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第十二話

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 帝国出身のナコとルカルーがいないため、地理に詳しい者のナビは残念ながら一切なし!

 前の旅よりもさらに大ざっぱな移動になるかもしれない!

 なんて事態を想定していたのだが。


「お墓ならわかるかも」


 ペロリの発言は予想外なものだった。

 そういやこいつは元々帝国の人間だったな。

 出会ったのがスフレだから、出身地を忘れそうになるけど。

 先導するペロリの後について街道を歩いていたらさ。

 そりゃあ出るよね。エンカウントするよね。


「へいへいへいへいへい、ここから先へはいかせないぜ!」


 盗賊は今日も元気。

 逆に出くわすなり瀕死な盗賊がいたら「家で寝てろよ!」って叫んで終わっちゃう出落ち感がハンパないし、他の盗賊にいいようにやられて終わってそうな気がするので、出なくて結構。

 ルーミリアは平和になったはずなんだがなあ。

 魔界へと続く穴から魔王が攻めてきている以上、治安にも悪い影響が出ているのかね。

 魔物が出てくるならまだしも出てくる敵といったら盗賊、盗賊、また盗賊だ。

 特にこないだの合体した連中は――……そこで、ふと気づいた。


「なあ、コハナ。こないだ出た盗賊たちって、合体してたよな?」

「してましたねえ」

「こいつらってなんなの? 人? いっそ魔物なの?」


 ほら。頭に布をかぶって斧を持ったオッサンってモンスター扱いじゃん。

 あんな感じで。あれたしか、勇者の親父も同じ絵面じゃなかった?

 初めて見たとき、俺さ?


「あれ親父って魔物!? そこまで落ちたか親父!」


 とか思ったけど。違うよね。そういう見た目なんだよね。

 親父、両乳首だして生きてたのね。

 勇者もいっそ両乳首だしてもいいんじゃない? 俺も勇者だし出すべきかな?

 いや、無理だろ。ムリムリ。俺、さすがにそこまで自分の乳首に自信ないし。


「あれはなんていうか、その……あるじゃないですか。よく見たら人が組体操的に合体してる的なの。つまりは」

「人か。だとしてもあれは限度があったなあ」

「あれですよ。魔法ってすっごーい! ってことで」


 いや、別にいいんだけども。

 巨大人型になるまではいいけども。

 その足になってる奴、あまりの重さにつぶれると思いますけど。

 そこを魔法でカバーしたってんなら、それでもいいんだけどさ。

 ペロリに一撃食らって吹っ飛んでいっちゃうんだから、わけねえよなあ。


「おいおいおい、無視してくれてんじゃねえぞ……は! 俺がお前ら殺して」

「おぎゃあああああ!」

「お前らぁ、殺してぇ――」

「おぎゃあああああ!」


 よく見ると盗賊は背中に赤ん坊を背負っていた。

 ぎゃんなき中である。

 あまりにも全力で泣いてるもんだから、戦うとかそういう空気ではもちろんない。


「あのさあ……」

「さすがにあのう。赤子を背負って盗賊行為というのは、褒められたことではないかと」

「懺悔する? 赤ちゃんをあやして見えないところにいってからになるけど」


 当然、俺たち全員で睨む。


「まっ、待って! 待って! みんなして睨まないで、やだ!」


 視線の暴力に耐えかねたのかな?

 サーベルを手に構えている盗賊が、武器を地面に突き刺して言った。


「ちょ、ちょっとすみません。たぶんおむつだと思うんすよ」

「はあ……」

「すぐ、あの、自分すぐおむつかえるんで、待ってもらってていいですか?」

「……はあ」


 ペロリが変えてくる? とペロリに尋ねられて俺は真顔で首を横に振った。


「だめだ。親の責務だ。助けを求められたら全力で助けるが、自分でやるというのなら見守ろう。赤ん坊にとっておむつは死活問題! 親ができたほうが今後も安心! もたつこうと経験値になると思って、ここはおおらかな気持ちで待とうじゃないか!」

「律儀ですよねえ」


 コハナの声はスルーして、おむつを脱がす盗賊を見守る。

 ほう、ほうほう。脱がすときはああやるのか。


「赤ん坊が生まれたときのために、ようく見ておかないといけませんねえ」

「お兄ちゃん、ペロリたちに押しつけそうだもんね……」

「そっ、そんなことはないぞ!? 押しつけたりするもんか!」


 どもったのは動揺したからではない。断じてない!

