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勇者タカユキと悪魔の薬~異世界パンツ英雄譚2~  作者: 月見七春
第四章 温泉の街ファース、湯船に染み入る悪魔の薬
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第二十九話

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 目がちかっと光った時、咄嗟に上半身を後ろにそらした。

 俺の頭上を光線が二筋通り抜ける。


「あぶな!」

「天使レーザーをよけるとは、罰当たりだね」


 なにそれ! 女神もレーザー出してたけど天使も出すの!?

 身体を起こすも、コルリの目がぴかぴか真っ赤に煌めいておりまして。

 あ、これ死ぬ奴だ、と思った時だった。


「タカユキ避けて!」


 クルルの声だ。

 奴の左手を離し、俺の右手を掴む腕をはたき落として飛び退る。


「消えてなくなれ――!!!」


 俺が今までいた場所を特大の光線が焼き払う。

 視界に映ったコルリは笑顔で。


「その光を待っていた」


 ただ、受け入れた。

 ――……なぜだ。

 そう思ったのはつかの間。すぐにコルリの考えを理解した。

 クルルの光に押し出されていくのは、闇。

 コルリの身体から耐えきれず噴き出る闇だけが光になって消えていく。

 洞窟に新たな道を築いた主は、ふぅっと息を吐き出して俺のそばにいた。


「お待たせ。転移なんて疲れる魔法久々に使っちゃった」


 お腹の膨らんだクルルだ。

 ゆったりとしたローブを身に付けて身重なのに、その力は衰えを知らず。

 その背に生えた綺麗な翼は、天使の力を解放した印である。


「警戒して、まだいる」


 険しい顔でコルリを睨む。


「おや。私が無事なことを驚かないのかな」

「ふん。ホムンクルスの私が使った魔法を破ったのは、詠唱破棄とかじゃない。きっとこの世ならざる者の力かな。だったらこれくらいで死ぬとは思ってないよ」


 俺の腕に寄り添い、そっとパンツを渡してくれる。

 真実紛うことなき、俺の最初の仲間にして一番強い味方がきてくれたのだ。

 でも、だからこそ……ことはすんでいる。


「コルリ、まだやるのか」

「いや。我が女神さまの元に戻るよ。期せずして同族の力を浴びることができたからね」


 未だ警戒するクルルへと深々とお辞儀をする。

 顔を上げたコルリが右手を振るった直後、彼女の背からもクルルと同じ翼が生えた。


「え、え?」

「聖女の聖水はごめんだからね。何か悪魔から戻れる手はないものかと思いながらゆるりとざっくり旅をしていたが、案外なんとかなるものだね。我が女神の生き方も意外と参考になるものだ」


 足下の薬に両手をのばす。

 光の粒子が降り注ぎ、瓶の中が煌めきを放った。


「温泉にその薬を注げばいい。じゃ!」

「ちょ、ちょっと!」


 慌てるクルルも気にせずに、コルリは「定時なんでお先っす」みたいなノリですたすたと歩き去ってしまったのだった。


「な、なんなの、あれ!」


 憤慨するクルルを見て、色々と突っ込みたかったり説明しなきゃいけなかったりと、山積みなんだけれども。


「わっ!? ど、どしたの? 急に……」


 突然俺に抱き締められたクルルは、おずおずと背中に両手を回してきた。

 帰る場所の匂いに包まれた俺は言わずにはいられなかった。


「ありがとな、助けに来てくれて」

「……うん」


 頷いたクルルは、不意にふっと笑った。


「私だけじゃないかな」

「え」


 ふり返るクルルに手を引かれて洞窟の外に出る。

 クルルが指差す先に、いた。

 眩く光る鷹が空を翔る。

 その背中に乗っているのだ。ナコとクラリスが。


「ど、どうしてみんなして」

「私はホムンクルスがやられたから魔法で飛んできて。クラリス様とナコはあの通り、精霊の力を借りて追ってきてたの。ホムンクルスと距離が離れすぎるとうまく扱えないからね」

「そ、そうなん」


 なんなのそれ、もっと早く教えてくれてもよかったんじゃないの。


「なんかふてくされた顔してるけどさ。そういうのは全部お湯に流しません?」

「お前ね」

「いいからいいから。お互いいろいろ話さなきゃいけないでしょ?」


 さっさと温泉を元に戻してさくっとお湯に入ろうよって気軽に言われても。

 微妙に納得がいかないんだけど!

 いっか。助かったしな!


 ◆


 コルリの言うとおりに薬を入れると、温泉の湯がきらきらと光り輝いていた。

 街へ帰ると、あちこちで歓声があがっている。

 人に戻れたことを喜ぶ声ばかり聞こえるのだ。

 宿の受付には元に戻った男が待っていてくれたし、小屋へ行けばみんな元通りだった。

 湯船に浸かって至福の顔だったことについてはちょっと納得がいかないのだが。

 元気でいてくれたならそれでいいか。いいな!


「温泉だー!」


 はしゃぎながらもローブを脱ぐのに手間取っているクルルの脱衣の手伝いをして、同じように妊婦でも着れるドレスを脱ぐのに手間取るクラリスの脱衣の手伝いもした。

 ナコは半目で笑いながら「旦那は苦労するね」と言って、裸で湯船に浸かり、クルルとクラリスが無事に浴槽に入れるよう手助けしていた。

 世話役が板に付いているなあ。

 それにしても……。


「タカユキ-、気持ちいいよ? 入らないの?」

「タカユキさま、どうぞお入りになってくださいまし」

「お兄ちゃんはやくー」


 浴槽を見るとまあ、肌色成分多めですね。

 お腹の膨らんだクルルとクラリスは胸も張ってきているのか、前より大きさが増して見える。

 お腹の子は健やかに育ってくれているようで、クルルもクラリスも肌つやは決して悪くない。

 そんな旦那目線でいられるのも一瞬だ。

 他には関係を持った少女たちと、好意を表明してくれる少女しかいない。

 さて、この中に何も考えずに入ってしまうべきか、いなか。

 これは悩みますなあ! え、答えは一択だろ、って?

 ですよね!


「ちょっと待ってて! 今行きますんで!」




 つづく。

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