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勇者タカユキと悪魔の薬~異世界パンツ英雄譚2~  作者: 月見七春
第二章 再びの港町、海賊娘、白鯨
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第五話

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 港町ハルブに向かう道を進んでいると、盗賊Aが現われた。

 盗賊Bが現われた。

 盗賊Cが現われた。

 盗賊Dが――……中略!

 盗賊FFFFが現われた!

 ずらりと並ぶ盗賊たちに取り囲まれてしまった!

 見渡す限り盗賊だらけ。

 さあ、どうする?


「どうするじゃないよ! 多いよ! せめてFまでにしろ! なんだよFFFFって! 十六進数かな? ってぴんとくる層がどれだけいると思ってるんだ、いい加減にしろ!」

「見事に囲まれちゃいましたね! あは! やっばいかも?」

「お兄ちゃん、どうするの?」


 まあ待て、と声を掛けようとした時、俺より先に盗賊の誰かが口を開いた。


「おい」


 その声を呼び水に山ほどいる盗賊たちが口々においおいおいおい言い始める。


「待て! 待て待て待て待て! 合唱かい!? みんなでおいおい合戦かなにかかい!? つまらねえな! 自覚してるけど、でもこれだけは言わせて!? うるさいわ! おいの大合唱みたいになってるからな! たいして意味のないかけ声を大勢で言うんじゃないよ!」


 耳を塞いで叫ぶ俺の声すら、連中にはまともに届かない。


「コハナ! まとめてぶっ倒せる魔法とかないか!」

「クルル様じゃないので! そういうのは管轄外っていうか! 使用したら規則違反で酷い目にあいます!」

「お兄ちゃん! ぶん殴る!?」

「殴ってどうにかなる数じゃねえだろ!」


 怒鳴り合う俺たちの周囲に突如、変化が起きた。

 おや……? 盗賊たちの様子が……?


「これはまさか!? まさかのまさか!? 合体!? もしやの合体の流れ!? 人なのに!? どうなっちゃうの!?」


 若干の期待を込めて見守っていたら、周囲の盗賊たちが魔物よろしく巨人になりました。

 サイズ感はマジで怪獣とかその手の類い。ちなみに肩車とかで巨人に見せてるだけなんだぜ。下にいる奴、よく潰れないな。

 魔法でも使っているのかな? もうちょっと有効な使い方があるんじゃないかな!


「おいおいおいおいおい! おいっ! どんだけでかくなるんだよ!」

「ふははははは! まいったか、勇者よ! 65535つ子の我らは合体できるのだ!」

「いやおかしいだろ! お母さんたくさんいるのかな!? 腹違いの兄弟かな!? むしろバックストーリーが気になり過ぎちゃうな!? よそう! せっかくの巨大化が台無しだぞ!?」

「ふふふ。いいところに気づいたな! じつは我々の開祖は双子の両親で、そのまた双子の」

「ややこしいから聞く耳はもたん! 一言で!」

「えっと。え!? 一言!? いや、ほら。驚くでしょ? なんかすごいスケール感出した方が」


 うっすいなあ!


「ペロリ、やっておしまい」

「んっ」


 地面をだん! と踏みつけるようにしてペロリが飛んだ。

 超巨大な合体人体の頭部まで飛んだペロリが「ぐー!」とパンチを繰り出した。

 瞬間、巨人は空の彼方へぶっ飛ばされてしまったのである。手を離せば何人も助かっただろうに。結束がかたすぎたのかな? 仲が良すぎるのも考え物かもしれん。

 雑さでいえば、女神もあの盗賊の説明も許されちゃうくらいなのが、この世界のリアル度なんだけども。スフレ王国の間抜けさに、たまについていけなくなりそうだ。


「あのぉ。合体しない方が強敵だったのではないでしょうか?」


 それな。ほんとそれ。

 数は力だぜ、盗賊よ。見誤ったな……。


「行くか」


 インパクトがでかいぶん、ちょっとしょんぼりしたよ。

 まさか盗賊たち、テンション下げる作戦に出たとか?

