第二十四話
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後頭部にルカルーの足裏、顔は床に押しつけられたこの状況。
もしかして、高度なプレイ?
いや、そうでもないな。普通におしおきだな。
ぞくぞくしたら危ないけど、その感覚はなかったな。
新たな性癖との出会いにはならなかった。幸か不幸かはさておこう。いまはそれどころではない。
「ルカルーを助けてくれたことには礼を言う。だが……まったく、お前というやつは」
繰り返し言います。
ルカルーの素足に頭を踏まれております。
フミフミされております。
「みなを代表して言わねばならない。いくらあの子が成長したからといって、あの子が望んだからといって、展開が早すぎないか?」
土下座して素足で踏まれている。
どうしよう。やっぱり真面目に検討するべきなのでは?
勇者業界においてこれはご褒美なのだろうか?
「だいたいなんだ。ルカルーには手を出さずにペロリって。敢えてのペロリって」
ルカルーのつま先が俺の後頭部からつつつ、と背中を通ってお尻に。
「これの使いどころはもっと色々とあったのではないか」
「あふん」
ふみふみされる。懐刀が後ろからふみふみされる。
や、やばい。これは……新感覚に目覚めてしまいそうです!
「ゆ、許してくれ……ペロリの気持ちに応えたかったんだ」
「やっぱりあれか? 若い子のほうがいいか」
「ちがうちがう、ちがうから指ではさもうとしないで!」
「じゃあなんだ? 三人目の嫁候補か」
「いつでも責任を取る覚悟は」
「責任ね。のんびり農業やって?」
ふみふみ。
「農作物が取れるまでの間の無収入についてなにも考えずに?」
ふみふみふみふみ。
「ルカルーたちが奔走している間、のんびり過ごした勇者が? 責任だと?」
「ううっ」
やっぱりこれは新手のプレイなのでは!?
「ふんっ!」
「あああふん! やめてよして、しゅっしゅしないで!」
魅惑の足技で昇天させられそうです。
「まあまあルカルー様。それ以上はいずれ寝室でなさっていただくとして、今は帝都のお話を」
「……そうだな。いいか、タカユキ。あとで覚えてろ」
ぶすっとした声でしたが、やっと解放していただきました。
危なかったぜ……。新たな扉が開きかけたね。危うくね!
見守りながらも黙っていたペロリ。それでいい! 揉めるだけの予感がするし。
コハナの作った料理を貪り食べてからルカルーの話を聞いた。
曰く。
「空から落っこちてきた天使が魔界の穴に突っ込んだ?」
「ああ。魔界の穴の周辺に魔法の結界を張ったお祝いを、国を挙げて実施していたんだ。お兄様の自慢の結界だったんだけど」
「落ちてきた天使が穴を開けて、中から魔王が出てきたそうです」
なにそのざっくりした事故。
「それからはもう、記憶があやふやだ」
天使かあ。
あの食いしん坊のことなんだろうなあ。
どうして落ちてきたのかわからないが、女神の雑さを思えば天使のしでかしちゃった理由もろくでもないものに違いない。
あれかな?
もしや天使、食い物に釣られたのかな?
可能性――……あるなッ!
しかし割と簡単に割れちゃう結界とか。
「遅かれ早かれ同じようなことになっていたんじゃないか?」
「いや。前魔王とウサギの力も借りた結界だ。少なくとも魔のモノに対する防御力は絶大なはずだった」
で、それを天使が破っちゃった、と。
しかもその天使は、悪魔に変えられてしまったんだろうな。魔王によって。
そして彼女は悪魔の薬を配り歩いている。それも魔王の命令によってだ。
今度の魔王はクロリアとは違って策を弄するタイプかもしれん。
他にも注意するべき点はある。
コハナにせよあの天使にせよ、簡単に魔王に悪魔に変えられてるからさ。利用するための方法の一つや二つ持っていてもおかしくなさそうだなあ、と。
食いしん坊天使なんか、おびき寄せるの楽そうだもんな。
割と絶望的な気持ちでいっぱいだけどな。
「魔王は帝都にいるのか?」
「いや、魔界にいる。ルカルーは操られているとき、奴を感じた。ずいぶん遠くにいる、そんな気がする」
「ざっくりだな……いや、ルカルーのせいじゃないから気にするな」
しょんぼりするルカルーにフォローを入れて、それから尋ねる。
「ルカルー、これから先の旅には同行してくれるんだよな?」
「ああ、もちろんだ」
「助かる。さて……と」
俺はひと息ついた。
「今後の方針は簡潔だ。帝都を取り戻し、魔王の元へ行って倒す」
「じゃあいつも通り、ざっくり北へ行く感じですね」
「……いつまで続くのかなあ。死ぬまでかなあ」
「死ぬまででしょうね。それも女神が役割を終えたと認めるまで」
「じゃなきゃ教会に逆戻りかあ……わあい」
コハナの提案にやや引きつる俺です。
俺たちの旅、だいたいざっくり北へ向かってる。
魔王退治もざっくりって、やっぱり問題あるんじゃね?
