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ゲームと現実  作者: 流雨
5/7

「起きてアンナ。朝だよ」

私の名前を呼ぶ声で目が覚めた。寝ぼけずにすぐに布団から起き上がる。…寝起きは悪くない方だと思ってる。


この部屋には窓が無いから電気を点けてなくて閉め切った状態だと暗い。なので朝の眩しい日差しもなく、正直言って爽やかさとは程遠い。まあいいけど。

「今何時?」

「午前の九時くらい」

って事は、私十時間くらい寝てたのか…よっぽど疲れてたのね。くああ、と欠伸まで出た。

「おはよう」

「オハヨウ」

これは朝起きた時の挨拶らしい。こういう普段しない挨拶も新鮮だね。そういえば昨日喫茶店に行った時も「イタダキマス」と「ゴチソウサマ」を食べる前と後に言ったな。あれは作ってくれた人と、今から食べる物に感謝の意を示して言うらしい。



徹君はもう着替えていて、黒の服と下はズボンだった。なんて言うのかは知らないけど、昨日街を歩いてた時にすれ違った人も似たようなのを着てたし、服屋に行った時とかにも見かけたやつだ。

ちなみに私といえば、昨日着てたのと変わらない。服はあくまで防御力を上げる為に着ているだけだから、モンスターが居ないこの世界では着替える必要が無いと思ってる。


「でもせっかくだから、君が最初に着ていた服と僕が買った服と交互に着たら?」

「私が最初に着てたのだったら目立つじゃん」

だから徹君が服を買ってくれたのだ。一ヶ月断食まで覚悟して。あれ、違うっけ?

「あんまり外に出ない日なら大丈夫だよ。多分」

でも少なくとも、今日はあの服は駄目だよね。デパートに出かけるんだから。


一応朝ご飯作ったんだけど要る?と聞かれて、丁度お腹が空いてたので食べさせてもらうことにした。


昨日寄ったキッサテンで徹君が食べてたのとは随分違う。陶器の器には、白い三ミリ程度の粒がいっぱい載せられていた。ほかほか湯気を立てていて、見た目は美味しそうだけど、

「イタダキマス…何これ?」

「ご飯。白米。お米。見たことない?」

「初めて見るわ…」

お箸っていう長い棒二本を右手に持って、苦戦しながらもオコメを口に運ぶ。

食べてみたら、予想を裏切らず美味しかった。そばに添えられていたツケモノと一緒に食べると、漬け物のカリカリとお米モチモチの相反する食感が混ぜ合わさって楽しかった。

「もし元の世界に戻れたら、持って帰ってトール達にも食べさせよう」

そう私に決心させる程の逸品だった。

「徹君は食べないの?」

「僕はもう食べたから」

「暇なのね」

「そういうこと」


申し訳ないけど、卓袱台の真っ正面から食べてる姿をジロジロ見られると落ち着かないから、あっちいって欲しいです。


食べ終わって、ちょっと雑談をしてから家を出ることになった。徹君に依ると、デパートに行って私の生活必需品を揃えなきゃいけないらしい。生活に必要なものって…うーん、特に思い当たらないんだけど…

「っていうかそもそも、そんなもの買ってもらうのも申し訳ないよ。本当、私徹君に貰ってばかりで何もしてないし。いつまでこの世界に居るかも分からないし」

って私が遠慮しても、徹君は「大丈夫だから」の一点張りだった。意外に頑固者だなあ、徹君は。


「じゃあお言葉に甘えて…」

「ありがとう」

「何で徹君の方がお礼言うの?」

「何となくね」


やっぱりよく分からない徹君に続いて、私も部屋を出た。かちゃり、と複雑な形の金属をドアの丸い穴に差し込んでーー鍵を掛けて、いざ出発!


快晴、快晴。空はゲームの世界と同じように青い空と白い雲が9:1ぐらいの割合で塗られていて、気温もちょっと暖かいくらい。いつも何処からか流れてるあの牧歌的なBGMが聞こえてこなくて、やっぱり此処は異世界なんだな、と再認識させられる。


「あーなんか飛びたいね。大声で歌いながら飛び回りたい気分だね」

「そうだねえ」

のんびりした口調で相槌を打つ徹君は肩からバッグを提げている。そんで相変わらずの無表情。

(うーん…でもちょっと嬉しそう?気のせい?)

