第十七話
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急いでざっくり北へ向かう俺とコハナの前に、立ちはだかる奴がいた。
「おっとっとぉ、ここから先へは行かさないよぉ! 有り金全部おいてきな」
女盗賊だ。極彩色のモヒカンヘッドでちょっと小太りのお姉さんだった。
目元を黒塗りにしていたり、着ているのが妙にぴっちりしたスーツだったりして、世紀末に肉弾戦で来そうな感じ。
正直インパクトが強すぎて思わず立ち止まる俺たちです。
「あの……先を急いでるんですが。お金もないですし。嫁からお小遣いももらってないですし」
「ったく、しけた面しやがって。ロートルパから来たにしちゃあしみったれてんなぁ? おい」
歩み寄ってきたお姉さんがメンチ切ってくるんですけど。
「こんな道の往来でこんななりしてるけどなあ、芸人とかじゃねえぞ」
あははは、とコハナがすかさず合いの手のように笑う。
付き合わなくていいよと視線を送ると顔を逸らされました。
「しょうがないねえ……気合い入れてやんよ! 一世一代の大舞台のノリでなぁ!」
「いやあの、結構です」
「ひとぉつ!」
あ、無視してなにかやるんすね。
っていうか近い。近い。思わず三歩下がった俺に向けて指を立てた。
「嫁からお小遣いもらってないです、とかいう奴」
俺やん。
「ハア?」
顔が。顔が近い。圧が。圧が凄い。
「甲斐性がねえからお小遣いもやらねえんだよ、悔しかったらカジノで大勝ちするくらいの大金稼いで、俺についてこいくらい言えってんだコノヤロー!」
「ううううっ」
精神的に大ダメージ!
「そしたら嫁もちったぁ安心するだろうよ、バカヤロー!」
どこからか二人分の小さな拍手が聞こえて慌てて周囲を見渡すと、途端に拍手がぴたりとやんだ。
ん? ん? なんだ?
「ひとぉつ!」
まだあるの? ねえまだあるの?
「お金もないですし、とかいう冒険者」
俺やん。
「ハア?」
だから顔の圧がすごいって!
「冒険ってのはなあ、食料費から移動に際する道具のメンテ代からなにからやたらと金がかかるんだよ! 身一つで乗り切れるっていうなら、それもう冒険以前にサバイバルだぞコノヤロー!」
おおおおお、とコハナが手を叩いている。
「移動してねえで何日でも生き抜いてみろ! そうじゃねえならしっかり稼いで盗賊と戦う時のハラハラ感があるくらいは金持ってろよ! そうじゃねえとこっちも張り合いがねえだろコノヤロー!」
やりきった顔してお姉さんが立ち去っていった。
「……え」
あれ? あの、あれ? なんだろう、この感じ。
俺どういう気持ちで受け止めれば良いんだろう。
敗北感しかないんだけど。え? そういう勝負!?
「お金って大事ですね」
にこにこ顔で言うコハナに「勘弁してくだせえ」と頭を下げる俺でした。
◆
なんやかんやあってそれらしき山の前に辿り着いた。
いやもう。ね。いつものごとくのなんやかんやですよ。ざっくり北へなんやかんやあって目的地に辿り着きましたよ。例のごとく。
山を見上げると頂上が見えず、雲に覆われている。
その手前をペロリを捕まえた大鷲が飛んでいた。
一匹じゃない、数匹いる。
「どうします? 突撃します?」
「もちろんだ、今すぐペロリを助け出す」
「んー……でも正直、今の勇者様だときついと思いますよ。アレ倒すの」
コハナが指差す先には足を組んで寝ている狼人間型魔物がいる。
あれは魔王によって魔物に変えられてしまった人だ。
とはいえあれなら前回の旅でさんざん倒したからな。いけるいける。
「コハナ、パンツ」
「別にいいですけど」
メイド服のスカートの内側に手を差し入れて、赤いパンツを脱いでそっと丸めて渡してきた。
それを手首に通して結ぶ。ほかほかなのが生々しいが、ともあれ。
「出ろ!」
きりっと叫んだ俺の手にコハナのパンツから出る死神の大鎌が――……あれ?
「……えっと」
おかしいな。何度見ても草刈り鎌なんだけど。俺が望んでいるのは身丈ほどある柄に人を縦に両断できそうな刃のついた大鎌なんだけど。
草刈り鎌って。
草でも刈って宝石探せとでもいうの?
緑色の宝石すら出てこないと思いますけど。
「あれ? ちょ、ちょっとあれかな。うまく出せなかったかな」
一度消して、今度はコハナのパンツを左手で握る。
「出ろ!」
やっぱり草刈り鎌でした。
く、そ、そんなばかな!
「いっそ頭にかぶるしか!」
「勇者様、テンパりすぎですよ。さすがにそれはかっこうわるいのでやめましょう。プレイの時まで我慢してください。かぶったら大笑いしてさしあげますから」
コハナの優しい声ときつめの一撃に俺は肩を落とした。
「くううっ……なぜなんだ。なぜ武器がしょぼくなっている」
「ハンパに生き返らされたからじゃないですか?」
「やだ! かっこよく助けたいのに草刈り鎌なんて! 勇者っぽくない!」
「勇者様、テンパりすぎてクルル様みたいな口調になってますよ」
「俺はどうしたらいいんだ……」
「んー……そうですねえ」
難しい顔をするコハナに絶望しかけた時だった。
「手っ取り早くレベルを上げる方法がありますけど」
「え……」
そんなことを言ってくれるとは思わなくて「あるの?」と素の声で聞いてしまった。
「ありますよ。銀色でかたくてすばしっこいのを倒せば、一気にレベルがあがります」
「……まじ?」
「マジデス★」
きら星ポーズで言われても。
「本当だな?」
「本当デス★」
「ん! ん! ん! わかったから語尾やめよ? ね、いったんその語尾やめよ? 死と直結してる感が強いから、お前死神だけに死と直結してる感がマジ半端ないから。あくまで執事なイケメンが大好きなみなさまに冷笑を浴びる気がするから!」
「気のせいデス★」
「やめて! それのせいですげえ不安になるから! 倒したら死んじゃうのかって不安になるから! 怖いからやめて。まじ怖いからやめて」
「しょうがないですねえ、マジで本当に、見つけて倒せばレベルあがりますから安心してください」
弱気な俺に呆れたように笑って、コハナは俺の手を取り歩き出した。
「少し歩きますけど、恐らくあると思うんですよ。銀色がたくさんいる洞穴が」
「ほう……死神だけになんでもしってるな」
「なんでもは知らないですけど。神の一員として知るべきことは知ってますよ?」
「むしろお前の知らないことってなんだよ」
「それは……そうですねえ。大好きな人の心の中、とかですかね?」
きゅ、って俺の手を握る力を強めて笑顔を向けてくる。
「えーっと」
「伝わりませんでした? 大好きな人って、それはつまり勇者様。あなたのことですよ」
「よーっし、先を急ぐぞ!」
潤んだ瞳で見つめられて落ち着かなくなった俺は、歩く速度を速めたのだった。
「あん、もう……いけずです」
「い、いいから行くぞ! さっさとレベルをあげてペロリを助ける!」
「はぁい」
油断したらついしっぽりやって時間が経ってました、なんて展開になりかねない。
今はペロリが待っているのだ。そういうのは後回しですから!
つづく。




