとでもなる気がするんだよな。


「じゃあ……俺の考えを説明するよ」


 全裸で向き合って今更不安になることなんてない。

 それに案外うまくいく気がするんだよな。




 つづく。

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