第二十六話
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稼がないといけません。
翌朝、俺はため息と共に目を開けた。
功績を挙げ、スフレ王国に認められて地位を与えられるというのなら、それなりのことをしないといけない。
王族のクラリスと式を挙げるのなら、貴族たちの政治的情勢を大いに刺激するだろう。面倒ごとに巻き込まれそうなので変に存在感を主張したくはない。
相手が政治の世界だけに、必要の有無にかかわらずかき回したくないんだよな。
とはいえクラリスと結婚式を挙げれば、いずれはそうも言っていられない時期がくるんだろう。その動乱はそれなりに大変な規模になりそうだ。
だからこそ結婚式をあげるならクラリスのお腹の子のことを考えてするべきだとも思うしな。
そもそもクラリスに心労をかけることになりそうだから、やっぱり相応の地位ってのは難しいなあ。それに勇者じゃなく貴族になると、スフレが暴走したときにどうするって話にもなるし。
この世界を破壊する敵意から守るっていうことに集中できるような、自由な立場なのが望ましいが、これもいきすぎると困ったことになるよなあ。
やっぱりある程度、自由なのがいい。
「勇者さま?」
腕にふにっと押しつけられたお乳で思考が吹き飛んだ。
「コハナさん。やめてもらえます? お乳で俺の思考を乱すの」
「それくらいで吹き飛ぶなら、勇者様の中ではその程度のことか結論の出たことなんですよね? だからいいじゃないですか」
それよりも、とコハナは俺の身だしなみを整えて笑顔で言った。
「ルカルー様が勇者様の装備を強くする祠をすべてご存じでした。さくっと行ってさくっと済ませて帝都に向かっちゃいましょう」
えいえいおー、と片手を掲げるコハナに促されて俺はしぶしぶベッドから降りた。
寝心地のいいベッドともロートルパともお別れだ。
風俗街のお姉さんには世話になり倒したのでお礼ができなかったのが心残りだけど、これも縁だな。
固執してたら女神に一撃を食らいそうなので諦めます。
◆
おんぼろ馬車を買えるだけのお金はたまっていたので、旅に必要な物資を詰め込んで移動する。ルカルーが先導してくれて訪れた祠で装備を強化する。
そのへんのくだりをさくっとこなした俺は帝都へと向かう道中、ルカルーの提案で別の街に立ち寄ることになった。
帝国に築かれた巨大な壁の内側に入って、今回のルートは新しいなあ、などとみんなで笑いながら進む。
帝都に近い街だからこそ魔王の手が及んでいないか心配ではあるのだが、通り道にあるのなら休憩に立ち寄るべきだ。やばいことになっていたら助ければいいのだから。
やわらかいベッドが待っているなあ、と盛り上がる俺たちの体がふわっと浮かび上がった。
ずん、ずん、と。
妙な足音がする。
巨大な何かが地面を踏みしめるような、そんな足音がするたびに体が浮かぶ。
「あ、あれ!」
ペロリが指差したほうを見て俺たちは絶句した。
下手うまな絵描きが描いたような気持ちの悪い顔をした巨人たちが道の先から歩いてこちらに向かってくるのだ。
「あれは厄介な――……」
「巨人族ですねえ。魔界から出てきちゃったかなー」
顔を顰めるルカルーにコハナがのんきな相づちを打つ。
「どうすんだよ! すげえ速度で近づいてきますけど! 先頭の奴なんかオカマ走りだよ! 奇行種だよ、あれ絶対奇行種だよ!」
あわてる俺同様に、相手がでかすぎて身動きが取れない仲間一同。
そんな俺たちの前に先頭の巨人がスライディング土下座をした。
後に続いた巨人達も土下座をしてくる。
「……えっと?」
先頭の巨人が顔をあげた。
近い。