私は徹君に買って貰った帽子を、なんとなく深く被り直した。


私が昨日盗賊もどきを討伐した路地で、紺色の服と帽子を被った人達が何かしてたのがちょっとだけ気になったけど、徹君が「気にしない方がいいよ」って言うからスルーして。


昨日通った大通りに出て右折し、道なりで徒歩約十分の所にそれはあった。



デパートではとっても充実した時間を過ごせた。私は小さい子供の様に、初めて見る物を指差しては「あれ何?」と訊き、徹君も親の様に「あれは…だよ」と教えてくれた。多すぎて覚えてないけど、多分そのやりとりを百回くらいは繰り返した。


教えてもらった名前を全部は覚えられなかったけど、大抵はすぐに憶えられた。賢い私の脳みそ…じゃなくて、私を賢いっていう設定にしてくれた人に感謝だね。誰か知らないけど。


歯ブラシ、パジャマ、新しいお皿etc。『あーそういえばこれ家に住んでた時に使ってたなあ旅に出てからは持ち歩いてないけど』

みたいなやつを買って貰った。


思ってたよりは多くなかったけど、それらを買った後、徹君が自分の財布の中身を見て「これは冗談抜きで三ヶ月くらいは絶食かな…」と呟いた。やっぱり申し訳なかった。


「本当に大丈夫なの?」

「…………うん」

怪しいなー。


デパートには飲食店もあった。値段を見てる限り、喫茶店より安いところが多かった。

お昼は私は要らなかったから、徹君だけファストフードなる所でハンバーガーを食べる。

一つ100円って、昨日飲んだコーヒーは500円だったよね?

コーヒーはどうやら高級品らしい。一杯でこのハンバーガーが五個買えるくらいだから。


向かいに頬杖をついて、徹君が食べてる所をめちゃくちゃガン見してやった。朝の仕返しだ。



一旦家に帰って荷物を置き、またすぐに出掛けた。なんでも、徹君が「姫君と海の大陸」をやらせて貰ってる友達に会わせてくれるらしい。私としては勿論反対する理由も無いからついていく。

例によって例の如く私はこの土地に疎いので、徹君の後ろを歩くだけだった。


…なんか、自分が親鳥にくっついて歩く事しか出来ないヒナみたいに見えてきた。

「日本の地図とか無いの?」

「あるけど役に立たないから」

確かに、これだけ家々が密集してたら地図を見てもわかりにくそうだ。


「お友達ってどんな人?」

「一言でいえばお金持ち」

「そう…深夜の泥棒に気を付けてって言っておいて」

「あの家は大丈夫だよ。防犯カメラと警備員いう名の用心棒が居るから」

「性格は?」

「会えば分かるよ。一緒に『姫君と海の大陸』を見せて貰おう。ついでにやらせて貰おう」


徹君が信号以外で初めて足を止めたのは、家から…何分くらいかな?結構長かった気がするけど、周りの景色の変わり様に気を取られてそれどころじゃなかった。


周りが背の高いビルが多く、車の通りすぎる音が絶えなかった通りから、何時の間にか私の世界にもあるような民家がぽつぽつと並ぶ、ちょっと寂しい場所に来ていた。周りを小さな林で囲まれたお城みたいな屋敷。どうやら此処がお友達の家みたいだ。


「おお。大きーい」

まず門構えがある。本当にお城みたいだ。

建物自体も綺麗で、言うまでもなく徹君の住むアパートより大きい。そしてお洒落。

「しかも、これ全部が彼の家なんだよ」

「お、おおー。これ全部が」

「隣の林も彼の家族の領地なんだ」

自分の事みたいに自慢する徹君。でもここはあくまでお友達の家であって、徹君のお部屋はこの十分の一くらいしかなさそうなんだけど。


徹君がおもむろに近付き、門に取り付けてあるベルを押すと、「ピンポーン」

しばらくして、壁の突起から「はーい」っていう声が聞こえた。

「うわっ」

この正方形のやつ、生き物だったんだ!

「いや、ただのインターホン」

生き物ではないらしい。じゃあ何?って思ったけど、また黒いのから謎の声が聞こえたので、そっちを聞くことにする。


「どちら様で?」

女の人の声だ。若くは無いけど、老いても無い。ハリは無いけど、しわがれてもない。つまり普通の声。

「カワハラです。征二君は居ますか」

「ああ、川原さんですね。今呼びますからちょっと待っていて下さいね」

そう言ってプツッと切れた。

「今の人誰?あれがお友達?」

「お手伝いさんだよ。ゲームで言えば、お姫様のお城の女中みたいな位置?」

「えっ。じゃあ徹君のお友達って王子なの?日本の王子なの!?」

「僕の言い方が悪かったよ…彼はただの一般人だよ。ちょっとお金があるだけの」

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