第三十四話
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教会の合唱隊にお邪魔して、一緒に聖歌を歌うペロリの神々しさってなんだろうな。
最前列の椅子に腰掛けて、じっと聞き入っていた。
隣に神父さまが歩いてきて「よろしいですかな?」と尋ねてくる。
断る理由もないから頷いた。
ふたりして並んで座って、聖歌を聞く。
「以前お見かけしたときよりも、大人の顔つきになりましたな」
「顔だけですよ。それが問題なんだ」
やましさも悲しみも怒りも幸せも溶かして満たす天上の響きを浴びながらする懺悔。
「家族を大事にしたいし、仲間を大事にしたい。けど、それには俺はまだガキすぎて、力も足りなきゃ稼ぎも足りない」
「ひとりでできることには限界があるものですよ」
「――……つっても、神父さま。頼りにならない俺が多くの嫁さんと子供ってのは、無理があるでしょ。しっかりしねえといけねえし、限界があるなら超えないと」
「超えようと超えまいと、伴侶は共にいるし、やがて子は生まれるものです」
まあ、なあ。そりゃ正論だわ。
「親に育てなさい。ご自身を。頼りになる者に育てなさい。ひとりでではなく、みなと一緒に。彼女たちを育てるように、子を育てるように、まず自分を育てなさい」
「――……自分を、育てる、ね」
「レベルアップは得意でしょう?」
にこりと笑った神父さまが俺の肩をそっと叩いて、席を立った。
聖歌はいよいよクライマックス。
女神の教えを引用した神父さまのありがたいお説教が待っている。
この街の神父さまには、とことん世話になってるなあ。
自分を育てるか。それも、てめえでだけでできるものでもない。
ペロリをようく見てみろって。
あいつは仲間と一緒に成長してきた。
育ててきたんだ。ペロリがなりたいペロリに、自分自身で。クルルやクラリス、ルカルーやナコの力を借りてな。
お手本がいるんだ。
腹は括っている。けど、それで視野狭窄に陥っているんじゃあしょうがねえ。
しんしんと降りしきる雪に静寂が広がる街の教会に、ペロリたち聖歌隊の歌が響き渡る。
すべてが許されていくこの場で誓う人が多いのも納得だった。
◆
歌い終えたペロリを心の底からすごいと褒め称えた。
撫でまくったし、抱き締めたかった。それは外に出てからしたけども。
神父さまのお説教を聞いてから、ふたりで宿に帰る。
神妙な気分になるなあ。最初はもっと、エロいことだらけの一週間になるかと思っていたけど、それどころじゃねえわ。
今後の人生について、俺なりの計画を練りたくなった。
すぐに思いつけば苦労はないんだけどな!
翌日の昼、食堂へ赴いた。
出迎えてくれた料理は昨日よりも豪華な美味が集められていた。
豪華になるだけの理由がある。大事な変化があったのだ。
ルカルーとナコが戻ってきていた。
「帝都はどうだった?」
溶けた雪に濡れた髪を布で拭いながら椅子に腰掛けた二人に尋ねると、ナコは目を伏せた。
代わりにルカルーが口を開く。
「明かりが消えていた。周囲には魔物が跋扈している。それでも二人で城に潜り込んだんだが」
コハナが差し出すあたたかいお茶を受け取り、飲み干してから長いため息を吐いた。
「魔物だらけだ。兄様もやっぱり魔物に変えられていた。皇女の言う各地で誘拐されたとおぼしき人々の姿も見たぞ。クロリアはいなかったが……できることなら、なんとかしたかった」
「相手の戦力が戦力だけに、二人じゃ無理。で、彼女を抱えて撤退してきた」
口惜しそうに俯くルカルーに、ナコが半目で言葉の続きを引き取った。
「ちょっと大変かな。前回の最終決戦並みかも。魔王はいなかったけど」
「魔界の穴のこともある。作戦を考えておいた方がいいかもしれない。ルカルーは……そう思う」
二人揃ってあまりよくない表情だ。
帝都はよほどの状況にあるとみた方がいいだろう。
「どうする?」
ルカルーの縋るような目を受けて、俺はクルルに尋ねた。
「クルル、魔界の穴に一時的でもいいから結界を張れないか?」
「できるけど、どうすんの?」
スフレ王国の若き筆頭魔法使いののんきな問い掛けに肩がこけそうです。
できるんかい。相変わらず、お前って相当すごいのな。
いいか、とテーブルに手を置いて説明する。
「穴を封じて、帝都を取り戻す。そんで、今度は穴から魔界へ行く。クロリアを探し、やるべきことをして、そんで魔王も倒す」
「あのう……結界を破られたらどうなさいますか?」
クラリスの不安げな問い掛けに腕を組む。
「二手に分かれることも考えないわけじゃないけど。相手はクロリア同様、人を魔物に変えられる力を持つ魔王と考えるべきだ」
「二手に分かれるのは、相手が強力なだけに危険そうですねえ」
「えー。むしろ二手に分かれて穴を完全に封じてないと危険じゃない?」
コハナの言葉にクルルがすかさず言い返す。
「どちらの言葉もわかるのですが……全員でいく。それが勇者様のご決断なのですね?」
「ああ」
クラリスの言葉に頷いた。
「一致団結、一蓮托生だ」
「あ、東の国の言葉だね!」
嬉しそうに反応するクルルに頷いて、みなの顔を見渡す。
「じゃあ……各自、街を出発する日まで英気を養ってくれ」
割と決め顔で言った俺の腕を、立ち上がって近づいてきたナコが掴んだ。
「じゃあきて。コハナに聞いた。マッサージできるんでしょ?」
「え、まって。いまほら、かっこよく隊長みたいなノリで決めたわけじゃん? もっと余韻をさ」
「体ガタガタなの。痛くて仕方ないから、さっさとついてくる!」
いいからこい、と引っ張られて立ち去る俺を、仲間たちはしょっぱい目つきで見送るのでした。
そんな目でみんな! 頼むから!
つづく。




