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第三十二話

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 暴れ馬はペロリを見て一瞬でなつき、帰り道で指定された樹を斬ったはしからペロリが持ってくれる。

 怪力聖女さま、万歳。

 ペロリがいなかったら終わってたな。

 大木を肩にかついで歩ける聖女とは。

 概念に大いに悩みます。

 俺も持つけど、ペロリの抱える量と段違いで切ない。

 いやいや。俺だって狼の端くれよ! どんと胸を張って、ペロリがいいよって憐れみの目を向けてきたので「だっ、だいじょうぶだしぃ!」と噛みながらも受けとった。

 危うく教会に飛びそうになったのは言うまでもない。

 結局、ルカルーにも手伝ってもらうことにした。ペロリは馬に乗って優雅に移動してもらったのだ。

 動物に愛されるのって、羨ましいなあ。

 猫に近づくと威嚇される、とまではいかないが、どんな動物も喜んで近づいてくるペロリって傍から見ているとオーラがあるよ。

 ともあれ、職人の指導を受けながら馬車をこさえてできました。第二の冒険用の本格的な馬車が!

 クルルとクラリスに荷台にのってもらって尚、他の仲間が乗り込める巨大なものだ。

 それを一頭で引けるっていうんだから、暴れ馬の脚力たるや! かなり強い。

 どことなく、前回の旅で何度も俺たちの前に立ちはだかった馬の精霊ニコリスに似ている気がするけど、それは筋肉がありあまったその身体が似通って見えるだけだな。

 暴れ馬は牝馬なので別物に違いない。

 荷物を積み込んで旅立つことになる。

 暴れ馬で足りるので、無理せず老いた馬は牧場に引き取ってもらうことにした。快く引き取ってくれた牧場主さんの牧場の馬はみんなのびのび生活してたから、いい余生を過ごしてくれると信じる。


「さて」


 手綱を握りしめて山から下りる道を進みながら後ろをふり返った。


「振動が結構くるかな」

「でも馬車って揺れますし、みんな乗れるならちょうどいいのではないかと」

「幌も付いているから雨が降っても安心だ」

「雪が降っても大丈夫そう」


 クルルたちがのほほんと語り合っている。

 隣を見ればコハナが街で調達した苹果の皮をナイフで剥いていた。


「いやあ。やっと楽な旅に戻ってきましたねえ。冒険の最初は許されない贅沢ってなんなんでしょうねえ」


 ちょっとメタなことを言い始めたので、そっとしておこうと思いながら手綱を握る。

 あまり言うことを聞いてくれる馬ではないので、隣に腰掛けたペロリに声を掛けてもらうことにしてある。

 肝心のペロリはというと、


「ねーお兄ちゃん。ルナティクについたらどうする? 一泊する? それともすぐ帝都に行く?」


 足をぷらぷら振りながら俺に質問してきた。


「んー」


 ふり返ってみる。

 布と綿をつめたクッションを敷いた二つの寝椅子に横になっているクルルとクラリス。ふたりにはあまり無理をさせたくない。彼女たちの膝上に乗っかったホムンクルスはその機能を停止したままだ。