 スフレで会ったご家族には、結構な割合で男が育児から逃げてるご家庭が多めでさ。

 元いた世界もそうだったんじゃねえかなあ。

 育児を男がすると褒められるのも、そもそもどうなんだっていう指摘をクルルが寝しなにぽそっと呟いてからがきっかけだったよな。

 当たり前に家族のためにできることをそれぞれにするもんだよねという話を翌日からされ始め、そもそも稼いでいない状況自体どうなのよっていう話に流れ込み、のらりくらりとかわそうとした俺にとうとう城で切り出したクルルとクラリスには頭が上がらないんです。


「いいじゃないですか。前向きに見ていて。どうせなら手伝ってきたらどうですか? 素直になって、ね?」

「コハナさん、ほほえましい顔で言わないでもらえます? ――……ちょっと行ってくる。あと、前提にはしないけども、そのときがきたらみんなには手伝ってくれたら嬉しいです!」

「それは構いませんけど」

「お兄ちゃん、それはもっとしかるべき形でお願いしたほうがいいと思うよ?」

「デスヨネ!」


 ペロリに指摘された正論が心をえぐるなあ! これもまた反省点!

 盗賊のそばに行くと、おむつをちょうど外したところだった。


「うお……は、破壊力あるな」

「いい加減、慣れますけどね」

「……慣れたの?」

「ちびの泣き声で夜中にたたき起こされて、お互い寝不足の妻とめちゃめちゃ喧嘩したあとのほうが、がつんときますよ」

「あー」


 なるほどなあと頷きながらも手伝わせてもらった。

 結構なうんちをした赤ん坊のお尻を水筒の水で流し、綺麗に拭いて、汚れたおむつを丸めて袋へ。新しいおむつを――装着、と。おおおお。

 赤ん坊を背負った盗賊がサーベルを抜いた。ぷうんと漂う、うんち臭。


「さあ、殺してやる!」


 お前の切りかえの速さに感動した。

 俺もやがてはそうなるのだろうか。最低でもふたり産まれるからな。

 無事に出産できればの話だ。いまから心配なんだよな。コハナの話じゃ、クラリスの悪魔要素がどう影響を及ぼすのかわからないわけだし。

 考え込む間に風が吹いて、匂いが拡散する。ペロリもコハナも憮然とした顔で鼻を指でおさえた。気持ちはわかる。


「いやあの、待った上で? しかもお手伝いしたあとで、こういうこと言うのなんだけど。この匂いの中では戦えないよ。冷静になって考えてみて? そういう技ってさ、いわゆる遊び人的な奴がする流れじゃん? 放屁的な技はさ? でもお前は? お前の職業は?」

「……盗賊?」

「だよね! でもさでもさ、その前にきっとお前、父親だよね? おむつ変えるから言い逃れできないくらい育児中だよね?」


 納得がいってない顔で、それでも盗賊は頷いた。


「まあ、そうだ……いや、だが! だからこそ、金がいるのだ!」

「うんうんうんうん! たぶんね? ほかのパーティーならそうでもないけど、俺はわかるんだ! すんげえ気持ちわかるんだ! もう痛いくらい気持ちわかるんだ! じゃなきゃおむつ好感手伝わないでしょ!? 俺も子供うまれるのよー」

「そ、そうなのか?」

「そうなの! そうなんだ! な!? だからわかる! お金が必要なのもな!? 痛いくらいわかる! もう花粉症がひどくなると鼻水とまらないレベルでわかる! わかるんだけどさ!? 敢えて言わせて? この匂いさ」


 確かめるまでもない。うんち!

 たとえ慣れてもうんちはうんちである。


「ちょっと微妙って顔してんじゃん。な? だいたいさ。赤ん坊にさ、血の臭いを嗅がせるのもあれじゃん? 情操教育的にはドストレートでアウトじゃん? ここはよしとこう! 嫁さんに預けよう。ね?」

「じゃ、じゃあ、預けてきて戻ってくるまで待っているか」

「それは約束できないけども。むしろ普通に立ち去るけれども! やっぱり、赤ん坊背負いながら盗賊はどうかと思うよ、なあ? 嫁さんをさ。ひとりにしたい気持ちもわからんでもない!」


