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第四十九話

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 お嬢さんたちを助け出し、お客さんたちには丁重にお帰りいただいた。

 一応はハイクラスの店だけに、話のわかる客ばかりで助かった。

 ルカルーに挑戦して文字通りワンパンで気絶させられた奴も多かったようで、ルカルーが一緒にいるのを見て青ざめた顔してダッシュで逃げるお客さんの背中を見送ると思う。

 魔王。お前は目の付け所が弱いし甘いと。

 仲間と合流して、カジノへ向かうことに。

 助け出した子たちは、クロリアが所持するビルに避難してもらった。

 ほんと、かつての魔王さまの財産はんぱない。財テク得意なんじゃね? 疑惑あるよな。

 入り込んだカジノで見た、金貨や紙幣の束が山ほど詰まれた上にある巨大なスロットは妙に既視感あるんだよなあ。

 なんだろう。傾き変わったりするのかな。あれに人生吸われて地下帝国に連れて行かれた魔物たちが大勢いるんだろうか。

 見れば見るほど頭は痛むしあれには触れないでおこう。そうしよう。妙に角張った顔の魔物たちが頑張っているしな。ざわざわしている魔物たちもそっとしておこう……。


「さて、どう稼いだものか」


 腕を組み、周囲を見渡す。

 仲間は全員そろった。さらわれた人は助けた。

 もはや憂いなくカジノで稼げるわけなんだが。

 クロリアのカードはクルルにそっと取られてしまいました。我が家の財政大臣には敵わない。

 その財政大臣はクラリスとコハナと三人でどきどきしながらスロットを回していた。


『7』『7』『7』


 うそやん。

 いやいや。まさかまさか。あれだろ? 素人だから珍しく運がまわったとかそういうやつだろ?

 見てみろ、ペロリやナコはきっと今頃――……。


「ねえ、ナコお姉ちゃんとレースで賭ける魔物がはしからみんな一等賞になるのなんで?」

「んー、なんでだろうね」


 大金を抱えているナコを見るに、レースに出る魔物を見る目が二人とも優れているのか。

 い、イカサマしてないよな?


「コール……ダブルアップ」


 ん?


「ロイヤルストレートフラッシュ」


 る、ルカルーさん? なんでそんな、とびきりあり得ない役だしてんの!

 なんだろう。みんなが大勝ちしてる。

 この流れなら俺も大勝ちできるんじゃね?

 た、試してみるか。

 まずはスロットを回す……外れ。

 つ、次はカードだ。ブタ。ブタ。ブタ! あれえ!?


「ねえ、タカユキ……やめた方が良いんじゃない?」

「ツキがないようにお見かけしますけれども……」

「無理しないでください、向き不向きがありますよ?」

「お兄ちゃん、無理しないでね?」

「むいてないんじゃない?」

「むしろ……賭け事で稼いで楽をするなという女神のお達しかもな」


 みんな好き勝手言いやがって……!

 ……ん? みんな?

 あれ? クルル、クラリス、コハナ、ペロリにナコ、そしてルカルー……あれ?

 一人足りねえな。


「ば、倍プッシュだ! 元魔王の威厳をみせてやる!」

「え」


 あのどでかいスロットにクロリアが挑んでいる!!!

 なんだろう。猛烈に嫌な予感がする!


「あー!!! また外した! なんじゃこの台、イカサマじゃあるまいな!」


 激怒するクロリアに駆け寄って慌てて引きはがすんだが、そんな俺を屈強な魔物たちが取り囲んでいた。あ、アークデーモンしかいないのね。


「あ、あはは。いやあ、負けた負けた。じゃあ、その……帰りますんで」


 あわてて立ち去ろうとしたのだが、肩に手をぽんと置かれました。

 まあ、だめだよね。そりゃあ、そうですよね。


 ◆


 連れて行かれた事務所で俺はクロリアと二人で正座させられていました。

 クルルたち? 今みんなで揃って最上位レートの特別室で大勝負だって。そのうちここに連れてこられるんじゃないかな。


「さて……」


 目の前にいるすげえちっちゃいネズミの黒服の魔物を見ていると、頭痛が止まらない。

 いろいろごっちゃにしすぎじゃないか? 統一感ってものが大事だと思うんだが。俺とクロリアは兎と狐じゃないぞ?

 しかし突っ込んだら冷たすぎる水に落とされる気がするので、黙っておこう。


「お前達、金は」

「……ないっす」「今はない!」

「いいか……金のある奴には自然と金が集まってくる。それがこの世の摂理だ。わかるか?」


 小さな煙管から煙を吸いこんで吐き出すネズミの親分。

 煙の行き先が自分へと向けられるのが気に入らない。そもそも正座させられている状況からして気に入らないのだが。


「かたっぽはまあ、金の匂いがするが」

「ふふん」


 どやるクロリア。

 なにその、お前には勝ってるぜ感。

 事実だけど。お前はブラックカード所持者だけど。


「そっちの人間、お前はだめだ。金の匂いがまったくしない」

「うそやん」


 やめてよ! 断言しないでくれよ!


