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第五十話

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 考えてもみたら、今更ネズミくらい楽勝じゃね? と思ったのですが。


「なかなかしぶとかったね、あのネズミ」

「ああ。床を熱い鉄板に変えて土下座を求めてきたときには参ったな」

「二段変身もしたよね」


 うんざりしながら俺はクルルたち仲間と一緒に二人の部屋に帰還しました。

 カジノの金はいただき済みです。

 クロリアのカードに補填する形で手に入れてあります。

 それを金貨に変えて持ち帰らないといけないのですが、それについてはクロリアとクラリスに考えがあるみたいだから任せるとして。


「そろそろ……魔王との対決だよね、お兄ちゃん」


 ベッドに女の子座りをするペロリに頷く。


「ああ。それなんだが……」

「気が進まないって顔してる」


 ナコの指摘に苦笑いを浮かべてしまう。


「こっちの世界にもそれはそれで興味が出てきたんじゃないかな」

「勇者さまの元いた世界にそっくりですからねえ」


 キッチンで調理に勤しむクルルとコハナの指摘が心に刺さる。


「案外、魔界の人間だったりして!」

「コハナ、冗談でもやめてくれ」

「くふ★ ばれちゃいました! でも、思い出しますね……」


 コハナには思うところがあるのかな、と思いつつ頷いた。


「ああ」


 否定できないレベルで似てるんだから。微妙に地域名が違う感じがするけども……まあそれは些細な問題だ。


「こっちの魔物たちに愛着でも湧いたのか?」


 ルカルーの指摘は鋭かった。


「お部屋に入る前に出くわした魔物さん、普通に笑顔で挨拶してきたね。ペロリ思わず普通にこんにちはって返事しちゃった」

「お菓子をもらっていたな」

「素敵なおばあちゃんだったよ?」


 ルカルーの相づちにもどかしそうに頷くペロリである。

 移動中に出くわす魔物も俺たちに気づかず、ただ普通に生活をしていた。

 仕事に向かったり、友達と雑談していたり、恋人と腕を組んでいたり。

 あるべき日常がただ存在しているだけだった。

 そこに人間世界への害意なんて見いだせるはずもない。


「……普通に平和だよな、こっちって」

「当たり前だろ」


 クラリスと向き合って床の上に存在する金貨に手をかざしているクロリアが声を上げる。


「日常が脅かされるほどの戦争状態って、日常がそもそも崩壊しているものだ。このクロリアが魔王だった時のスフレやルーミリアは、その観点でいけば厳しい状態だったはずだ」

「……まあ、そうですわね」「そこまで追い詰めた本人に言われると複雑だけどな」


 クラリスとルカルーが渋い顔だ。

 考えてみれば凄い組み合わせだな。各勢力の頂点にいた三人なのだから。


「そこへいくと、ルーミリアは魔界を攻めないからな。魔界の中での小競り合いこそあれ、首都はこうして平和ってわけさ」


 元魔王の言葉に狼は項垂れる。


「臆病なんじゃない……縄張りを守りたいだけだ」

「ふん」


 クロリアには思うところがあるのか、肩を竦めるだけだった。

 ルカルーも、クラリスさえもが黙り込む。


「なあ。なんで領土を拡大しようって考えるんだ?」


 ナコの問い掛けにますます空気が重たいものへと変わる。


「スフレは……現状維持が国策のように見えておりますが、ルーミリアとの協調路線で交易を発展させて、周辺諸国を牽制し、隙さえあらば攻めようという機運もないではありません」

「クラリスさま!」


 すかさずクルルが声を上げた。そんなことまで言っていいのか、という呼びかけだ。


「いいの、クルル。人が増えれば一枚岩ではいられないし、であれば……いろんな意図が生まれる。それをまとめ、強くあろうとしなければ容易く飲み込まれ、消えてしまう。わたくしはそう考えております」

「ルカお姉ちゃんは、ルーミリアは……それでいいの?」


 ペロリの不安げな問い掛けにルカルーは力強く頷いた。


「無論、その手の狙いに気づかずにスフレに手を差し伸べているわけでは決してない。兄様をはじめ、我が騎士団と貴族はその血をもって領土を守っているし、それは今後も決して変わらない。だからこそ、魔物に攻めてこられては困るのだ」

「結界での隔絶、否定はしない。けど……攻め手としての戦略に欠けるところが今のルーミリアにはあるな。その点でいけばスフレの方がよっぽど手強いよ」

「ぐ、う……」


 口惜しげに唸るルカルーをクロリアは労るように見つめた。


「昔の狼は手強かったと聞く。またそのあり方も、みなが守るならば理想的に推移していくだろうさ。このクロリアには、狼たちを手にかける愚挙を犯せなかった」


 それはクロリアなりの譲歩なのかもしれない。


「ナコさんの問いかけにも……わたくしたちの国の行く先にも答えはないと、わたくしは思います。人の集まり、移ろいゆく時代。評価は歴史に対してでしか、くだせない。なぜなら――……」

「なぜなら、常に誰もが最善手だと信じて行動を起こすから、か。それも理想に傾いている」


 クラリスの言葉にクロリアが憂鬱な声で語った。


「ううう。むつかしいよ! みんな仲良くすればいいのに!」


 真っ先に降伏したペロリの言葉に三人は呆れるのかと思ったが。


「……それが」「ああ、一番な……」「難しい」


 それぞれに項垂れてしまうのだった。


「はいはい。お腹すくと暗いこと考えちゃうかな。ご飯食べればいいよ、食料品どれもまだまだ食べられるから腕を振るったよー。だいたいさー」


 テーブルに料理を並べるクルルの声にみんなが顔を上げる。


「いまさらこの面子で何を語ってるのかな。一番難しかろうが、仲良くやれてるじゃない。元魔王と勇者が一緒にいる時点でさ。壁なんて乗り越えられるってことの証明になるんじゃないかな」


 あっけらかんと語られる事実に三人が顔を見合わせた。

 不意にふっと笑うのだ。


「確かにクルルの言うとおりですわね」

「違いないな……ルカルーもその通りだと思う」

「食卓を囲えば気づく。同じモノを食べ、同じ笑顔で満たされあえるその事実に。なるほど、確かにその通りかもな」


 久々の魔界の飯、楽しみだとはしゃぐクロリアの存在もさることながら。


「ん? どしたの、タカユキ」


 きょとんとした顔でいるクルルとか。


「お腹すいたー!」


 いそいそと椅子に腰掛けて微笑むペロリとか。

 肝心な疑問を形にするナコや、微笑みながら見守れるコハナがいる。

 この仲間達が未来の形だと思えば、これほど力強いものはないのかもしれない。




 つづく。

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