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第四十話

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 一つ目の巨大な巨人の拳をそのまま真横に真っ二つにしている時だった。


『聞こえますか、タカユキ……』


 女神の声が頭の中に響いたのだ。

 巨人の胸元へと飛んで心臓を貫き倒してすぐ、身を翻す。

 空を飛ぶ怪鳥のくちばしを大剣でなんとか防いだ。


「なに!?」

『わたしはいま、ゲームのエンディングに感動したあまり、あなたの心にうっかり直接語りかけています』

「いま!? ねえそれいまなの!?」

『いまでしょ!』

「だいぶ前に巻き戻って逆に新鮮だよ! うっ」


 頭痛にうなされている場合でもない。

 俺ごと大剣を咥えた怪鳥が空を飛び回る。必死に柄を握りしめて周囲を見渡した。

 あちこちでクルルの魔法が炸裂している。炎が巻き起こり、氷の粒が振り注ぐ。雷鳴が轟き、光の線が無茶苦茶に放たれまくっている。ある種の地獄絵図。魔物たちも涙目で逃げ惑っている。

 あっちはやばい。けどこっちならいけるんじゃね? とでも思ったのか、半数の魔物は俺を目指してくるんだからたまったもんじゃない。

 忙しくてたまらないっていう状況にも関わらず。


『えーいいじゃん、感動を共有したいの。コルリは付き合ってくれないし』

「じゃあ一言で言え!」

『ええっ!? 一言!? 無理じゃね!? ええっと……んー。みんな死んでハッピーエンドってあり?』

「なんのゲームだか知らんが俺はなしだ! 幸せは生きてこそ味わえるもんだろ! 去り際の満足なんていうのは、絵本の中か大往生の病床で家族に見守られたときにしかないもんだよ!」


 あるいは去り際に浪漫を感じないとつらくなっちゃう奴の頭の中にしか!


「俺はごめんだね! 愉快に笑って楽しく暮らせる楽園が欲しい! 金に困るのも! 敵と殺し合いなんてのも! 勘弁願いたいぞいっと――……よいっしょお!」


 大剣を消して、代わりにペロリのパンツから武器を取り出す。

 拳につけるナックルで思い切り頭を殴りつけた。

 地面へと落ちる怪鳥にざわつく魔物たち。


『楽園?』

「開拓のしがいがあって、資源が豊富にある場所だろ――……っとぉ!」


 殴りつけた反動で空をふわりと浮かぶ俺の身体を新たに地面から盛り上がった土の頭の持ち主の巨大な腕がつかもうとする。だが、そうはさせない。

 ナックルを消して今度はルカルーのパンツからフックショットを出す。

 狙いは土くれの頭だ。


「だいいち、死ぬのはハッピーじゃねえからな! 痛いのはごめんだぞ!」

『だよねえ。でもこのまま戦ってたらタカユキも危ないんじゃない?』


 先端が刺さってすぐ、俺の身体が引き寄せられる。

 掴み損なった腕を尻目に弾丸のように迫る。だからフックショットを消して、再びクルルのパンツから大剣を取り出した。まっすぐ貫き、地面へと転がり落ちる。


「誰に言ってんだ? お前が俺を選んだんだろ?」


 身体を起こして大剣を消し、コハナのパンツから大鎌を取り出した。

 それをめいっぱい振りかぶって投げる。群がる魔物たちの腹を切り裂き、真紅の軌跡を描いて手元へと戻ってくる。


「だいじょうぶに決まってんだろ。やられたら教会に戻ってダッシュで戻ってくるだけだし!」

『わお! 後ろ向き! ところでさ、タカユキ』

「なんだ!」


 怖じ気づく魔物たちを見渡して、大鎌を消して大剣へと戻す。


『この世界はどう? 楽しい?』

「どうかな!」


 上がった息を整えるように息を深く吐いて、緩やかに吸いこむ。

 充実しているといえば充実している。楽しめてもいる。

 けど、これ以上はどうだろう。楽しめる気がしない。


「正直、旅のあとが問題かな! 勇者の楽園って、救わなきゃいけない世界にはむしろない気がするね!」

『ふうん……そっか。なんか忙しそうだし、シリアス無理だから女神ゲームに戻るね』


 相変わらず自由かよ!


