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第十六話

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 ひとっ風呂浴びて帰るとペロリが上機嫌で出迎えてくれた。

 ちゃんとお風呂に入って匂いが消えた状態になったからなのか、腕に抱きついてはしゃぐ彼女が顔を擦り付けてくる。

 匂いつけられてます? もしかしなくても。

 何が楽しいんだかわからんのだが、


「これで魔除けになるよね」


 とか嬉しそうに言っている。

 なに、なんなの? 魔物扱いなの? 俺が通りを歩いて客引きに障られたりするだけで魔物扱いになっちゃうの? 俺申し訳なくて外を出歩けなくなるんだけど。

 遠回しな告白を続けて、嫉妬深さを隠さなくなってきた。

 次の約束で、もしかしたら――……本気でアプローチしてくるつもりなのか。

 大事な身内として接してきたけど、どこがペロリの最初に意識し始めるタイミングだったのか、正直あまりよくわからない。

 ひとめぼれって言っていたが、だとしたらファーストインプレッションはあれだろ? 敵に回ったあいつとの一騎打ち。

 わからん……。

 庭にあるプールに誘われて外に出ることに。

 一足先に戻っていたコハナは誘いに乗らず、くふ★と笑っていたのでそっとしておこう。そうしよう。なにかいやな予感しかしない。

 裸で湯船に浸かり、背中を壁に預けて夜空を見上げた。

 最上階のベランダにある風呂からの眺めが夜景。

 贅沢すぎるくらいの景色だ。何せこの世界の星空といったらちょっとしたものだから。空気が澄んでいるせいか、明かりが眩しくないせいか?

 ちゃぷ、ちゃぷ、と水音がして目を向けるとタオルを身体に巻いたペロリが入ってきた。

 最初に出会った頃は裸で飛び込むようなやつだったが、周りにいた俺の仲間たちは基本的にみんなお節介焼きだからな。

 淑女としての振るまいを教わったからか。

 それともこの世界で十分大人になったからなのか、恥じらいを見せるようにすぐに赤くなる頬を両手でおさえて、ほう……と息を吐いた。


「あったかいね」


 もじもじされながら言われると、どうしたって意識する。


「おう」


 頷いてしばしの沈黙。妙に視線を感じるので見ると、ペロリがちらちらと俺を見ているではないか。


「どしたの」

「……お、おそばにいってもいい?」


 もちろん、と答えようととしたんだ。

 けれどペロリの頭上から何かが伸びた、と思った次の瞬間にはペロリの身体が宙を浮いていた。彼女の肩を爪が掴んでいるのだ。

 爪の主は巨大な大鷲で、それだけでも驚きなのに。


「な、なんでお前が――……」


 大鷲の背に跨がるのは、ルーミリア帝国の姫君であり、俺の仲間でもあるルカルーだった。

 彼女の目がぎらぎらに赤く輝いている。


「返して欲しくば追ってこい……ただし」


 下着のような衣装を覆う外套を口元に寄せて。


「ついてこれるのなら」


 そう言ってルカルーが手で大鷲の背中を撫でると、一気に飛び去っていく。

 事態に理解が追いつかずにいる俺に、


「お兄ちゃん……っ!」


 ペロリの悲鳴が聞こえた。その瞬間にはもうホテルから飛んでいた。

 一番手近な建物の屋上が視界に迫ってくる。

 無我夢中で飛び出したはいいが……す、すげえ高いんですけど!

 勇者の能力をもってすればきっとだいじょう――……!


 ◆


 大丈夫じゃないな。大丈夫じゃない。

 ぐしゃっていったよ。みんちになった。そして気づいたら教会にいましたね。全裸で。


「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」

「ほんとですねえ。まったくですねえ」

「とりあえず早く服を着るがいい」

「清々しいくらい全裸ですもんね! ほらほら、持ってきましたよ?」


 教会の神父様の前で跪く俺に寄り添うのはコハナだった。

 色々と言い返してやりたい気持ちをぐっと堪えて、コハナが持ってきてくれた装備を身に付ける。


「よし、行くか」

「勇者よ、待ちなさい」


 ん?


「なんすか、神父様」

「お金。蘇生費用」

「ん? ん? ん? ん?」


 はよだせ、と言わんばかりに右手を出されて目が点になる。


「待って……あれ? 勇者ってただで生き返れなかったっけ? 年収が蘇生費用になるって話だったよね? 生々しすぎて俺、いまだに納得はしてないんだけど。心の底から納得してないんだけど」

「うむ」

「あ、流す感じ? 諦めねえから続けるよ? あのさ。勇者ってほら、広義でいえば魔物からお金を手に入れているけども、あのほら、お仕事的には稼いでないじゃん? 魔王倒してお金稼ぐとかそういう話じゃないじゃん? 年収的なものないって話だったじゃん?」

「農地を得て、作物を育てているのでその分お金がかかりますよね」

「んっんっんっんっ……え、待って。やだ待って。え、それ高いの?」

「あなたがいま泊まっているホテルに、最低でも半年は泊まれるだけの費用が必要です」

「……おおっふ」


 思ったよりどころかべらぼうに高いやんけ!

 コハナを見たらさっと顔を逸らされました。くっ……。


「ま、まけてください」

「…………」


 神父様の沈黙。ただただ怖い。


「いやほらあの! 魔王を倒さないと世界がやばいじゃん! 世界がやばいって大変じゃん? だからその、ほら、あの、えっと、やばいここへきて金がないとか今回の旅ずっとそんな流れかよ的な? ない? やだこの沈黙……こわいやだ、何か言って」


 焦っていろいろ話す俺の前で神父様が俯き、前屈みになった。

 思わず俺も前屈み。

 すると不意に身体をあげた神父様が仰った。


「いいですよ! ただで!」

「いいのかよ! なんだよ今の間はよ! だったら最初からお金を要求しないでくれよ!」

「ただし……」

「おっと! 安心させてかーらーのー? 法外な要求が~?」

「こんなこともあろうかとハンパに蘇らせたので、ご容赦ください」

「くるぅー! って来てないやんけ! ……え? 待って。ハンパに蘇らせたって、なに?」

「具体的にはレベル1的な」

「これから仲間を助けに行こうっていうのにそんな無慈悲なことする!?」

「元に戻して欲しけりゃ頑張って経験をためるかお金もってきて」

「やっぱり法外な要求がきた! くっ! お、覚えてろ!」


 勇者様、悪役の捨て台詞になってますよ、とコハナに言われながら俺は教会を後にした。


 ◆


 さて。


「コハナ、ペロリが連れ去られた。それもルカルーにだ。何かわかることはないか?」

「んー。伝令を送ったのに返事がなかったあたり、ルカルー様は魔王に操られているのかもしれません。帝都も既に陥落しているやも」


 がくっと脱力する俺です。

 なんなの、クロリアに攻め落とされて、次は新たな魔王に攻め落とされて。

 侵入されたら必ず割れるバリアでも張ってるの? うっ! 頭が痛い!


「物音が聞こえてお庭に出て見た感じ、ざっくり北へ向かったものと思われます」

「出たよ、ざっくり! 俺の旅っていっつもそれ。まあいいけど!」


 深呼吸して、俺は急ぎ街の北へ向かうことにしたのだった。

 無事でいてくれ、ペロリ……!




 つづく。

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