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第五十二話

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 指輪すげー。

 さすがは女神のパンツといったところか。

 壁をすり抜けて魔物をやり過ごして、クルルたちを探すのだが……見つからない。

 透過の力ってところか?

 ならばと開き直ってどんどん奥へと進むことにした。

 感覚としては研究所に近い。魔物達が板っ切れに向かって真剣な顔で何かをしていたり、あるいは大きな硝子瓶の中を満たす液体と肉塊を見つめていたりしているからな。

 警戒に走る魔物たちの話を聞いているとここは議事堂の中らしいが、地下に広がる牢獄といい、研究施設といい魔界ってのは不気味なところだな。

 奥へ奥へと進んでいくと、とびきり厳重な扉が見えてきた。

 その通路に魔物はおらず、あちこちに魔物たちが武器として扱う鉄の塊が設置されている。

 しかも鉄の人形まで鎮座していた。

 あれっていわゆる中ボスですよね。

 壁伝いにごまかしながら進めたらいいんだけど、巨大な円筒形の部屋に通路は一つ。その中心にある円筒形の部屋はいかにも最終目的地。

 なので突っ切るしかない。


「だ、だいじょうぶか? 動き出さないか? 動き出す……よね!? やっぱり動き出すよね!?」


 人形の目がびかびかっと光り、物々しい音を立てて起き上がった。

 その手には分厚い鉄の剣が何本も握られている。

 けれど俺は丸腰だ。もっといえば全裸だ。さらにいえば女神のパンツをかぶっている。

 立ち向かえるはずもない。

 あわてて逃げようとした俺の腹を鉄の剣がかっさばいて――……何事も起きなかった。


「ゆ、指輪すげえ!」


 怒濤の連続攻撃を繰り出されるけれども当たらない。

 何事も起きないとわかれば気にせず進めるってもんだ。

 人形の足下を通り抜けて、扉ごとすり抜けて先へと進んだ。

 そこにいたのは――……。


「いい加減目障りだよ、勇者」


 魔王、そして――……。


「みんな!」


 硝子の瓶の中に満たされた液体に浮かぶ仲間達だった。

 みんな目を閉じて、口を覆う包みに繋がれている。


「仲間は返してもらうぞ」

「退屈なやりとりはいらない。新たなパンツを持っているようだが――」


 魔王が指を鳴らす。

 再びパンツがはじけ飛ぶことを覚悟するが――……。


「あれ?」


 魔王がおっかしいなあと声を上げて、再び指を鳴らすのだが。

 しかしなにも起こらなかった!