 クルルとクラリスとふたりで、近所の未来の親になる家族に対する教育を教会で行なうから何度か参加したけれども。よく聞いたのは、ひとりになれる時間の贅沢さな。

 ふたりで分担するだけじゃなく、周囲の助けを得ながら子育てを。休む時間を確保しにくくなるのが子育てだから。できるだけ、ひとりでのんびりできる時間を作りましょう。

 王国でももっとも大きく歴史の深い教会で、一番経験豊富なシスターの教えを受けて罰が悪い顔をした男連中が結構いたし、だからこその啓蒙活動なのだろう。

 まだまだ足りてない。俺も省みないといけないことがやまほどある。

 自然にできるようになりたいもんだな。正直な。


「ただ、たださ? やっぱり、まずいよ。盗賊しながら育児ってのは。なあ?」


 俺の呼びかけにペロリとコハナは真顔で頷いた。


「だめだとおもう」「教育によろしくないですよねえ」

「育児と盗賊の両立はよそう? な! 悪いこと言わないから。な? 騎士にお願いしたら、街の清掃とかでももうちょいマシな仕事があるかもしれないし。なんなら口利きするからさ。な? 盗賊同士でもめ事も多そうだし。それじゃあ困るだろ?」

「お……おう。じゃ、じゃあ……お願いするって言ったら待っててくれるか?」

「ならな! 応じてくれるなら! 待つ! 待つとも! じゃないと盗賊続けちゃうだろ? いいからほら、さっさと嫁さん呼んでこい」

「おう! またな!」


 頷く盗賊が急いで走っていった。

 勝利!

 ただし漂ううんち臭の中で待つのもなんだよな。


「どうせなら、一緒についていけばよかったんじゃない?」


 ペロリ、それな?

 俺もいま考えてたとこ!


 ◆


 幸い、交易が盛んになってきた漁港の街でタフな働き手の需要はやまほどあった。

 野郎をばしばししばき倒す奥さんのほうがよっぽど腕っ節は強そうだったが、とにかく一家の面倒は見たので旅を再開する。

 勇者の墓には埋葬された勇者の幽霊がいる。

 そいつから服や装備をもらうことこそ墓を訪れる目的だった。

 今回は「あっちょんぶりk(ry」という版権に問題がありそうな呪文を唱えられたら俺の洋服の色が変わった。

 青になったぞ?

 防御力でも増したのだろうか。

 最終的には赤くなるのか? 神々の三角形が出てきちゃう? なんてな。

 このノリで各地の勇者の墓を訪れろ、ということなのだろう。

 服の色が変わったからもういいだろ、という気もする。


「次の目的地ですが、ここから一番近い場所ですと……どこがよろしいですかね」

「おっきな街があるの。前の旅で辿った霧の森を迂回するルートだけど。お兄ちゃん、どうする?」


 霧の森か。

 精霊使いの巫女ナコと出会った村がある。

 外から来た奴を食べようとするくらい閉鎖的で刺激的な場所だ。

 正直、悪い意味で田舎をこじらせた連中しかいない。

 あまり気が向かないなあ。

 できれば行かずに済ませたい。

 ならルートを変えて、ペロリの言う街に行くのも悪くない。


「ペロリの言う街に行こう。どれくらいかかる?」

「ここからなら夜にはつくと思う」


 だったら先を急いだほうがいい。

 早速、ペロリの先導で再び歩き出す。

 途中に出てくる羽の生えたヘビだのクマなんだかオッサンだかわかりゃしない奴だの、槍を持った豚人間だの。魔物が出てきたが、みな倒した。

 中でも宝石だらけの動く袋を数体倒した時はかなり稼いだぞ?

 ペロリのパンツが子供パンツから黒い紐パンにクラスチェンジしていた。あれかな。俺の知らないところで、下着も調達していたのかな。生活必需品だからな。旅の最中は着替えるのが大変だ。ずっと履きっぱなしっていう状況は避けたいよなあ。川があれば洗えるが、そのためには旅の経路をきちんと把握しなければならない。

 いずれにせよ、黒パンから剣を出して戦ったが、最近のぎこちない関係からか威力は正直そうとう弱い。

 むしろペロリやコハナの活躍で俺は生き延びることができたって感じ。

 武器の威力は、俺との絆の深さとかなんとか、前の旅で女神に言われた気がする。

 となると距離のできたペロリの武器が弱いのは当然と言えば当然だな。

 なのでコハナのパンツを借りようとしたが、


「お渡ししたくないなあって。いわゆるお月様到来中なので」


 笑顔でそんなことを言われたら無理ですよね!

 なんかほんと、生きててすみません! こんな力でほんとごめんなさい!