「むしろ周囲に吸われているんじゃないか、というくらいに金の匂いがしない」

「そこまでいわなくても」

「我々と同じ匂いがするよ。お前は――……奪うものだ」


 その言葉が示す意味は。


「そうだろう? 勇者」


 かちゃかちゃかちゃ。

 一斉に何かが向けられる音がする。

 見ればアークデーモンの連中が鉄の塊を俺に向けているのだ。


「え、え、ええと」


 思いもよらないバレ方! い、いやまて、落ち着け、しらばっくれることもまだ可能……!


「な、なんの話かなあ――……」

「あははは、ばれてるぞ勇者!」

「ちょー!」


 あわててクロリアの口を手で塞ごうとするのだが、ひらりとかわされた。


「どうせ元魔王と一緒なんだ。ばれるさ」


 口角をあげて獰猛に笑うクロリアには元がつこうが魔王の風格があった。


「そういうことだ。なに、安心しろ。取って食おうってんじゃあねえんだ」


 ネズミの親分が手を振ると周囲にいる連中の鉄の塊が一斉に下ろされる。


「なあ、勇者よ。あんたに依頼があるんだ」

「……依頼ってなんだよ」


 話の行方がわからない。そもそも依頼を持ちかけられる切っ掛けからして意味がわからない。

 やばい。この空気はやばい。


「顔色が変わったようで安心した。なら……わざわざあんたの仲間を大勝ちさせた意味もあるってもんさ」


 あ、接待プレイだったのね! 逆にほっとした!


「なんか用か」


 こういう時に堂々としているクロリアには真実、王の素質がある。

 クラリスもルカルーもまた、この場にいたなら同じ態度を見せただろう。

 対等であること、それを態度で示せることが何より大事だ。


「今の魔王には正直、うま味がない。クロリアさま、あんたには期待してたんだがなあ」


 人望のあるなしが見えてくるなあ……。


「地上に対する政策ってのは、武力による征服しかないってのはな。今時遅れているのさ」


 言っている意味が、よくわからない。


「地上にな。いるんだよ、うちの風俗で生ませた子たちを、親と一緒に地上へ派遣して……店をやっている。あんたが取り返した連中は別だがね。それ以外の嬢ちゃんたちは手厚く面倒みてやっていてな? よく働いてくれるのさ」

「へ」


 思いもよらない話だった。


「今の魔王にな、特別許可をもらって通行させてんだよ……だがなあ、俺はもっと大々的に商売をしたいんだ。魔界の水商売よりも地上の飲食業を強めたくてな? 地上にゃあうまい飯が多いし、旅がしんどかろうと興味を持って旅する客が多いんで、そっちで稼ぎてえのよ」

「経済による水面下での制圧、支配権の拡大か? いや、むしろ商機か」

「さすがに元魔王は話がわかるな」


 やばい。ついていけてない。けどそれを顔に出したらつけこまれる。


「資本はある。働き手も山ほど抱えちゃいる。まあうちは魔界じゃブラックな業界の極地だがね……だからこそ、法治国家の魔界は少々過ごしにくいし。かといって、魔界で転向するにも、あらかたの利権は既に誰かのもんでね」


 気づかれないように息を整えろ。

 落ち着いて、考えて……尋ねろ。


「地上であくどい商売しようって魂胆なら、お断りだぞ?」

「そいつはこれからの交渉次第だと言っておきたいところだが、よそう。商売ってのは意外にも、健全であるほど幸福度が増すっていうのが魔界の経済学、経営学の常識でね」


 なにそれ。


「どうする? 依頼を受けるか……死んで地上へ戻るか。俺はどっちでもいい」


 俺を試すような視線を送ってくるのはネズミの親分だけじゃない。

 クロリアもだ。元魔王もまた、俺の出方を待っている。


「三つ。三つだ」

「……ほう?」

「魔王を倒すから手助けをしてもらう。あんたの手の掛かった人間が本当に幸せなら、店を出す手助けをする。最後にうちの嫁たちが稼いだ分はもらっていく代わりに、魔王を倒してもあんたたちには手を出さない」


