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第二十五話

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 笑い転げてひいひいいってる女神のパンツをもらおうとしたのだが、そういえば脱いで時間が経ったら武器が出せないとかいう縛りが存在したことを思い出した。

 縛りがなければ便利だけど、あればあったで脱ぎたてパンツをゲットできるのでまあいいか、と考えておこう。

 この俺の最低感。

 っていうかそもそも、いつも疑問だよ?

 なぜにパンツ。

 救済を求める者たちに対して勇者にすべてを委ねる決意を求めているのか。

 あるいは勇者にパンツを渡してもらえるくらいの信頼関係を築けと促しているのか。

 後者の場合、相当ハードル高いよ? それこそ深い関係にならない限り無理だよ?

 それともあれかい? 俺の大罪は色欲ってことなのかい?

 勇者の大罪が色欲ってどうなんだい? 俺はアウトだと思うんだけど、そこんところありなのかい?

 しみじみ考えるね。答えが出ないからそっと蓋をするけどな。

 いついた女神が眠りやがったので、俺はソファで寝る羽目に。

 放っておいたら女神はごろごろ寝返りを打って、ベッドから転げ落ち、床にぶつかる直前に光に包まれて消えたからさ。

 お前ほんとゲームしにきただけかよと突っ込みたかったね。

 問題は別にある。


「ルカお姉ちゃんがさ?」


 空いたベッドに居座るペロリが不満げに俺を睨む。


「しばらくふたりきりは禁止だって」

「当然だ。ペロリは聖女であるわりに、ルカルーが教えた避妊を徹底していない。クルルとクラリスだけでも手一杯なのに、これ以上はちょっと無理だろ?」

「そ、それはそうだけど……さっ、授かり物だし、別にいいでしょ? そのときが来たら、女神さまの思し召しだよ」

「だめなものはだめだ。落ちつくまで待て」

「お兄ちゃんからもなんとかいってよ!」


 ええええ? ううううん。


「ルカルーの言うとおりじゃないか?」

「お兄ちゃんの分からず屋! ばかっ!」


 ぶぉん! とうなりを上げる右ストレートが当たった瞬間、気づくと教会にいたよね。


「おお勇者よ。死んでしまうとは情けない」

「――……世の中って、理不尽じゃない?」

「そういうものですよ」

「……そっすね」


 塩対応だなあ、おい!

 神父さま、もうちょっと親身になってくれてもいいのよ? じゃないと俺泣いちゃうよ?


「じゃあ、わかってると思うけど、お金」

「あの、それなんだけど……ただになりません? 中途半端になる方向性でもなく、ただに」

「なるよ」

「なるんかい!」

「稼ぐためにはまずお金を要求するのが生きるコツだよ」

「神父さまがそんな生臭いこと言っていいのかな!? ……ったく」


 色々と突っ込みたいが今日はもうそんな元気はない。

 雪の降る街中へと出て、さっさと宿へ戻りました。

 なんですが、部屋の扉が開きません。


「お兄ちゃん、別にその気はないんでしょ? だったら中に入る必要もないよね。外で寝れば?」


 拗ね方もここまでくると清々しいな!


「ぺ、ペロリ、誤解があるなら言っておくと、別にしたくないとは言ってないぞ? 俺はすごく満ち足りた二日を過ごしたし、今後もと思ってるよ」

「でも別にそこまで乗り気じゃないんでしょ?」


 いや。そういうことじゃなくてね?


「だから、ほら。避妊してしましょうってことじゃないかなあ」

「ペロリの子供は欲しくないの?」


 そこまで過激に核心の話題に迫ります!?


