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第二十三話

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 クルお姉ちゃんがクラお姉ちゃんとふたりでお酒を飲んでいたときだったかな。

 夢見がちに言ってたことがあるの。


「たまにすごく優しいけど、あれがいつもにならないかな」

「基本的にぽやっとしていらっしゃいますから。しゃきっとなされたあとなんですよね、特に優しくなるのって」

「それねー。なんでなんだろうね?」

「殿方の生理というやつなのでしょうか?」

「そういう問題なのかなあ。うちのパパはママを不機嫌にしたあとは決まって優しくなるけど」

「それじゃ遅くありません?」

「そ! 遅いの!」


 ふたりは文句もやまほどあるし、それでも一緒にいたいくらい好きなんだよね。

 ルカお姉ちゃんだけじゃなく、ナコお姉ちゃんもコハナお姉ちゃんもそう。

 お兄ちゃんは完全無欠でもないし、戦いで負けちゃうこともあるし。

 なんならペロリのワンパンで教会送りになる。

 性格的にも問題がないわけじゃないし、勇者業の最中と休止中の稼ぎの差は天国と地獄。

 ふわふわっとざっくり指示をする女神さまにあれこれ突っ込むわりに、お兄ちゃん自身もけっこうふわふわっとざっくり生きているから、お互い様じゃないかなあとペロリはしょっちゅう思ってる。

 だけど、狼は一度認めた相手を見放したりしない。ルカお姉ちゃんは強い覚悟を持って一緒に生きるつもりでいる。ペロリは狼ってわけじゃないけど、同じ気持ちでここにいる。

 強めのお酒でふわふわ船をこぐお兄ちゃんの頭を鷲掴みにして囁くのだ。


「まだだめ」


 いまはペロリの時間。

 堪能しなきゃ、一生後悔するに違いない。


 ◆


 翌々日の朝、目覚める。

 ペロリは俺の上で眠っていた。

 大人になったといっても俺より若いよなあ。絶対。

 体力有り余っているからさ。ペロリの獣耳と尻尾に見る種族って肉食獣の王って感じだしなあ。そのせいなのか、合体を解除できない。やだ、超マッシブ!

 って、冗談を言っている場合ではなかった。

 ペロリはガチ寝中。

 ここで問題発生だ。

 ノックの音が鳴り止まない。


「おきゃくさーん。時間ですよー。そろそろ部屋あけてもらえますー?」


 ――……やばい!

 あわててペロリの服を取って着せて、俺も着込んでみた。

 ふと鏡を見る。

 ペロリを抱き締めて立っている俺。

 抱き上げ方が不自然すぎて問題ある。

 あれ? このまま出たら吹き出されるか、そうとうの変態扱いを受けるのでは?


「ったくもう、いい加減我慢の限界だ。開けるよ!」


 がちゃ、と扉が開いて清掃用具を手にしたおっさんが入ってきた。

 そして俺を見るなり、信じられない物を見るような目で見つめてこういった。


「うわあ……お、お盛んですね?」

「ちがっ、もう終わってまして!」

「延長したいなら言ってもらえます?」

「そういうことでもない!」

「じゃあどういうことなんですか?」

「抜けな――……いっ、いいだろ、そのへんは! なんとなく察してくれよ!」

「じゃあこちらの事情を察して、終わったんなら出てってもらえます? じゃなきゃ延長!」


 ええいっ。


「い、いい宿だった。じゃ!」


 すたすたとペロリを抱き締めたままで外へ。

 冷気を感じて戸惑う。外は一面の銀世界だった。

 降ってきた雪の冷たさにペロリが目を開けて、俺を見上げる。

 その足は俺の腰を抱えて離さない。


「あ……おはよ」

「おはよう……ぺ、ペロリ」


 気まずい以外のなにものでもない!


「んぅ……いたたた!」


 寝ぼけ眼で腰をあげようとしたペロリが目元を顰める。


「力ぬけない……ちょ、うごかないで!」


 無茶いうな!


「なんとかならないか? これ結構はずいんだけど」

「ペロリだってそうだよ!」


 デスヨネ!


「待って――……無理そう」


 諦め早い!

 テンパるペロリにさてどうしよう、と思っていたら視線を感じた。

 通りを歩く人たちが俺たちを見ていた。そりゃそうだ。

 服を着たとは言え、抱き合って出てきたら、そりゃあなにやってんの? って顔になるよな。


「ど、どうしよう」

「俺の胸に顔を埋めてなさい」


 咄嗟に働く彼女を守らなきゃスイッチ。

 両腕でペロリを抱き締めて、とにかく元々の宿へと向かう。

 少し歩いてきた頃になって、ペロリが俺の肩をばしっと叩いた。


「いたいいたい! むりむりむり!」

「無理って言ってもだな! これ以上どうしようも――……」

「だから動かないでって言ったでしょ!」


 ペロリのうなりをあげる拳が俺の顔面を正確に捉えた。


 ◆


 おお勇者よ、死んでしまうとは情けないと言われて項垂れるお兄ちゃんを迎えに行ったし、たいそう恨めしそうに睨まれました。

 しょうがないです。

 むしろあの状態で外に出たお兄ちゃんに非があると言えるでしょう。

 どうかしてるよ!

 あとね? ペロリは覚えたね。

 今度あんな感じで恥ずかしいことになったら、パンチもありかもしれないと。


 ◆


 ペロリがなんか恐ろしい技を覚えた気がする。

 そんな気がしてしょうがない。致命的なことになった。そんな気がしてしょうがない!


「ほんとお兄ちゃんってばかだよね。たまに救いようもないレベルでばか」


 新たに恋人になったペロリに手を引っ張られながら雪の中を急いで歩く。

 立ち止まったり遅れたりしようものなら、パンチが飛んでくる。

 確かにあれだね。

 恋人といるときの雪って特別な気持ちになるね!


「ふあぁああ……」


 宿の前に辿り着いた時にはペロリが欠伸をかみ殺していた。

 眠そうだ。まだ朝頃だと思うんだけど、のんびり過ごしちゃったからな。昼過ぎになっている可能性もゼロではないかもしれん。

 リッチな宿のフロントを通り抜けるわりに、感動とかなし。

 なんだかんだ、無駄に疲れた気がする。

 どんどんぐったり気味のテンションになる俺たちが部屋の前に辿り着くと、待ち構えていたように扉が開いた。


「ほんっっっっっっっっっとに! お帰りを首を長くしてお待ちしておりました。てっきりコハナは一泊二日だと思っていたのですが?」

「「 あっ 」」

「まあ、ご連絡いただくのも難しいかと思い、のんびりのんびりいつまでもお待ちいたしておるつもりでしたよ」


 コハナの笑顔の圧がすごい。怖い。


「こ、コハナ。何も言わずに一日ながめに外泊して、ほんとにすみません」

「ご、ごめんなさい」

「いいえ。とにかく、食事を用意しておきました。まずは朝食を」


 俺たちの背に回って、入室を促すように押してくる。


「ルカルー様もお目覚めですから。ほらほら、いそいで」


 そこまで言われて、俺は血の気が引いた。

 ペロリとの進展がばれたら、俺はルカルーに殺されてしまうのではないだろうか?

 一番ペロリを可愛がってたのルカルーだしな。

 俺は大丈夫なんでしょうか……。




 つづく。

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