 ないない。次に繋がってないからな。


 ◆


 ハルブが見える場所に辿り着いたのは真夜中になってからだった。

 前回の旅ではスフレ王国筆頭魔法使いであるクルルに夜の移動中には魔法の光を出してもらっていた。おかげで闇夜を歩こうと不便がなくて助かったもんだ。

 逆に言えば今回はクルルがいないので不安だったのだが、問題は早々に解決した。

 死神に許された炎とやらがあるらしい。

 青く光る炎を手のひらに浮かべるコハナに先導してもらったよ。

 色合いからして、不穏だな。真っ黒じゃないだけマシか。

 そう思っていたんだが、俺は気づくべきだった。

 コハナの腹は真っ黒だということをな!

 街が遠くに見えてほっとした瞬間に、よりにもよって最悪のタイミングでコハナが明かりを消しやがった。


「ちょ。なんで消すんだよ! まだちょっと距離があるだろ」

「まあまあ、街の明かりが見えますから。それに今回はちょっと目立ちたくないんですよ」

「えええ?」

「いいからいいから。ほらほら、進んじゃいましょう」


 納得いかないんだけど、コハナにいくら尋ねても答えてもらえない。

 ペロリは眠いのかうつらうつらしている。

 以前なら抱っこしようか提案するべきところだが、子供扱いするなと言われたら困る。

 心配のしすぎ、構いすぎってのも問題かもしれない。

 自立しようとしてんのか。

 はたまた、子供として当たり前に愛情を求めているのか。

 それとも?

 第三の可能性があるように思える。

 ここ最近のペロリが俺にはちょいとわからない。

 思春期の異性の心理ってやつは難しい。

 なんなら出会った頃のクルルくらいにはなってるのかもしれない。

 この世界の連中の年齢って、どうも俺の世界とは進み方が違うように思える。

 少なからず、大勢が早熟な気がする。寿命が一緒だとして、大人になるのは早いみたいなの。

 もし仮にそうだとしたら、余計に難しい。

 出会ったばかりのクルルくらいにペロリがなっていたとしたら?

 クルルには言わねえなあ。あいつから甘えてくるし。おぶれとかだっことか言うし。

 逆に言われなかったら、しんどそうだったら声を掛ける。

 その感覚で声を掛けるべきか?


「ペロリ、結構あるいたけど大丈夫か?」

「ん……」


 口数がめっきり減って、街の明かりまでの距離を確かめてため息を吐いている。

 はあって重たそうな吐息を聞いちゃあ、放っておくのも忍びない。


「俺の背中か腕があいてますよ」


 親指でてめえの顔を指差してどやってみたけど、暗がりじゃたいした効果はありませんでした。

 そもそも決めポーズをしたところで見えないっていうね! あははははは!

 もしかしたら俺、ばかなのかもしれない。


「……いい」

「そ、そうですか」


 いやそうなトーンじゃないものの、顔をふいっと背けられると困る。

 強く押せない俺と黙り込むペロリを見かねたコハナが「さあさあ、いきましょう!」と明るい声をだした。

 なんだかんだ、気遣い屋だ。死神だし、悪魔属性めっちゃあるけどな。

 コハナに背中を押されるままに歩き、街に近づいて妙なことに気づいた。

 正門の前に松明の炎がいくつも揺れていたのだ。

 兵士が守っているとか? 魔物が大勢攻めてきて、いまは防御を固めてる的な事件発生フラグ?

 だが、それにしちゃどうも様子がおかしい。

 突然、矢の雨が降り注ぐとか、魔法がぶっ放されて攻撃されたりしない。

 ただただ松明の明かりが増えていくだけ。

 視認できる距離まで近づいて、やっと松明の量が増えた理由がわかった。


「きた、きたぞ!」「俺たちの女神が帰ってきた!」「みんなっ、いくぞ! せーのっ」

「「「 コハナちゃーーーん!!! 」」」


 街まであと僅か、という距離になって見えたのは、松明を手にしたむさい筋肉男どもだ。

 どいつもこいつももちろん、この世界の住民なので獣の耳と尻尾を生やしている。

 だがそこより目立つのが、連中のマッシブな筋肉である。

 ボディビルダーの大会に出たら盛り上がりそうだ。どいつもこいつも見せる筋肉美を意識していた。

 ひとりやふたりならまだしも、ざっと見て百人以上は集まっていた。

 汗臭さがむんむん漂ってくる。熱気がやばい。浴びただけで気絶しそう。

 コハナの名を叫ぶマッチョたちはこともあろうに、あっという間に俺たちを取り囲む。

 ペロリが若干怯えて俺の背中に隠れる。

 対してコハナは笑顔で言うのだ。


「みなさん、お久しぶりですっ★」


 媚び媚びですが、それが受け受けなんです。

 警戒したのはこいつらとの再会か?

