×××を変えただけ
復帰作第二弾。「×××が変わった日」の方を先にお読みください。まぁどちらにせよしょうもない話ですが!
俺には幼馴染がいる。なぜかそう言うと、よく女子の幼馴染だろう、って言われる。まぁ実際は男子だけどね。ただ、女子よりも美人顔の男子だけど。
俺たちはいわゆる生まれたときからの仲、ってやつだ。家が近所だし、家族ぐるみで仲良しだし。もちろん生まれた病院だって一緒だ。俺たちは仲がいい……というか、近くにいるのが当たり前だった。いつも一緒にいることに疑問なんて持たなかったし、それが自然で当たり前のことだと思っていた。成長するにつれ、ある意味現実を目の当たりにすることになるんだけど。
————幼馴染の母子は、見事なまでのド天然だった。ほっといたらアカンレベルの天然。ほんわかした雰囲気を持つ上に素晴らしく美人顔のおばさんと幼馴染が揃って天然とか、今思えば二次元がこい!って感じだったんだろうな。一緒にいるうちに「こいつほっといたら危ないんじゃ…」と思った頃、母さんが実に深刻そうな顔で俺を呼んだ。
「……あんたも気づいてると思うけど、あそこの母子は知らないうちに犯罪に巻き込まれてそうな人の良さと天然さを持ってるのよ。頭はいいのに。回転だって悪くないのに。
だからね、ある程度でいいから面倒を見てくれる?無理だってなったら、それでもいいから!少なくとも2年生までは見てあげて!お願い!」
当時の俺、6歳。冷静に思えば、相当な無理難題を押し付けてるとは思うんだけど。でも、俺は頷いた。
「わかった、母さん。あいつの面倒は俺が見るな!」
「ありがとう!!これでひと安心だわ、よろしくね!」
というか、一緒にいるのが当たり前だと思ってたから、何かあったら面倒見ようとは決めてたけどな。とにかく、この日から本格的に幼馴染の側にいることにした。
小学校低学年は同じクラスだったこともあって、友達も増やしながら常に一緒にいた。グループとかも同じになることが多くて、担任がわざと俺らをバラバラにしようとしてたんだけど。
「せんせぇーっ、高橋くんが!」
「次は何やったの!?」
「うさぎごやのドアを開けっ放しにしてた!」
「だってうさぎさん、狭いところにいたらかわいそうだもん」
「そうじゃなくてね!?」
「……今日、当番日誌書いたのは誰かなー?」
「あ、僕だよ」
「高橋くん、どうして全部左右逆になってるのかなー?」
「きのう、テレビでかがみ文字やってたから、書いてみた!」
「そっかー、でも読むのが大変だから、今度からやめようねー」
……俺から離してすぐ、問題ばかり起こすようになっていた。てか、幼馴染独自の考えで動くおかげで、他の人には予測がつかなかったらしい。その代わり、俺が一緒だと思考を先読みして可能性をつぶしていくから、それほど手がかからない。最終的に、担任は俺に頭を下げてきた。
「ごめんね佐藤くん、わざと離すようにして。お願い、高橋くんとこれからも動いてくれる?」
「もう母さんとも約束してるから、もちろん!」
てか、まさか先生まで俺に頼んでくるとは思わなかったけどね。
でも、世話を焼くのも俺が中学年からサッカーを始めたことで、一旦終了することになる。部活が忙しくて、一緒にいられなくなったことが大きかった。あと、その頃には幼馴染もあんまり天然発揮しなくなってたし、ほかの友達がフォロー入れてくれてた。クラスも分かれたから、近所ながら疎遠になってた。
そうして結局、疎遠になったまま小学校を卒業した。
中学校に進学しても、クラスは違うし俺は部活があったし、すれ違うこともほとんどなかったんだよ。ただ、俺たちの家は学区の端っこにあって、小学校時代の友達がほぼいない状況だったから、気にかかってはいたんだけど。そのうちに俺は怪我しちゃって、部活を続けられなくなった。でも友達は多かったから、ものすごく落ち込むってこともなかったんだけどさ。妙な噂を聞くようになったわけ。
「は?鬼の学級委員?」
「そうそう、なんかいつもしかめっ面でやたら厳しいんだって。成績もいいし、体育も苦手じゃないらしくて、鬼の学級委員って呼ばれてるんだって」
「クラス替えしたら大変じゃーん?目を付けられないように気をつけろよ、佐藤」
確かに制服を着崩してたし、髪も部活やめてから伸ばしてたし、見事校則に引っかかるかどうかってところにいたからな。大丈夫でしょ、ってそのときは答えてた。
で、いよいよ二年。久しぶりに幼馴染と同じクラスになった、んだけども。
「……ちょ、どうしたぁぁぁぁぁ!?」
男子の平均より低いとはいえ背も伸びて、美人顔ですごい中性的な雰囲気になった幼馴染が、鬼の学級委員と呼ばれていた。つーか、どうしてしかめっ面してんの。そんなのお前のキャラじゃないだろ。
周りの友達が止めるなか、かって知ったる俺は思わず叫んで駆け寄った。
「ああ、久しぶりだな」
「うん久しぶりだけど!!そこはどうでもいい、お前どうしたの!?」
俺の言葉に、幼馴染はしかめっ面のままで答えた。
「……世界が、きれいに見えないんだ」
数秒答えの意味を吟味して、ふと気がついたのは、明らかに合っていない眼鏡のフレーム。
「……お前、眼鏡何年替えてないわけ」
「何年だろう……覚えていないな」
ああああああああああ……と俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。この天然はやっぱりほっといたらアカンやつだった。
その後の展開?もちろんおばさんに事情を話して眼鏡を買いに行ったよね!進みすぎた度を調べてもらって、俺がフレームを選んで、どんなレンズにするか相談して、いつ引き取りに来ればいいのか聞いて……って俺はあいつの身内か何かか!?
で、新しい眼鏡を引き取りに来たら。
「世界は美しいな!」
生き生きと語る幼馴染がいた。俺は呆れ顔を隠しもしないで、とにかくため息をついた。目をやれば、店員も苦笑気味に笑ってるし。お疲れさま、って言外の声が聞こえて、俺は遠い目をした。
でもさ、俺は気づいてなかったわけ。昔と違って、あいつは美人顔の中性的イケメンになってたことを。
「佐藤くん、おはよう」
「おはよ、佐藤」
「おはよー」
「おはよう、今日もいい天気だな」
眼鏡の度が合った幼馴染はしかめっ面もなく、むしろ楽しくて仕方ないとでも言う風に明るく朗らかに笑ってみせた。瞬間、見慣れていない周囲の女子たちの顔が真っ赤に染まる。……ちょっと待て、なんで男子まで顔赤くなってんだよ。
俺が周囲を見回している間に、幼馴染は楽しそうに先を進んで行く。うん、これこそ俺の知る幼馴染だ。
「……佐藤、今のって鬼の学級委員だよね……?」
「うん。あれが本来のあいつだよ?ただのド天然」
これからあいつに振り回されるんだろうなぁ、と思うけど、もう慣れっこだ。ひとまず、あれがあいつの本来の性格だってことを知ってもらうとこから始めようか。
……どうもすみませんでした。
つい最近、眼鏡を新調しまして。で、ふっと降りてきたのが「世界はなんて美しいのだろう!」というフレーズでした。
今振り返ればアホだなーと思いますが、そこから頑張ってしまった結果がこれでした。
高橋くんは中性的美貌を持つド天然さんです。佐藤くんはチャラく見えてすごく常識人、という隠れた設定があったりします。