『エンディング迎えても遊べるゲーム最近おおすぎだよね?』

「よくわからんが満喫してくれ」

『そーする。あと城の仲間も放置してたら危険じゃないかな、かな、かなかなかな……』


 やっぱり最後に気になることをしれっと言うのな。まあ気になる情報だったからいいけども。

 空を飛ぶ魔法でそばへとやってきたクルルが俺に身体を預けてきた。


「ちょっと疲れてきたかも。めんどくさい、たくさんいすぎじゃない?」

「確かに。けど……思うに」


 クルルの言葉に頷き大剣を消して、魔物たちを見渡す。

 大量に倒され、その端から黒い粒子になって消えていった彼らの仲間達の数はもはや数え切れないほどだ。

 たった二人を相手に、劣勢。

 それを自覚しているから、彼らの顔が浮かない。これ以上戦わなきゃいけないのか、と悲嘆に暮れているようにも見える。

 こっちも同じ気持ちだ。損害をふたり相手にあれほど出して情勢変わらずなんだ。


「これ以上はお互い、しんどいだけだろ!」


 叫ぶ。


「倒したいわけでもねえんだ! その気なら向かってこい! そうでなきゃ、魔界へ帰って上司に言いなさい! 無理なら俺が代わりに文句を言いにいくから、ちょっとそこらで休んでろ! そしたら手は出さない!」


 俺の声に躊躇う魔物たち。

 逃げられもせず、さりとて立ち向かってくるでもない。

 そりゃあそうだ。彼らには未だ大勢いる。

 数で勝っているのに、たった二人を相手に退けるわけもない。

 つまるところ、膠着状態に陥っている。


「帰れるわけでもなければ、休めるわけもないか。仕方ないかな」

「クルル?」

「まあみててよ、タカユキ」


 俺の肩をぽんと叩いて、クルルが前に出た。

 ドレスローブが一瞬で白に染まり、たなびく。魔物の誰かが白い悪魔だと囁いた。


「シュ・イスペル・ク・インセ……ワルト」


 クルルの右腕に、全身に紋様が浮かぶ。

 桜色に煌めく紋様に呼応してすぐ、クルルのかざした右手の前にとびきり巨大な魔方陣が浮かび上がった。桜色の閃光で描かれたその魔方陣に魔物達の顔色が変わる。


「リ・デモア・ボン・ディスパトラ・デセモント!」


 その魔方陣の前に極小から特大なものまで、無数の魔方陣が次々に現われる。

 かつてみたことのない巨大な術式だ。

 けれど当のクルルは涼しい顔でいる。むしろ勝ち誇った、勝利を確信してやまない笑顔だ。


「早く逃げなきゃ消滅するよ? さん、にい、いち――……」


 クルルの足が地面を叩く。

 それに恐怖を覚えた魔物たちが一斉に逃げ始めた。


「イルミエ!」


 クルルが叫ぶ。

 直後、魔方陣を貫きクルルの右手から閃光が放たれた。

 眩しい。目を閉じていて尚、焼かれてしまうくらいに眩しい光だ。

 魔物たちの悲鳴が聞こえる。

 足音がどんどん遠ざかって……静かになってやっと、光はおさまった。

 ちかちかするな。光が落ち着くまで待ち、やっとの思いで目を開けるともうそこには魔物はいなかった。


「……た、倒したのか?」


 腰に両手を当てているクルルに恐る恐る尋ねると、彼女はふり返って微笑んだ。


「んーん。無駄な詠唱で魔方陣たっくさんだして、眩しい光を出して脅かしただけ」

「……さすが」


 俺の願いを光だけで叶えやがった。すげえ。手際がすげえ。


「改めて思うわ。クルルがいてくれないと困る……ありがとな」

「えへん!」


 どや顔かわいい! いよっ! 嫁、天使!

 あの状況で、よくもまあ思いつくもんだ。さすが!

 それにしても、とふり返る。

 帝都はそこにある。城も見えるが騒乱めいたなにかは聞こえる兆しなし。

 静かなもんだ。

 じゃあ仲間がやばいかもって女神の言葉はどうなる?


「クルル、急いで戻るぞ」


 彼女を抱き上げると、そうされるのがわかっていたように首に腕を伸ばしてきた。

 抱きつく彼女を抱えて走る。クルルが不安げに俺の顔を見上げてきた。


「どうしたの?」

「嫌な予感がするんだ」


 女神の言うことは、たとえ雑でも外れたことがなかったから。




 つづく。

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