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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鉄塔の上の鴉

作者: 藤崎透

僕は今日、人を殺した。辺りを見渡したが目撃者はいない。

 いや正確に言えば100メートルほど先の錆だらけの鉄塔の上にいる一匹の鴉がこちらを見ていたか。しかしそんな事を気に止めることは無い、例え僕が人を殺した瞬間をその鴉が目撃していたとしても鴉は人の言語を喋ることはできないのだから。いくら鳴こうが喚こうが人に伝える事が出来なければ意味はない。

 僕と同じだ。辛くても、泣きたくても僕はいつも口を閉ざして見守るだけ。感情が無いようにそれを悟られないように口を紡いで何とも言われようとも堪える。鴉が鉄塔の上で立ち尽くすように今、草むらの中をただ立って鳴くことも喚くこともしないでいる僕は鴉を見つめる


 しかし人一人を殺すのは拍子抜けするほど簡単なことだった。後ろを向いている隙に後頭部を石で一突きしたら脳にまで達したのが石を握る手にまで伝わってきた。人の脳は触れるという感覚は予想よりも柔らくて驚いたがそれ以上に血が溢れ出て同時に辺りには血が散布してしまい僕の服にも返り血が多少ではあるけれど付着する量に驚いた。

そうやって僕が人を殺したことで残ったのは達成感と今でも痛みと脳を切り裂いた感覚、それに衣服についた血と死体だけだった。


 僕は考えた、これからどうするべきか。本来ならばすぐさま警察に連絡をして自首すべきだろう。しかし僕にはそれが出来ない、物理的な問題ではなく精神的な問題なのだ

別に捕まることが怖いわけでは無い、ただ自分から捕まりに行くというのは僕の意識に反するのだ。

 こんな考えを繰り広げればプライドが高い人間だと思われるかもしれない、しかし僕は自分のことをプライドが高い人間だとは思わない。プライドが高いのではなく自分のことを本当の意味でよくわかっていないだけなのだ。


 その証拠に人を殺した非日常を僕はもう受け入れている。普通の人間ならばこの状況から一刻も逃げ出したいのだろうが僕は違う。今が人生の中で一番に達成感に満ちていて最高に気分が良い。息をするたび肺の中まで酸素が行き渡るのを感じ、頭が冴えるのを感じられる。

それに捕まるということに恐怖を覚えていない。加えて人を殺したことに対して消失感を感じるどころか達成感を感じて、こんな時が一生続けばいいとさえ思っている。

大抵にそれは普通の人間からしてみれば異常なのだということを僕は知っている。

知っているが故にそんな自分のことが自分ではなく悪魔なのではないかとさえ思ってしまう時がある。

 

 そんな時には決まって同級生である彼女の言葉を思い出す。「人が生まれてきた意味は必ずある」そんな大義名分を恥ずかしげもなく人前で語る彼女は人を殺した僕を何と言うのだろうか。もしかすると自分に負い目を感じて心を病むかも知れない、そしたら自分で命を絶つかも知れない。そんな風に彼女はどこまでも人に影響される脆い人間だ。

そんな彼女に僕は金輪際会うことは無いであろう。会う資格が無いだろう。だから彼女に僕から一つだけ願うとするのならば彼女には今のままでいてほしい、今のまま正義でいつづけて欲しい。


身勝手な願いだけどそれだけで僕は自分のことを少しだけ許せる気がする。


 僕は大きく息を吸う。目撃者は鉄塔の上の鴉だけ、完璧な殺人だ。

今日のうちにこの街を出よう、そして誰も知らない誰もいないところで自らの手で死のう。

これから夜へと変わる陽を見ると頭上の巻積雲がオレンジ色に照らされていた。気づけばどこか遠くからはひぐらしの鳴き声も聞こえる。秋はもうすぐそこだ

 決意した僕は踵を返して草むらの中を歩き出す。

何か反応があれば改めて続きを書きます

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