 それにしちゃギアがフルスロットルだな。

 敢えて言えば外向けの顔のように感じるが、そもそもコハナの素を俺は知らないと気づく。

 ちなみに前回の旅を知らない人に説明すると、コハナと出会ったのはいま到着した港町ハルブである。

 酒場で乳を強調する趣味的な衣装で働く人気ウェイトレスのコハナは、のぞき穴があり、しかも入る人はそれを知った上で異性にアピールするという社交場的な公衆浴場でもアイドル状態。

 見せるだけじゃない。魅了する。

 スフレの風俗感は、俺の世界でいうかなり昔の感じかな。

 混浴当たり前みたいな時代に近いかもしれない。

 とはいえスフレでも公衆浴場は混浴が基本っていうほど開放的じゃあないが。

 ただ、男女の盛り場という側面でみたら、じゅうぶん刺激的だと言えるだろう。

 早い話さ。

 コハナって、ハルブの海の男たちにとってのアイドルなんだよな。

 実際には魔王に命じられて勇者が来るのを待っていたらしいのだが、俺はそんな裏事情など気づかずにコハナの手練手管に負けてあっさりと関係を持った。

 それによりあらゆる波乱が巻き起こったのだが、それは終わったことだから敢えて語るまい。

 目をきらきらさせている男達に愛想を振りまくコハナはそっとしておく。

 それよりも男達を見渡して、目的の男を見つけた。


「おい、ジャック! 久しぶりだな!」

「おお! 勇者じゃねえか!」


 手を掲げ、お互いにたたき合わせる。

 海賊帽に眼帯の渋いオッサンの名はジャック。

 ハルブの漁港を取り仕切る男だ。

 私掠船免許状を持って周囲の海賊たちと戦う海の男でもある。

 なお嫁と娘がいるのにコハナにご執心という駄目な奴だ。

 俺も強くいえないけどな。


「なあジャック。なんでコハナが来るって知ってたんだ?」

「駐屯所の連中がざわついていてな。話を聞いてみりゃあ皇女様が使いのメイドを旅に出したって伝令を出してるっていうじゃねえか」


 ん? ん!? んん!?

 待って。あれっ?

 俺は? 勇者の話は?

 主題は俺じゃなく? コハナかい?

 世界を救う男よりもアイドルかい?

 街のアイドルに負けちゃう程度の勇者かい? 俺って……。


「駐屯所の兵士連中はてめえらんとこに来た吟遊詩人が言うってんで、王都に確認したら、なんとコハナちゃんが来るってわかってな? で、みんなで待ち構えていたってわけよ! 妙な奴がいたもんだなあ?」


 またしても奴か。


「ジャック、その吟遊詩人ってのはまだいるか?」

「ああ……そいつなら出がけに組合所に来たぜ。うちの娘が相手をしていると思うが」

「わかった! コハナ、わりい! 後は任せる!」

「あ、はあい!」

「ペロリ、ついてくるか?」

「……ゆっくりいく」


 ほっといてだいじょぶと距離を取るように俺から離れたペロリに、ちょっと寂しい気持ちになるなあ。前はもっと素直に甘えてくれてたけど、どこでどう歯車が狂ったのか。

 やっぱり嫌われてない?

 疲れているペロリにあれこれ世話を焼こうとするだけ逆効果になる気がして、じゃあ先に行くと伝えて男達の間を抜けて急ぐ。

 吟遊詩人ってのが気になるんだ。

 ジャックの娘、名前はリコ。

 勝負強さと胆力は親父を遥かに凌ぐ頼もしいもの。

 海の男達をひとりで従えるほどのリーダーシップがある。

 たぶん戦っても強いぞ。あいつは。

 大人顔負けの迫力をもった奴だ。

 頼りになるし、助けてもらった恩人だ。あいつに何か起きるかもしれないなどと思いたくはない。

 だが嫌な予感がしてならなかった。




 つづく。

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