 寝椅子の後ろでアグラを掻くナコとルカルーは、言うなれば自分の生まれ育った国に再び危機が訪れているわけだから……二人を思うならさっさと解決したくもある。

 悩ましい。非常に悩ましい。


「だったらさー。人数分の日数だけ泊まらない? 帝都にいきなり行って負けました、じゃお話にならないかな。前回の旅がそうだったわけだし。しっかり準備したいかも」

「クルル……いや、でもな」


 言葉に困る俺に、ルカルーが声を上げた。


「そうしよう。ナコさえよければ、二人で帝都を偵察してくる」

「別にいいよ」


 ナコがすかさず賛同してきた。


「みなさまで毎日、ゆっくり過ごせますね」


 クラリスがゆるい笑顔で口にした言葉に、馬車が殺気だった気がする。


「ああ……うん。そうだね」


 ちいい、気づかれなければ独占したのに、と唸るクルルと、


「ええ、そうですとも」


 そうはさせませんわよ、と微笑むクラリス。


「じゃあペロリが一番ね」

「「 な!? 」」


 嫁二人が新嫁に慌てる。


「そ、それはおかしいと思うかな。やっぱり一番は私だと思うんだよね」

「あ、あら。それはどうかしら」

「えーお預けばっかりはいやだから、ペロリ一番がいい」


 三人が言い合う中で、コハナが意味ありげに俺を見つめてきた。


「なんで気配を消してるんですか?」

「しっ、だまってろ。俺が決めるとかいう流れに巻き込まれたら面倒だろ!」


 その発言で三人に気づかれて、結局俺が決めることになったのは言うまでもありません。

 とほほ。


 ◆


 常闇の街ルナティク。

 近づくと、昼間でも闇夜に包まれる不思議な土地にある街だ。

 常に夜を照らす明かりが輝くそこは、俺たちにとっては思い出深い場所だった。

 魔王と戦う前に最後に立ち寄った街だからな。

 俺にとってはペロリに聖水ぶっかけられた思い出深い場所でもある。

 どんな意味やねん。

 前回、魔王に襲われた時には色んな人が避難していた様子だったが、今回は様子が違った。みんなのほほんと日常を過ごしているからだ。

 ルカルーを見ても笑顔を向けて「姫さま、いらっしゃい」と脳天気に声を掛けるだけ。

 こりゃあ帝都は思ったより大丈夫そうなのでは?

 そんなことを思いつつ、前回の旅で取った宿の部屋を取る。

 俺、クルル、クラリス、ルカルー、ペロリ、コハナ、ナコ。

 人数が人数なので、三人部屋と二人部屋を二つ取った。

 俺はクルルとクラリスと三人で、と思ったのだが。


「タカユキは二人部屋かな」

「ええええ」


 クルルの笑顔の一言。

 決定事項ですか。なにゆえですか。


「日替わりでお部屋に伺います!」

「それは、また……なんとも」


 闘志を燃やしているクラリスを見ると嫌な予感がする。

 好かれているのもあるんだろうけど、むしろ理由は別にあるよなあ。ぜったい。


「お姉ちゃんたち、ほんとずるいよ」


 しょんぼりしているペロリを見ていると罪悪感もある。


「じゃあ皆さま、失礼して今日はコハナがお借りいたします」

「ルカルーはひとっ走りいってくる」

「そういうわけだから……パンツの力を強くするためにもがんばってね」


 半目のナコの視線が痛い。

 一応、そういう名目があるんだよな。一応。

 慣れっこのルカルーのスルーも結構刺さる。


「じゃあ解散。いい? コハナ、明日の昼までだからね」

「わかっておりますとも」


 クルルの目がぎらっぎらなのも怖いし。

 しれっとした笑顔で頷いちゃうコハナもなかなかの迫力です。

 そそくさとお部屋に入って一息吐く。

 いつも夜のように真っ暗だと時間の感覚がわからないが、そこはゼンマイ仕掛けの時計があるからな。

 一応、いまが何時かはわかるのだ。


「さて、勇者さま。お疲れですよね?」

「ああ――っと」


 腕を掴まれぽいっと放られる。

 ベッドに尻餅をついた俺を見て、コハナが胸のリボンを指先で解いた。


「じゃあ……まずは搾り取っちゃいましょう★」

「や、休むという選択肢は?」

「ないデス★」

「ですよねー」


 それいけとリボンを放ったコハナの力なのか、リボンが空中を泳いで俺の手首を拘束した。

 ――……その意味とは?


「さて、まずは日頃の疲れを癒やすところからいきましょうか」

「し、縛る意味あるんですかね?」

「天使と悪魔と死神のマッサージです」

「真ん中と最後のがやたらに不穏!」

「お疲れでしょ? 無理して大樹をやまほど抱えようとして」

「――……うぐっ」

「体にガタきてますよね?」

「……きてます」


 素直でよろしいと呟いて、俺を転がして背中に乗っかると、コハナが背骨に添って指を這わせた。


「てんぱるとやる気になっちゃうところ、大好きですよ?」


 えいっと可愛らしいかけ声に次いで、地獄の指圧!

 叫び声をあげたけど、死神からは逃げられませんでしたとさ……。




 つづく。

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