「いまは早いってだけで、授かり物だっていうのも、できれば欲しいなあっていうのも、ペロリと同じように前向きに思ってるよ」

「口ではなんとでもいえるよ。すくなくとも、さっきそれ言って欲しかった!」


 うん……。 

 これ、あれだな。

 だめなやつだ。

 なに言っても怒られるやつだ。


「ペロリの仰るとおりです。ほんとにごめんなさい」

「謝って済めば騎士団はいらないんです」


 そ、そうですね。

 仲裁に入る国家権力はいらないですね。


「いいから、いい加減よそいって頭ひやしてきてください」

「……はい」


 ふん、という可愛らしい鼻息が聞こえたのですが、扉が開く気配はゼロなので諦めて回れ右。

 さて、どうしたもんか。


 ◆


 ふらふらと街を歩いていたら、いつしか色町で俺を誘ってくれた風俗嬢さんとばったり出くわした。

 笑顔で俺に声を掛けようとした彼女は、俺の表情を見るやいなや呆れた顔をする。


「ぱっと見てわかるんだよね。なにがあったのか。不景気な気が漂ってるもん。お嫁さんに怒られたの?」

「そんなとこ」

「ふうん」


 近づいて鼻をすんすん鳴らしたお姉さんは首を捻る。


「浮気の匂いはしないけど。だとしたら、余計なこと言ったか、肝心なことを言わなかったかなあ?」

「うお……正解なんだけど。なんでわかんの?」

「この手のもめ事っていうのは、だいたい足りないか過剰なせい」

「そ、そういうもん?」

「だいたいはね」


 だめなひとね。そう言っておでこを人差し指で突かれた。

 ちょっとどきっとするし、言い返しようもない。

 お姉さん、マジで手慣れたプロだ。すげえな。違う仕事はじめても儲かるんじゃね? カウンセリングとか向いてそうな気がするよ。


「大事なのは誠意じゃない? お兄さんみたいな顔してお店にくる人も多いけど」

「や、さすがにそれは。匂いで余計にキレられる」

「だよね。そんなことしそうにない顔してるし」


 ふふ、と笑った彼女は寒そうに外套の襟元を首に引き寄せた。

 外を歩けばすぐに頭が冷えるほどに寒い。

 雪は積もり、今もまだ降りしきっている。


「いいお客さんになってくれるかと思ったけど、それはなさそうね。まあいいわ」


 立ち上がって俺の肩をぽんと叩くと、


「雪のバラっていう氷菓子が売ってるの。ちょっと値が張るけど……それに、そうだな。指輪でもつけて贈ってあげたら?」


 じゃあね、と立ち去る彼女の背中に礼を告げて、俺はひとまず街を探し歩くことにした。

 歩き回ってみると、これがな? いかにも老舗の木製ロッジに辿り着いた。

 買い物に並ぶ列ができている。しかも揃いも揃って渋く歪めた顔した男達。

 最後尾に行って俺は頭を抱えたい気持ちになった。


「やあ、また会ったね」

「ほんと食いしん坊さんだね、お前は」


 あくまで天使の吟遊詩人がいたのだ。


「いやあ、宴で羽目を外しすぎた男達が妻や恋人たちに謝罪するために贈るという氷菓子が気になってね」

「そ、それだけ聞くとひでえ氷菓子だな」

「表向きにはもっとロマンチックなものだけどね。求婚に使う人もいるそうだ。とびきり綺麗なお菓子らしいから」

「ふうん……求婚ねえ」


 宴といい、歌といい、お菓子といい。

 ルーミリア帝国ってのはずいぶんとロマンチックな国だな。

 今日に限ってはそのロマンも情けなくなっちまっているようだけども。


「どれほど美味しいのか気になるよね」

「食いしん坊さんめ」

「コルリ。これでも一応、名前があるんだよ、食いしん坊さんで定着されては困るな」

「……タカユキだ」


 食いしん坊さんには違いないじゃないかと思いつつも自己紹介をする。


「女神が探してたぞ」

「帰りたいのは山々なんだが、いまはあくまで魔王の手先でね。よろしくお伝えください」


 背負った楽器といい、両手にぶら下げる買い物袋といい、その中身がすべて食い物だという事実も含めて気楽なやつだな。

 魔王の呪いにだって抗っていそうに見えるんだが。薬を売り歩いている時点で、呪われてはいるわけで。


「そんなに食べて太らないのか?」


 すっごく無難なツッコミしかできない俺を笑ってくれ……。


「胸と尻にしか栄養がいかないんだ。天使だし」


 ほんまかいな。


「それはまた……悩ましい話だな」

「腰は細いよ?」

「何アピールだよ」

「さあて」


 ふふ、と笑う彼女にさらに何か指摘しようとした時には、列の最前列に来ていた。

 買い物だけ済ませた彼女は「そろそろ次の土地へ薬を配りにいかないと、じゃあね」などと言って立ち去っていった。

 追い掛けるべきなんだろうが、今はペロリが最優先である。

 購入した氷のバラは、その名の通り一輪のバラを象った氷だった。

 舐めればとびきり甘いんだそうな。

 どうせなら人数分をと思ったんだが、いわゆるお一人様お一つ限り、ということなので諦める。

 コハナとルカルーには別に何かを用意して帰ろう。

 ひとりだけに贈ると、そのひとりへのアピールにはなるが残りのメンバーに対する攻撃になりかねない。

 だから、中身で勝負といこう。

 決してひよってはいない! 断じてひよってなどいない!