いまさらどうすることもできないのがなー。しょうがない。
◆
ベッドルームに行ったら女神がまたしても横になっていました。
俺に尻を向けて何かを両手に持っている。
「いけ、モンスター●ール!」
ぴん! とお尻が高く掲げられた。
ぴこぴこ音が聞こえるんだが、あのな。
「お前さあ。なにしてん」
「ちょ、まって。いまいいとこだから! すげえいいとこだから! 3回目、はいきたこれ、はいきたこれ!」
手元を覗き込んだらこの世界にはないであろう、映像の浮かぶ板きれ二枚を繋ぎ止めた何かを持っていた。
転がる球っころが広がって、中から魔物が出てくる。
「ああっ! おしい! もうっ、タカユキが声を掛けるから捕まえられなかったでしょ!」
「ゲームに夢中かよ!」
薄着で下着も胸元も丸見え、人のベッドで夢中になって遊ぶ女神を見ていたら懐刀が荒ぶり始めた。あれか。もはや消えかけた淫魔としての本能が、女神を落とせるのかどうか試したがっているのか。
脈動する懐刀が訴えてくる。
勇者さん、俺やりたいっす。酷使された俺っちに、ここで一発全力ださせてくださいっす! と。
「んー……んっ、あっ! やぁっ、いって、いっていって! んーっ!」
切実に喘ぐ女神の声を聞いてむらっとした俺は顎に手を当てて、それから尋ねた。
「なあ」
「うっしゃ、ゲットだぜ!」
「なあ、女神ってば」
「なにー? 何か聞きたいことがあるかなって思って出てきたけど女神ゲームに忙しいんだよね。天界に戻ったらえふえふやらなきゃいけないし」
「お前にナニしたら俺はどうなるのだろうか」
「しらないー。女神のパンツを手にした時にちょーすげー力つかえるかもしれないけど。ちょっとまって、マジでこのパツキンちゃん可愛すぎでしょ、はあ、はあ。女神ゲームに忙しいからそういう気持ちにはちょっとならないかなー」
蕩け顔で板っ切れに夢中な女神を見て、考える。
「その気にさせたらいい?」
「タカユキにできると思えないけどぉー。女神ひとりの経験はめっちゃあるけどふたりでしたことないしぃ。めんどくさい自覚ありますしぃ。まあできるっていうならいいですけどぉー。女神のこじらせ方はハンパないから無理じゃないかなぁー」
女神なのに荒んだ目をしてあれこれ言う彼女の耳に、ふぅっと息を吹きかけた。
「ふぁ――……」
ちょろい。脇腹をくすぐってみると涙目になりながら「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」と爆笑し始めた。
懐刀よ、諦めろ。お前の役目は終わった。
今日は休め。
「てめえこの! ざっくり旅させてばかりいて!? しかもわざわざ会いに来たと思ったらゲームしてるとはなにごとだ!」
「お部屋で遊んでたら、ちゃんと仕事しろって怒られるの! ここは待避所! いいでしょ、女神の世界なんだから!」
「俺はお前に呼ばれてがんばってんの! もうちょっとその自覚を持ってもらってもいいですか!?」
「ひーっ! ひひひひ! むりむりむり! くすぐるのやめて! わかった、わかったから!」
「あと十秒続けてやらあ!」
「やーっ!」
ばたばたしてたら、普通にコハナに叱られましたよね。
ルカルーだけじゃなく、ペロリの呆れた視線に我に返った。
よかった。くすぐる程度でこれだからな。
懐刀の声に従うものじゃないよ。マジで。
つづく。




