第五十一話
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飯を食べた俺たちは魔王がいるという議事堂を前にしていた。
奇襲をして一気に攻め入り魔王を倒し、薬の開発を止めさせてついでに地上侵攻も諦めさせてはい終わり、なんだが。
そう簡単にいくわけないよなあ、と実感しています。
「まさか、のこのことやってくるとはな」
俺たちを魔物たちが取り囲んでいた。
その手に握る鉄の塊の先端が俺たちを向いていて、大人しく両手を挙げることしかできない。
無様な俺たちを前に魔王は腕を組んで上機嫌そうに笑っていた。
「連れ出した錬金術師ともども戻ってきてくれて助かったよ」
俺たちへと近づいてくる。
クルルが、コハナが、クロリアが俺を見つめてきた。
理由は一つだけ。
クロリアに悪魔に変えられた際に俺が手に入れた力は二つ。
一つは懐刀の強化。
もう一つは口づけによる絶対服従。
いざとなったら。
「まだ何かを企んでいるな? 窮地に乙女の唇を見つめて何をする気かはしらないが、近づくのはやめておこう」
「タカユキばか」「愛すべきばか」「ばか勇者」
以上、三者三様の罵倒でした。
「不肖の妹とは異なるが、私にも力がある」
ぱちん、と魔王が指を鳴らした瞬間に俺の服が弾けた。
ぱん、と。見事なまでに弾けた。
一糸まとわぬ俺、マジ全裸。
「何が狙いだ」
いっそ真顔で尋ねる俺に構わず、魔王はさらに指を鳴らした。
ぱぱぱぱぱん! と弾ける音がいくつも聞こえた。
クルルたちのスカートの内側からだ。
仲間たちの黄色い悲鳴が聞こえる。
「勇者の装備はパンツを含めてすべて消し飛んでもらった……連行しろ」
ふり返ってみたら仲間たちが揃って真っ赤な顔して下半身の服を押さえている。
ってことは、あれ。
「みんな、今ノーパン!?」
みんなの反応はどうだったかって?
ばか! だとさ。
◆
全裸で鉄の牢獄にいると、思い出すな。
こっちの世界に来た時には俺ってパン一で牢屋に入れられたんだよな。
あの頃のクラリスは怖かった。
国の責務を背負って戦っていたんだから、当然っちゃ当然だよな。
それでクルルに助けられてさ。
「なあ、なんでこいつ全裸で手足縛り付けられてにやにやしてるんだ?」
「ドMなんだろ。いいからさっさとしろ」
俺を連行した魔物二人が俺を鉄製の大の字プレートに押しつけて、手足を拘束し始めた。
「わかってる……うし。これで終わりだ。拘束終了」
「確認した。さっさと出ようぜ」
「魔王さまもこんな全裸なんかさっさとやっちまえばいいのに」
「いくら国の敵でも裁判なしに殺せないだろ」
「法治国家って大変ですよねえ」
「そうじゃないと俺らが訴えられたときに困るだろうよ」
深い! お前らふたりの話、とても深い!
やるべきことを終えた魔物たち二人が立ち去っていく。
大の字の鉄のプレートに縛り付けられた俺はといえば、全裸でぼんやりすることしかできない。
こういう時に女神が出てきたりなんて、そう都合のいい展開は……。
「やっほー、タカユキ」
あるよねえ。あるんかい。
天井に光を吐き出す穴が空いていた。
そこから女神がひょこっと顔を出してきたのだ。
「マジでお前神出鬼没だな」
「伊達に女神じゃないよ」
「で、助けに来てくれたのか?」
「んー。どうしよっかなあ……じょ、冗談だって。そんな怖い目つきで睨まないでよ」
まったく。
「でもタカユキには触れないかなあ。穴からそんなに離れられないっていうか、それが限界だからさあ」
「じゃあどうするんだよ」
「ぱんぱかぱんつ!」
いつか聞いた呪文を唱えてどや顔で女神が取り出したのは、いつか見た白いパンツだった。
「これをねー」
「おい待て、何をする気だ。なぜ俺にかぶせようとする」
「特別大サービス。女神のパンツをかぶせてあげます」
「やめろ! 全裸で縛り付けられて女性パンツをかぶるとかアウトだろ!」
「いーえー? この世界的にはむしろアリです!」
柔らかい布がかぶせられた。
「すべてを片付けたら返してもらうから、さくっと魔王を倒してきてね」
ばいばい、と言って女神が穴の向こうに身体を引っ込めた。
光は消えてそれっきり。
やりたい放題やっていっちまったな、まったく。
「さて……」
女神のパンツか。ありがたさで言えば相当なもんだが、そういえばこの世界に来て最初に手にしていた女神のパンツの力はなんなのか……試したことがなかったな。
どんな武器が出るのか。
念じてみるのだが……手にそれらしい感触はない。強いて言えば右手の薬指に指輪が嵌められたような気がする。
手をあげて確認してみればなるほど確かに指輪だ。
あいつ、何かに影響されて適当なもんをよこしたんじゃあるまいな。
指輪で何をどうしろって――ん?
「待て。なんで拘束されてるはずなのに手がここにある?」
頭をあげてみたら拘束台に変化はない。
まるですり抜けたといわんばかりだ。
試しに左手をあげてみると、今度は拘束をすりぬける光景をはっきり見ることができた。
台から降りて、鉄格子に手をかざす。
どきどきする俺の右手は鉄格子を見事にするりと抜けてその向こう側へ。
お、おおお。これはマジで凄いな。
武器ではないが、これはかなり使える。
しかし幻想的な世界で力のある指輪って大丈夫か? 頭が痛いどころの騒ぎじゃないんだが。
「なんて考えている場合でもねえな」
さっさとみんなを助けて魔王に立ち向かわなければ。
そう思った矢先のことでした。
「今日のドーナツは限定生産百個だけのやつだ」
「お前って相変わらずそういうのが好きだよな。どうせなら俺の分も――」
魔物と出くわしちゃいました。
どうする?
つづく。