「なんだ、そのパンツは!」

「なんだ、そのパンツはと聞かれたならば、答えてあげるが世の情け!」


 腕を組んでどや顔の俺、全裸。

 せめて相棒ひとりとにぎやかし一匹がいてくれたら決まるんだけども。


「一致団結、一連托生! 女神のパンツをかぶった勇者タカユキ、お前の攻撃など効かんぞ!」

「ちっ……どこまでも目障りな女神の力め! 消えろよ、勇者!」


 魔王がその手に黒い魔力の塊を生みだし投げつけてくるが、まあ当たらない。

 ついには背後の扉が破壊され、鉄の人形だけでなく魔物や老いた執事まで加わるのだが、まあ当たらない。

 指輪すげえ。こっちから攻撃しても素振りにしかならないあたり隔絶を感じますけどね。

 とうとう全員が疲れ切ってその場にへたりこんだ時、俺は魔王に尋ねた。


「なー。燃えているところすまないんだが。あんたたち、なにが目的なんだ」


 油断して指輪を取ろうものなら即死亡間違いなしなので腕組みしながら尋ねる。

 ぜえはあと荒い呼吸を繰り返す魔王が俺を憎々しげに睨んできた。


「地上を制圧しなければ……んっ」


 唾を飲み込んで、額を拭って魔王がより一層目力を強めてくる。

 女神みたいなレーザー出しそう。怖い。


「いずれ地上は我らを滅ぼしに来る」


 とはいえ、怯んでもいられないな。


「そーかな」


 俺にはとてもそうは思えないんだが。

 まあ……俺の仲間に限ってそれはないとしても、ネズミの親分みたいなのもいるし、スフレやルーミリアにもその手の連中がいないとも限らない。

 魔王の考えもわからないでもないんだけども。


「じゃあいっそ、手を組まないか?」

「はあ、はあ……は?」


 周りにいる魔物たちを含めた全員がきょとんとした目で俺を見てきた。


「いやだから。和平条約的なのを結びません?」

「なぜだ! この状況下で、貴様はいったいなにを言い出している!?」


 正気を疑う気持ちもわからんでもないけど。

 さっき俺を拘束した魔物ふたりの会話も、途中で聞いたドーナツにきゃっきゃとする男の魔物たちの会話も、魔界の連中もみんな、地上の連中と同じように普通に暮らしてるだけなんだよな。

 で、いちいち喧嘩する必要があるかって話だ。


「なぜもなにも……魔王が進化の秘法とやらを求めたのって、こっちの魔物たちが……便宜上呼び方を変えると、人間界にいくと弱くなることへの対策のためだろ?」

「ああ……そうだ」


 不機嫌そうな魔王に寄り添う老いた執事。

 二人を見つめて思う。


「でもクロリアやお前達二人を含め、一部は無事に人間界に出られるわけで」

「ああ」

「人間達にしたって、魔界にきたら生活に溶け込んじゃう呪いにかかってるわけだよな?」

「……そうだが」

「戦う必要なくないか?」


 しれっと言っちゃう俺に魔王の顔が。こいつなにいってんの、って顔に。

 そばにいた執事がその手をそばにある板きれにあてる。

 するとどうしたことだ。硝子瓶の中の液体が抜けていって、仲間達が一斉に目を覚ますではないか。


「お、おい!」


 慌てる魔王に執事は人差し指を立てて、それから微笑んだ。


「――……これまでの勇者とはひと味違うようです。席を変えましょう。彼は話し合いを求めている。なにより我らは彼に手出しができないのです。彼が悪い気を起こさぬ内に」


 魔王の険しい顔に皺が寄るのだが、肩で息をして疲れ切っている魔物達を見渡してから、指でその皺をほぐしてため息を吐いた。


「わかった……全裸に和平の提案をされるとは。馬鹿馬鹿しくなってきたからな、そいつに服を用意してやれ」

「かしこまりました」


 歩き去る魔王に魔物たちがあわててついていく。鉄の人形は元の位置へと戻り、動きを止めた。

 さて、指輪を外すべきか、いなか。仲間を助け出すなら外さなければならないのだが。


「僭越ながら、まだそちらの指輪はおつけになっていた方がよろしいかと」


 老いた執事から促されるとは思わなかったので、意外だという心境がもろに顔に出てしまうのだが。


「な、なんであんたが俺に助言を?」

「我らがあなたに干渉できぬように、またあなたも我らに干渉できない。その象徴のようにお見受けしますので。和平を結びたいのならば、ぜひとも全裸で会談に臨んでいただきたい」


 すごいこというな。このじっちゃん。


「……つまり、服を用意する気はない、と?」

「すべてが終わるまではご容赦願えれば」


 笑顔の執事の迫力たるや、尋常でない。

 コハナと互角以上の戦いを繰り広げていたし。

 かつての魔王さまとかじゃないよな……?


「まあ……いいけどさ。仲間達の世話は見てくれるんだろうな」

「率直に申し上げて、地上の重要人物のみならず死神もおり、さらには我らの側にいたクロリア様もおりますゆえ。会談には参加していただくつもりですよ」


 手出しはしませんので、ご安心を。

 そう言う相手を信じるべきか否か、俺は冷静に見抜かなければならないのかもしれないが。

 何せパン一ですらないただの全裸だ。

 腹芸なんて向いちゃいない。


「じゃあ頼んだ」


 笑って頼む俺に執事は目を見開いて、それからふっと微笑んだ。


「かしこまりました」


 さあ、決着をつけるために話し合いにいくとしますか! ……全裸で。




 つづく。

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