希望は叶わなーい!
「あのー、ここどこですか?」
カイラは、隣にいる人物に尋ねる。
「集合住宅の一角だけど」
「いや、それは分かるんですが」
「だったら聞くなっ」
「どぷしゅっ!」
そして、隣に居る人物、ライキは、質問に答えながら後ろ回し蹴りを放った。無防備なカイラに向けて。そしてカイラは、星になった。
遡ること2時間前。
「おい、カイラ。これ開けて読んでくれ」
そう言われてカイラは、封筒の中身を確認した。そこには、勇者ギルドからの依頼書が。
それを見てカイラは、絶望の彼方にいるような表情になった。
(もう勘弁してくれよー)
ライキは、不思議そうにカイラを見ていた。
「おい、どうした。不幸の手紙でも入ってたか」
カイラは、それに答える事が出来なかった。なぜなら、以前にも勇者ギルドからの依頼書が来た事があり、その時に急にライキが不機嫌になり八つ当たりで、カイラはボッコボコにされているからである。(ちなみに、ライキはそのあと事務所にばれないように、治癒魔法でカイラを全回復させ、事務所の人に言わないようにカイラを脅していた。そして、ギルドからの依頼は断った)
その時の事を思い出し、思考回路が止まってしまったのだ。
いつまでたっても何もしないカイラを不審がり、ライキは直接封筒を確認しようとする。
「なんだー、俺に見せたくない物でも入ってたのかー?」
そう言いながら、カイラの手から封筒を取る。この時、カイラはほとんど失神しかけていた。
気になる依頼書の内容は?
「拝啓、ライキ・アーネット様。
この度、クエスト難度SS級の依頼が参りましたので、無礼と存知ながらもライキ様に依頼をこなして頂きたく、依頼書を送らさせてもらいました。
依頼内容
魔王にさらわれた女性声優の救出
依頼者
某大手声優事務所(正式名は控えさせて頂きます)
報酬
100000000ゴールド」
それを見たライキは、怒りをあらわにしていた。
「なんだと!あの野郎、声優さんを誘拐しただとー!許せん、体の原型が分からなくなるまで殴ってやる!」
今度は、依頼に対してではなく魔王に対してキレていた。
なぜ、こんなに怒り狂っているかというと、ライキはアニメオタクだからである。
そしてなぜ、クエスト難度SS級の依頼がくるのか。それは、ライキは副業で勇者をやっているからだ。
ただ単に、勇者育成学校を首席で卒業した訳ではなかったのだ。
まず、ライキは、世界で1人しかいない、SS級の勇者である。(ちなみに、S級勇者は3人しかいない)
はっきり言えば、SS級でも収まりきらない実力をもっている。ライキは、軽く見てもS級勇者1万人分の力があるのだ。(S級勇者10人で魔王と互角レべル)
(マジか!前は依頼自体にキレて俺に八つ当たりしてきたけど、今回は魔王にキレてるから俺には何もしないはずだ!)
ライキを見ながら、カイラはそんな事を思っていた。しかし、甘かった。
ライキは、急にカイラを睨みだした。そして。
「お前、こんな大事な事なんですぐ言わなかった。ん?」
「へっ?」
「なんで言わなかったか聞いてんだよ!」
すっかり安心していたカイラは、反応する事ができなかった。ライキから繰り出された、ドロップキックに。
「どぅふっ!」
変な声を出してカイラは、壁にめり込んだ。
その後、ちゃっかりカイラを回復させて、事務所にばれないようにしたライキであった。
回復したカイラは、ライキに質問してみた。
「依頼は、受けるんですよね。なんで受けるんですか?」
「多分だが、さらわれた声優さんは、今やってるアニメのメインヒロイン役をやっている方だ。そんな方がいなくなったら、アニメが延期になっちまうかもしれないだろ。だからだ」
真剣な表情で語るライキは、まさしく勇者であった。台詞は、かっこ悪いが。
「じゃあ、行くんですね」
「ああ」
期待の眼差しを向けながらカイラは言った。
「魔王城に」
「は?行かねーよ。何言ってんだ」
カイラは、一瞬何を言っているのか分からなかった。もう一度聞いてみる。自分の聞き間違いだと信じて。
「ま、魔王城ですよね?」
「いやだから、違うって」
「え?じゃ、じゃあどこに行くんですか?」
「説明すんのが面倒だから、お前も来い」
そう言われてカイラは、付いて行くことにした。
「は、はい。行きます」
(もしかしたら、ライキさんしか知らない魔王の隠れ家があるのかも)
新たな希望を抱いてカイラは行く。2時間後に打ち砕かれるとも知らずに。
(ついに、ライキさんの冒険を見る事ができるのかー。楽しみだな)
希望は膨らんでいく。
まず、事務所から歩いて5分の駅に、電車に揺られて1時間30分、そこからバスで15分、さらに歩いて10分の場所。そこが、目的の場所だった。
ただの住宅街の一角。
「え、ここ?」
今、何かが砕ける音がした。