 なので苦戦しつつ路銀をたっぷりすぎるほど稼ぎながら……夜、やっとの思いで辿り着いた街はなかなか豪華な場所だった。

 シャンブルくらい豪華で、シャンブルほど気取ってない。

 夜空には花火があがり、魔法灯に照らされた建物周辺は昼間のように眩かった。


「カジノがあるの。劇場とか、サーカスとか、大人のお店がたくさん」


 両手を広げて街を見せびらかすように踊るペロリ、物凄く上機嫌だ。


「ルーミリア帝国のロートルパ。近隣諸国でも指折りの歓楽都市でしたっけ」

「そ! ホテル行こ。結構戦ったから、一週間は休めると思う」


 ペロリの言葉に思わず突っ込んだ。


「いや、一週間は休み過ぎだろ――いって!」


 コハナにお尻を全力でつねられた。

 見ればペロリの尻尾がひゅんひゅん唸り始めていた。

 対して俺の尻をせいばい中のコハナは笑顔である。


「ルカルー様に伝令を送って返事も待たずにきちゃいました。次の伝令を送って、こちらまで迎えに来ていただきましょう。門を抜けての移動ともなると時間がかかりますし、一週間くらい休んでもいいんじゃないでしょうか」


 なにそのアシスト。


「そ、そうだよ! たまには休みが必要だよ!」


 ペロリも妙に必死だし。


「――……帝国の出身のペロリさまがここまで仰っているんですよ?」


 思わせぶりな囁きをコハナにされて唸る。

 いや、ペロリがこの街で産まれたかどうかはまた別だろ。

 そうとミスリードしそうな言い方しやがって。

 しかし、ペロリになにかしら希望があるのなら、確かめてもいい。

 クルルとクラリスもクロリアをさらった奴を探しているという。

 場合によってはスフレに戻りやすい場所に留まってもいい。

 いや、船旅で五日はかかる場所からさらに一日は歩きでかかる場所に遠ざかっておいて、それは通用しないだろ。

 急ぎかどうかでいえば、急を要さない。出産にはまだ日がある。ただできるだけ早く帰って、ふたりのそばにいたいというだけで。

 この旅が必要なものだということは確かだし、しっかり進めたいという思いもある。

 ペロリとコハナとも、きちんと付き合っていきたいとも思っていた。

 休むなら休むなりの過ごし方もある。

 いまのペロリのパンツじゃ、俺の戦力低下は必須。

 元々ある剣でどれくらい戦えるか試してもいいし、だったら拠点に腰を据えたほうがいい――……決まりかな。


「わかった。ここに一週間。決まりだ」


 やっとお尻が解放された。

 コハナがほっとしたように口元を緩めている。

 わーいとはしゃぐペロリのほうが素直だ。

 このあたりの話の付け方も、もうちょいマシになるようにするためには、やっぱりふたりともうちょっと腹を割って話せるようになったほうがいいよなあ。より深い信頼を得るためにも、課題は多い。

 なんて真面目に思っていたんだが、ペロリとコハナが取った宿にはびびる。

 街の中心にある大層立派な宿の最上階に部屋だ。

 三つの寝室があるワンフロアからはロートルパが一望できる。

 昇降装置がなければ登る気にもならない十階建て。クロリアが俺の仲間になってからはルーミリアは落ち着いた情勢下にある。

 だからこそ、なのか。今は新館を建築中らしい。

 そいつは十五階建てを目指しているんだそうだ。

 窓の外には湯船が設置されていて、魔法灯のように魔法を使った仕組みで水道が動いているんだと。

 よくはわからないが、スフレと比べるとルーミリアはずいぶんと発展しているようだ。

 だからかな。王都にいた頃たびたびクラリスが「スフレももっと発展させないと」と、身重なのに毎日がんばってたのは。

 それはともかく。


「めちゃめちゃ豪華やんけ!」


 しかし返事はない。


「コハナは帝国騎士団の駐屯所へ、ペロリはどこかへ出かけちまって……俺一人なんですけど」


 一週間の休みを欲しがる二人には、ひょっとしたらこの街で成し遂げたい目的があるのかもしれない。

 ぼんやりと見上げた月はだいぶ満ちてきている。

 一週間もしないうちに満月になるだろう。

 ひと息吐いて、俺は部屋を出た。

 歓楽街か。

 いいだろう、楽しんでやろうじゃないか。

 ひとまず、ふと思ったね。

 そういえばさ?

 腹が、減ったわ。晩飯まだなんだよね。

 あれ?

 ひとりで食うの?

 それってなんか寂しくない!?

 あれ!? いまのパーティーの信頼関係、意外と問題あるんじゃない!?




 つづく。

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