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ゲームと現実  作者: 流雨
6/7

お友達

門の前で徹君の友達こと征二君を待つこときっかり50秒。お屋敷の正面扉がぎいっと開いて、中から一人の少年が姿を表した。


その子は徹君が門の前に立ってるのを見つけるとこっちにつかつか歩いてくる。着てるだけで防御力が2000上がって、さらにあらゆる状態異常を無効化する機能まで付きそうな服を着ている。えっと、つまり高そうな服を。

見た目は徹君と同じくらいの十代後半。でもその顔は何故か不機嫌そうで、綺麗に整った眉が顰められている。初対面でも解るけど…なんか怒ってる。


「おはよう征二」

門を間に挟んだまま、徹君が通常装備で征二君に挨拶する。

「おはようじゃねえよ!お前な、連絡も無しにいきなり来るなよな!」

うわ、頭ごなしに怒鳴られた。私は驚いて、

一瞬肩を縮こまらせた。


だけど怒鳴られた本人の徹君はびくともしなかった。むしろ平然と言い返す。

「どうやって連絡するの?僕は携帯も持ってないし」

「電話ならあるだろ!」

「君の家の電話番号覚えてないし」

「覚えろよ!」

「それは無理があるんじゃないかな」

「せめてメモとるとかなあ…!何か対処法あんだろ?」

「面倒くさい」

「そんな事言ってるともう家入れてやらねえぞ!?」

「ごめん。後でメモするからもう一回電話番号教えて」

「ったく…しゃあねえな。入れよ」

「お邪魔します。あ、征二。忘れてた」

「何を?」


二人の会話についていけなくて横でぼーっと聞いてたら、いきなり徹君に手の平で示された。

「こちら。『姫君と海の大陸』からやって来たアンナさんです」

って紹介されたので、今やっと私の存在に気付いた風の征二君に向けて、右手を胸に充てて一礼した。

「アンナです。初めまして征二君」

それから何故か十秒くらいの沈黙の後、ぽかんと口を開けてフリーズしてた征二君が



「っえええええええ!?」



木に止まってた鳥が驚いて飛び立つくらいの大声を上げた。






「ほお。討伐対象であるドラゴンに倒されて目が覚めたら日本に居たと」

私と徹君は、お屋敷の中の征二君の部屋で、彼にそう説明した。この部屋一つでも、徹君の家のダイニングの三倍くらいはありそう。


壁に横向きにくっ付いた冷蔵庫みたいな形の箱から涼しい風が出ていて、部屋全体を冷やしている。これで魔法を使ってないって言うんだから本当に驚きだ。って徹君に言ったら、デパートにも付いてたって言われたんだけど…そんなのあったっけ?


「そういう事」

ふかふかの絨毯に座った徹君が頷く。

「はああ…信じがたいけど、実物が目の前に居るんだから信じるしか無いよな」

椅子に後ろ向きで座り、背もたれの所に両腕を置く征二君は、頭を掻きながら言った。信じてくれるみたいだ。


征二君の釣り上がり気味の目がベッドに腰掛ける私に向いた。

「本当にアンナなんだな?あのゲームの」

「そうよ」

「その服はどうした?」

「僕が買ってあげた。この世界の洋服店で。流石にアンナの服は目立ってたから」

「道理で見かけない服だと思ったぜ。お前…もう一つの名前は?」

「リリーよ」

トール(主人公)に付けられた名前だ。

「貴方の持ってる『姫君と海の大陸』に、そんな名前の子は居ない?」

聞いてみると、征二君は少しの間考え込んでから、また私に言った。

「いや…俺のデータにはいないと思うぞ」

残念。もし私が居た世界を見つけられたら、トール達がどうなってるか見てみたかったのに。


「姫君と海の大陸」は一つのカセットに50個までデータを入れられる。ファイル1から50まであって、私が住んでた(って言うのかな?)のはファイル15らしい。お婆ちゃん情報だ。って事は、私の他にも沢山の「アンナ」が居る訳で(勿論他の人もだけど)。ファイル15の私がその世界から消えても、いざとなれば他のファイルから「アンナ」がやって来て、私の代わりを務めてくれるんじゃないの?


っていうのが私の意見。


…ん?さっきから矢鱈と視線を感じるんだけど。って征二君を見たら、やっぱり彼の目は私の顔よりちょっと上を凝視してた。

「すげー緑色だな」

髪の毛の事を言ってるらしい。

「そういう設定なのよ。貴方もゲームで何度も見てるでしょ」

「いや、でも現実で見るとまた違うっつーかな…」

言いながらも、征二君はまだ私の髪を見つめてる。徹君になら「見ないで」って普通に言えるけど、うーん。果たしてこのプライドが高そうな子にそんな事言って大丈夫かな?