 ◆


 ペロリの指のサイズは把握済み。そこから俺の覚悟を読み取ってもらえたら幸い。

 自己満足で終わる可能性も高いので、自重も必要。覚悟をしようと伝わらなければ意味がないのである。

 でもこういう時ふたつ買って帰るのが正解なのか悩むなあ。

 そう思っていたから、宝飾品店の店主に「悩み事かい」と聞かれて思わず事情を話した。

 すると奥から古びた小箱を取り出して俺に差し出してきたんだ。

 中身は銀のリングだ。

 雪の結晶がちりばめられて、微かに虹色がかってみる銀の宝石がついている。


「元は魔界の鉱石とも、天界の鉱石ともいわれるもので出来ていてね。それほどの力がある者でないとつけられないんだが。あんた、ただものじゃなさそうだ。ならどうだい?」

「それ、やっぱり高いのか?」

「真っ先に値段の心配か。はは……そうさな、勉強しておいてやるよ。あんたも求婚か謝罪の口だろ?」


 見透かされてるぅ!

 氷の薔薇が入った堤があるんじゃ、ばればれか。


「そいつはありがたいが、なんでまた」

「いやなに。もっと言っちまうとな? 先日、サーカスにいた子の歌を聞いてね。その子の視線の先にあんたがいるじゃあないか。もしうちの店に来たら、と思っていただけさ」


 あんな良い子を泣かせるんじゃないよ、と言われて苦笑い。もう泣かせた後なんです、とは言いにくい。

 なので指輪を買って、コハナとルカルーも食べれるようにお菓子を買い込んで帰る。

 部屋の扉をノックしたらすぐにペロリの声がした。


「頭は冷えましたか?」

「ああ……で、渡したいものがある」


 がちゃ、と扉が開いた。

 ペロリがぶすっとした顔で突っ立っている。

 その後ろでコハナが笑顔で、ルカルーが呆れた顔で見守っていた。


「なんですか」

「これなんだけど」


 氷のバラを差し出した途端にペロリの顔が緩んだ。

 俺がホッとすると、あわてて表情を引き締める。

 怒ってるんですよアピールのつもりか、クルルの真似をしてつま先でたしたしと床を叩いて。


「そ、そんなものでごまかされないもん」


 いやあなた。めっちゃ喜びましたよね。

 露骨に顔が緩みましたよね。そう思いはしたけれど、それはそれとして。


「これもあげたいんだ」


 さっと小箱を差し出す。

 恐る恐る受け取って蓋を開けて、ペロリの目がくわっと見開かれた。


「ゆびわだ……」

「ど、どうかな?」


 どきどきしながら見守る俺に歩み寄ってきて「はめてくれる?」とドキドキした顔で聞いてきたから、喜んで、と答えたさ。

 小箱を受け取り、指輪を取って。

 左手を迷わず俺に差し出し中指と小指を離して薬指を強調してくる。

 薬指以外やだ、という強固な意志を感じるし、俺もそこ以外考えてなかった。

 薬指に指輪が触れた瞬間に指輪が煌めいて見えた。

 当然のようにペロリの指のサイズにぴたりと合う。

 根元に通して見上げると、ペロリは泣きそうな顔で自分の薬指にハマった指輪を見ていた。

 つけごこちを確かめるように指輪に触れる。きちんとスライドしている感じを見ると、いわくつきというわけでもなさそうだ。


「ペロリ?」

「この……指輪の意味は、なあに?」


 願うように俺を見つめてくる顔は答えを欲してる。

 後ろで見守る二人が目で訴えてくる。ごまかしたらだめな場面だぞって。

 わかっているとも。


「こんな俺ですが、きみがいやでなければ……お嫁さんになってくれますか?」


 そう口にした途端、ペロリが飛びついてきた。

 だいすき! って言ってもらいましたよ。

 抱き締めて、荷物を改めて持って部屋に戻る。

 コハナにお菓子を渡して、物言いたげなルカルーを片手で制した。


「まて。わかってる。わかってるから言うな」

「……はあ」

「いやあ。これでさらにお金を稼がないといけなくなりましたね」


 コハナの笑顔に俺はいっそ笑って言ってやりましたよ。


「やっぱりクラリスに相応の地位をもらおうかな!」


 ってね! 情けなくて涙が出そう!




 つづく。

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