 俺の条件にネズミの親分は笑顔で頷く。


「いいだろう」


 それで話は終わったと思った。ほっとしもした。だから、


「待て。いいや、だめだ」


 クロリアの宣言に心底どきっとした。


「勇者、目を覚ませ。そいつは奪うものだ。お前も、このクロリアもそうだ。だから気づけ」


 勝ち誇った笑顔でネズミの親分を睨む。


「そいつがクリーンな仕事をすると本気で思うのか?」


 ネズミの親分の笑みは崩れない。それが、事実だ。


「魔界とはいえ法があり、筋がある。こいつは魔物でありながらそれを乱す大悪党さ。なのに信用するなんてねむたいことをほざくなよ。お前は勇者だろ? 魔物から、魔界からすべてを奪う存在なんだ」


 立ち上がったクロリアが俺の肩を叩いた。


「思い出せ。お前の仲間を意志の確認をせずに娼婦にした奴と手を組んでどうする?」


 その渇に立ち上がる。一斉に鉄の塊を向けられた。だが構うものか。


「魔王の命令だったとそいつは言うだろう。事実だ。だが、さらわれた少女の面倒をたとえ見たとして魔界じゃしっかり娼婦として働かせたんだぞ? それを忘れるな」


 ネズミの親分が笑った。


「言葉が足りんよ、勇者。地上に出た者を手厚く? 違う。そうせずにいられない後ろ指さされる立場に追いつめて、体よく従業員として使っているだけの間違いだろう」

「はっはっはっは!」


 親分が膝を手で叩いて大笑いした。

 クロリアの導きの力強さに震えずにはいられない。そうだろう?


「ああ……ああ。そうだな。聞こえのいいことを言ってごまかした。人のいい勇者はだませても、クロリアさまは無理か。いや、道理だ」

「さあ、どうする。クロリアを倒した勇者の選択は、なんだ!」


 その問いに俺はネズミの親分を見下ろした。

 提示された選択肢を選ぶ必要など、そもそもなかった。

 それでも尋ねる。


「あんたはなぜ稼ぐ」

「金が好きでね。俺に限った話じゃあないが、従業員ひとりの給与の何千倍もの報酬を手にしてなお、金を欲するのが俺みたいな人間の性だ。食うのに困らせちゃいないことは確かだ」


 しかし、とクロリアは口を挟む。


「しかし、それは好きなように働き、好きなように遊び、贅沢ができるということを示す言葉ではない」

「魔王を輩出する政府の、それも元魔王がよく言った!」


 ネズミの親分の大笑いは、いまや最高潮。


「きさまたちが! 魔界をこう導いた! 我々が選んだ悪魔が集って、魔王を選び魔界を導く!? 俺より汚い金の亡者どもの言いなりになって、兵器産業と軍部に抗えずに地上侵攻を選ぶ情けない連中がよく言った!」


 クロリアが初めてよろめいた。顔が一瞬で朱に染まるし、拳が震えていた。

 けれど、もしかしたら痛いところをつかれでもしたのか、言葉に詰まっている。


「世の中な! 奪い合いだ! 強くなければ生きてはいけないのさ! すべてが自己責任で片付くこの魔界で! 金がある奴が偉いんだよ! 貧者は飯が食えるだけでありがたいと思うしかないのさ! そうとも! 食わせてやっているのだから!」


 いっそ清々しいまでの悪役だった。

 魔王よりも、クロリアよりも、よほど生々しく身近な悪党だった。


「クロリアの言う通りだった。気づいてみればなるほど、答えはすぐに出るものだった」


 肩を竦めてすぐ、あちこちで爆発の音が聞こえてきた。

 次いで駆け込んできたのはルカルーだ。抱きかかえられているのはクルルである。


「ごめんタカユキ! 難癖つけられたのむかついて魔法ぶっぱなしちゃった!」


 ほらな。答えはすぐに出る。俺が出さなくても仲間が必ずすぐに出す答えが。


「うちの仲間の方がよっぽど迷いがなかった。あんたの言い分は、ひょっとしたら世の中の一面を確かに捉えているのかもしれないが」


 息を吸いこんで、吐き出す。


「奪うのなら、奪われる覚悟を決めておけ」


 ほうり投げられたクルルのパンツを受け取る。

 やるべきことは決まっている。


「確かに俺は勇者だ。倒した魔物からすべてを奪うものだ。だがそんなことは知ったことか」


 視界に入るルカルーを見て。それからネズミの親分を睨んだ。


「考えてみりゃあアンタにはハナっからケンカを売られてた。なにより――……自己責任といいながら、クロリアに責任をなすりつけようとするその言い分が気に入らない。あんたは最初から、俺たちを潰す気だったんだろ?」

「やっと気づいたのか?」

「舐められてることもな。だから……そのケンカ、全力で買うよ」

「いいだろう」


 笑い合う。

 戦いの火ぶたは確かに今、切って落とされたのだろう。




 つづく。

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