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勇者タカユキと悪魔の薬~異世界パンツ英雄譚2~  作者: 月見七春
第四章 温泉の街ファース、湯船に染み入る悪魔の薬
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第二十八話

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 突然ですが、事件発生ですぜ!


「えーと。ルカルー?」


 ぷるぷる。


「コハナ?」


 ぷるぷる。


「ペロリさーん?」


 ぷるぷる。

 返事がない。ただのスライムのようだ。

 肌がぷるぷるになる風呂に入ったらスライムになっちゃいました、と。

 ははははは。確かにぷるぷるしてますね。なんつって。


「いやいや! なんでだよ!?」


 スライムになった三人は困ったようにぷるぷるしながら温泉に浸かっている。

 とりあえず湯船から出してあげたいんだが、俺も手を入れたらスライムになるんだろうなあ。

 なのでロッジにあった籠を使ってなんとか三人を救助した。

 三人は喋れもせずにぷるぷるしている。いかにも儚げである。


「待ってろよ。なんとか解決して助けるから」


 三人にそう告げて、三人のパンツを手にまずは受付へ急ぐ。

 係の男は外に出た時に、どこからか一生懸命走ってきたところで会った。


「お客さま、温泉に入られましたか!?」

「あ、ああ」

「遅かった……!」


 ぐっと拳を握りしめる男に事情を尋ねる。

 何があった、と尋ねると彼は顔をあげて、獣耳を立てて言った。


「聞こえませんか、この街の悲鳴が」

「えっと……」


 耳を澄ませてもせいぜい聞こえるのは――……せいぜい、ひとつくらいだ。

 ぷるぷる。ぷるぷる。

 それだけである。

 ん?


「なんかぷるぷるいってんな」

「温泉の源泉に怪しい薬が入れられていて、そのせいで……湯に触れた物はみなスライムに」


 そんなことだろうと思ってましたけど!

 ってことはあのあくまで天使なコルリが出てくるのだろうか。

 敵として戦うとどれくらい強いのか、わからないところが不安。

 ともあれ、目的地ははっきりしたな。


「源泉の場所へ案内してくれ」

「わかりました」


 頷いた男が走りだす。続く俺は、しかし殺気を感じて咄嗟に男を抱いて飛んだ。

 真横からお湯が噴き出してきたのだ。

 見れば瓶を背負った子鬼がいる。

 その背中に同じような子鬼がやまほど、瓶を手に待機していた。

 中身のお湯がなんなのかは考えるまでもないな。あれを浴びたらスライムか。

 なんて恐ろしい攻撃なんだ!


「こ、この道を水路に沿ってまっすぐ行ったら源泉の場所に辿り着きます!」


 俺の腕から離れて、男が子鬼との間に立つ。


「お、おいおい」

「お客さまを守れずにいてどうします!」


 やだなにそのかっこよさ。


「あーっ!」


 一瞬で湯水をかぶって早速スライムになってますけれども!


「すまん!」


 瓶を背負った子鬼たちがスライムはそのままに俺へと向かってくるので、ひたすら走る。

 道の先には洞窟があった。その奥に源泉があるのだろう。

 ならば当然、敵だって待ち伏せる。

 後ろをふり返れば子鬼の集団。前にも子鬼の集団。みんなして温泉の湯を溜めた瓶を背負っている。

 あれ、もしかしてかつてない窮地?

 スライムに変えられたって教会に戻るわけでもないだろう。

 死んでないのだから。

 なら、倒されるよりもまずい状況なのでは?

 コハナの鎌でもペロリの拳でもルカルーのフックショットでもこの状況は打破できない。

 詰んだー!!!!!


「くそ、クルル、クラリス――……っ」


 ふたりの名を呼んだ時だった。

 すた、すた、と俺のそばに降り立つんだ。


「あら」「呼びました?」


 小さな姿の彼女たちが。


「勝手に絶望してるとこわるいけど」

「このくらいで挫けられては困りますわ!」


 クルル! とクラリスが呼びかけてすぐ、クルルが俺たちを中心に結界を張る。

 その直前、クラリスが懐から取り出した氷の結晶が地面に落ちた。

 直後、その周辺が一瞬で凍り付いたのだ。

 結界を消すためなのか、クルルが指を鳴らす。途端、子鬼たちが砕け散った。

 一瞬で敵を蹴散らしやがった。

 そんなの当たり前だと、俺の嫁二人が笑顔で俺を見上げて言うのだ。


「ちょっとたるんでるんじゃない? タカユキ」

「やっぱりわたくしたちがいないとだめですわね」


 うるせえ、と言いながらも嬉しくてしょうがなかった。

 ぷちだろうがなんだろうが、構うものか。


「こっから先はついてきてくれるよな?」

「誘拐事件の根っこが帝都にあるっぽいってわかったの」

「ですから、ええ。もちろんお供いたしますわ!」


 そういって二人して俺の肩によじのぼり、ほっぺたに触れてきた。


「それじゃあ」「いきましょう!」


 おう、と頷き、俺は走りだした。

 何が来ようと、二人がいるなら大丈夫だ……そう思ったんだけどな。

 洞窟の中に入って目にしたのは、魔法灯に照らされた源泉であろう泉だ。

 そこに不細工な顔を模した瓶が投入されている。

 中からしみ出た黒い液体が源泉に染み込んで溶けていく。

 ならあの瓶を取り上げれば少なくとも温泉は元に戻せるのでは、と思ったのだが。


「やあ、きちゃったか」


 次の瓶を泉へと放っているのはコルリだった。足下には同じ瓶がいくつも並んでいる。


「あんたが黒幕ね!」


 俺の肩からぴょんと飛び降りて、クルルぷちが右手を構える。


「リュミエイ――……」

「光は出ない」

「レ――……あ、あれ?」


 クルルぷちの魔法が――……発動しない。

 彼女の指から放たれるべき光線は、出る気配がなかった。

 コルリが途中で口にした言葉が原因なのか。


「な、なら!」


 クラリスぷちが懐から出した爆弾をコルリへと投げようとする。

 しかし、


「天命だ。仮初めの命の動きを禁じる」


 まただ。コルリが命じた途端、クラリスぷちの動きがぴたりと止まった。

 まるで氷漬けにされたかのようにだ。


「元の身体へお帰り」


 ぱちん、と指を鳴らした途端に、クルルとクラリスのぷち身体がふっと力を失って地面へと落ちる。

 慌てて手で受け止めたクラリスぷちも、手で引き寄せたクルルぷちも、目に光がない。息さえしていない。

 いきなりやられたーっ!


「おっ、お前、なにをっ!」

「あくまで――……天使だからさ。直でこない限り、相手にする気もないんだ」

「ッ」


 かあっと頭に血が上った時にはもう、ペロリのパンツの力を引き出しながら飛び込んだ。

 右手を全力で振るう。相手が女であろうとも、構うものか。

 なぜならば。


「野蛮だな、こっちはこれでも女の顔だよ?」

「止めるだろ、どうせ!」


 左手で鷲掴みにされていた。

 細くて折れそうなその腕で、軽々と。

 鈍い音がしたのに、涼しい顔をしている。

 やっぱり……強い。

 たとえばコハナから感じる彼女の本気の脅威はハンパじゃない。

 そのコハナとタメを張るなら、これくらいできて当然だと思うのだ。


「お返しだ」


 顔に迫る何かを咄嗟に左手で受け止める――……んだが。


「ぐっ」


 それはコルリの左手だった。

 全力で押し止めるのに、それでも顔に徐々に迫ってくる。

 右手の拳も押し返されるばかりだ。

 久々の窮地。ここからどうする?




 つづく。

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