きもい顔がすげえ近い。
しかもすげえでかい。
「やだなにやめて、その圧やばいからやめて、え、なに? え?」
こしょこしょこしょ、と何かを囁かれるんだけどまったく聞こえない。
「体が馬鹿でかいのに対して声ちっちゃすぎだろ! なんだよ、え?」
「お、お兄ちゃん、そんなに近づいて大丈夫? ぱっくんって食べられたりしない?」
「聖女さま。勇者さまは魔法少女じゃないから、頭だけ食べられたりしませんよ」
「コハナはそのへんにしときなさい」
耳を傾けてみると、巨人はこう言っていた。
「おれたちは盗賊だ。食料をよこせ……って?」
俺が尋ねると巨人は笑顔で頷いた。
「んー。待って? え! どうなんだろう。うん。え!? 待って。ちょっと考えさせて」
ふり返って鼻水を垂らしている老馬の引く馬車を見る。中に積まれた荷物は基本的に外で止まるための寝袋とかをはじめ、火打ち石など旅に必要な道具たち。あとは食料。
俺たち全員分の食料の大きさは腕をめいっぱい左右に広げたくらいの箱一つ分。
なんだが、巨人達を見る。
「だめじゃないかな。きみたちの誰か一人があーんって食べたら、一口でなくなっちゃう量だと思うんだよね」
「こしょこしょ」
「ん? え? え? なんて?」
「こしゅこしょ」
「たしかにそのとおりだ。なんで人間界の連中はそれっぽっちしか食べないんだって? そりゃあなた、ここ魔界じゃないから。魔界サイズじゃないからね。諦めてもらうしかないですよ」
俺がそう言うと、巨人は悲しそうな顔をしてふり返って仲間達とこしょこしょ相談した。
「勇者さま、この隙にいっちゃいません?」
「そうだな。逃げるなら今だと思うぞ」
「それとも、ぶっとばす? ペロリがんばるよ?」
「待ちなさい、勇者として逃げる選択肢は基本しません」
「「「 えー 」」」
三人娘を片手で制して巨人達の結論が出るのを待つ。
ほどなく、
「こしょこしょ」
「なになに? 諦めて魔界に帰ります? そうだよ! それがいいと思うぜ、あんたたちと壁のセットはいろいろと物議を醸すもん。戻った方がいいと思うな、じゃないと駆逐してやるとかいいだす人が出てくるかもしれない」
「こしょこしょ」
「ご親切にどうも? いいってことよ!」
ぐっと親指を立てて巨人たちを見送った。
先頭に来た奴はやっぱり走り方が気持ち悪いが。
「話してみれば気の良い奴らだな」
いや! なんでだよ!
心の中で全力でツッコミをいれる。
しかしあんなでかい連中と戦いたくもないので、声に出して突っ込んだりしない。
「あれでも魔界じゃ厄介な魔物ですよ? 普通に話したりなんかして、仲間にでもする気ですか」
「死神と前魔王を仲間にした俺に聞くか? なら答えは一つだ! なんでもこい!」
あはははは、と笑いながらどや顔で胸を張っていたらペロリがぼそっといいました。
「その中に綺麗なおねえちゃんがいたら、お兄ちゃんはきっと手を出すんですよね」
「はは……は……これまでのことは、ほんとごめんて」
謝る俺にペロリは悪戯っぽく笑って、ざくざくと雪を踏みしめて走って行きました。
ふり返った彼女が言うんだ。
「いいけどね。そのたびにペロリが奪っちゃうから」
髪をかき上げる薬指に光る指輪と蕩けるような笑顔に、ただただどきりとしました。
「雪が溶けそうなくらいにアツアツですねえ」
「ふふ」
意味ありげに笑うルカルーも、楽しそうな笑顔のコハナも通り過ぎざまに俺の尻をきゅっとつねっていきました。
意味ありげに視線も送ってくる。
ううむ……波乱が起きそうです。
帝都につくまで、俺は無事でいられるんだろうか。
悲しいかな、なにか起きたとしてもすべて自業自得なんだけどな!
つづく。