「征二。アンナが困ってる」

おっと徹君から助船が。

征二君は慌てて目をそらした。で、頬をちょっと赤くして、

「そんでお前らは何しに来たんだよ!」

逆ギレしないで欲しいなー。


「そうそう。アンナが君のゲームを見たいんだって。見せてあげてくれない?」

私はそんな事一回も言ってないんだけど、まあ似たような事は言った気もするからいいか。

「…なんで俺が見せなきゃなんないんだよ」

あれ、征二君、最初の不機嫌顔に戻ってる。

「まあそう言わず。僕達友達だろう」

「棒読みで言うな!」

「一応心を込めて言ったつもりなんだけど」

「ぜんっぜんだよ!なんで俺がお前の為に」

「今回はアンナの為だから。お願い」

お?征二君が言葉に詰まった。

「でも…そうだな。お前の家、ゲームどころかテレビもないもんな」

「そう」

「仕方ねえな…いいよ。付いて来てくれ」

征二君はお願いに弱いみたいだね。何はともあれラッキー。

征二君は椅子から立ち上がって部屋から出た。違う部屋に行くみたいだから、徹君と私も付いて行く。

「この部屋にはテレビがないから」

らしい。


「なあなあ。アンナが本物なら、魔法とか使えんの?」

好奇心丸出しで聞く征二君に、私は首を横に振った。

「何かね、この世界に来てからは使えなくなったの」

「ええ!?マジかよ」

私の魔法を見れると思っていたのか、凄く残念そうな顔で肩を落とす征二君。なんか罪悪感が湧いて来た。ごめんねー。

「でも高い身体能力はそのままだったよね」

「うん。だから私魔法が使えなくても、スライム並みの強さの日本人よりもは強いよ」

「スライム並み…」

私が胸を張ると、何故か征二君が苦笑した。




テレビという物を初めて見た。黒くて薄くて大きかった。

りもこんの赤いボタンを押すと、暗かった画面がパッと明るくなる。

もう一度押すと、またパッと画面が暗くなる。


「何これ面白い!」

点けたり消したりを高速でやってると、「壊れるだろうが!」って怒った征二君にリモコンを取り上げられた。

「征二、これ食べていい?」

「勝手に人の冷蔵庫開けんなよ!そんで何普通にアイス食べてんだお前は!」

「やっぱりハーゲンダッツは美味しいよね。アンナも要る?」

「要るー」

「お前ら人ん家!ここ人ん家!!」



「はー…二人とも黙ってそこ座っとけ」

苦労人の溜息をつきながら、征二君がテレビを弄る。またパッと画面が点くと、私の聞き覚えのある音楽が流れて来た。


「おおー。あ、トールが映ってる!やっほートール!」

「あっちには僕達は見えてないよ」

「それと、こいつはトールじゃなくてリツだ」

言いながら、征二君は慣れた手つきでファイルを選択していく。大人しく見ていた(大人しくはなかったけど)私に、

「やってみるか?」

と黒い何かが投げられた。

「コントローラーだ」


私は満面の笑みで「うん!」と答えた。



征二君と徹君にやり方を教えてもらってやった「姫君と海の大陸」のレベルは15くらいだったから、私が自分の世界でもやった部分だ。でも面白かった。何せ視点が主人公だから、前みたいに後ろを付いて行くんじゃなくて、みんなを先導できる。


私はバカみたいに他人の家に入って壺を割りまくったりお金やアイテムを盗んだりモンスターと戦ってみたりした。


どうでもいいけど、このファイルに居た「アンナ」の名前は「アイウエオ」だった。征二君…


「アンナが主人公になってアンナを動かしてる光景ってなんか不思議だね」

「なー。ほんと、まだあんまり信じられねえわ」

そんな二人の会話も耳に入らない程、熱中してやってた。


「アンナ。そろそろ時間だよ」

声を掛けられて我に返った。いつのまにか夢中になってやってたみたいだ。主人公のレベルが15から26になってた。

「えー…そろそろ帰る時間なの?」

確か、日本人は夜になったら絶対寝なきゃいけないんだっけ。うーん。

名残惜しかったけど、握りっぱなしでほんのり暖かいコントローラーを手放した。


「楽しかったー!あんな風に操作してたのね。テレビでやってるって事は知ってたけど実際にやったのは初めて!」

「またやりたかったら言ってね。征二に頼んで、いつでも僕がやらせてあげるから」

「おいこら!」

三人で雑談しながら廊下を歩く。外に出ると、もう日が暮れかかっていた。本当、何時間やってたんだろう私。その間見てるだけだった徹君と征二にちょっと申し訳なくなった。


門の前に立って、私と徹君、征二君が向き合う。

「今日は僕の為にありがとう征二。いきなり押しかけてごめんね」

「それは先に言えっつーの。それとお前の為じゃねえし」

拗ねた様にそつぽを向いた征二君を見て、徹君が笑った。いいなあ友達って。仲間、とはちょっと違う何かがあるんだよね。

「私からもありがとう!また遊びに来ていい?」

「……おう。今度はちゃんと連絡入れてからにしろよ?」

「分かってるよ。じゃあまた」

「じゃあな」

「さよならー」

そう言って別れた。


「征二君って、いい人だよね。怒りっぽいけど」

「怒りっぽい所さえ直せばいいのにね。本人が自覚してないからどうしようも無いけど」

征二君の最初の怒った顔を思い出して、私はつい笑っちゃった。


「それにしても楽しかったなー『姫君と海の大陸』!」

「あれは面白いよね」

「懐かしいな、あの世界。トール達元気かな?あんまり気にしてないけど」

「…元の世界に、戻りたくなった?」

「?ううん、別に。まだまだ日本に居座るつもりだよ」

「良かった。あ、そういえばアンナにはまだ学校について言って無かったよね。帰りがてら説明するよ」

「あ!そうだった」

「結局どっちとも忘れてたね」

「……私は覚えてたもん」

「嘘つかない」

「ちえっばれたか」

「あはは」


地面には二つ、私と徹君の長い影が伸びていた。

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