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理想のお姫様  作者: 香坂 みや
本編
3/61

02 あるところに

 リリアナは見覚えのある顔を認識すると同時にずきりとこめかみが痛むのを感じて固まった。もう何度目になるか分からない記憶が甦る際に起こる頭痛だ。けれどきっと周りの人は、唐突の挨拶に驚いて固まったと思っているはずだ。

 そんな痛む頭の中では漫画の記憶が脳内を駆け巡っていた。彼は漫画の中ではユリシアに恋をし、叶わぬ恋ながらも彼女に盲目的な愛を捧げる年下騎士だった。

 けれど、たった今彼からは告白めいた言葉が発せられていた。短い時間の中で何度思い返しても、彼が恋をするのはリリアナではなく姉のユリシアであったはずだった。そしてリリアナはすぐに聞き間違いだと結論付けて、流すことにした。


「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はローレンス・ベルリナーズです」

 手の甲から唇を離した彼は爽やかな笑みを浮かべて言った。騎士というよりも王子様という言葉が似合う彼は名前までもそれらしい。そのまま考えていると、こちらで学んだ知識の中に彼の家名が思い当たった。

「初めまして。私はリアと申します。大変失礼なのですが、これは私的な活動ですので家名の方は遠慮させてくださいませ」

 リアはそれらしくきれいな礼をしてみせる。そう言って謝れば、大抵の人はどこかの貴族の姫ではあろうと勝手に推測して納得してくれる。それにきっとこの優しそうな男は謝られた手前、無理に聞いてくることはないだろう。

「リア様とおっしゃるのですね。透き通った泉のように清廉なお名前です」

 思ったとおり、ローレンスがリリアナに尋ねてくることはなかった。リリアナはほっと胸を撫で下ろして話を切り替える。

「まぁ、お世辞でも嬉しいですわ。ありがとうございます。ベルリナーズ伯爵と言えば有名ですわね。何でもみなさん貴族でいらっしゃるのに騎士学校に行かれていると聞いたことがありますわ」

 体が弱い設定のリリアナだったが、王女という立場上必要最低限の夜会には顔を出さなければならない。その中で煌びやかな彼の噂を小耳に挟んだことがあった。長女のユリシアは夜会に出ても、エスコートしてくれる婚約者で想い人のランベルトに夢中で噂の類には興味のないタイプだった。しかし次女のルシールは持ち前の華やかさでいつも夜会の中心にいた。美しく艶のある黒髪と深い碧の瞳、その彼女に見つめられて恋に落ちない男はそう多くはなかった。そんな彼女は人付き合いも広く、そういった噂を聞いてくるのは大抵ルシールだった。普通ならば異母姉との関係は最悪であるのだろうけれど、珍しくも仲の良い姉妹だったおかげでルシールは楽しい話を聞くと体の弱いリリアナへ聞かせに来てくれるのだった。そんな優しい姉たちをふいに思い出して思わず笑みが零れてしまう。

「お世辞だなんてとんでもない。本心ですよ。昔からの家訓で文官を目指す者も民を守れるだけの力を持たねばならない決まりなのです。王都に住んでいらっしゃったということは今はこちらに?」

「はい。私はこちらで子どもたちと毎日遊んでいるのです」

 詳しく話すと辻褄が合わなくなる危険もあると考えて、リリアナはあえて詳しいことは語らなかった。ローレンスはそれに気を悪くした風でもなく頷いている。

「遊ぶだなんてそんな。こちらで文字や計算を教えていらっしゃるのだとお聞きしましたが」

「文字や計算は子どもたちの将来の可能性を広げるためです。町の子どもにも職業の自由があって良いはずですもの」

 ローレンスの目はリリアナを見定めるかのように鋭い。けれど、リリアナはそんなことに気付いていないかのような笑顔でローレンスを見た。

「……そうですか」

 ローレンスはふむふむと納得するかのように再び頷いた。そしてリリアナを先ほどの射抜くような鋭い視線ではなく、熱い視線を見つめなおす。

「……あの?」

「やはり、貴女は私が探していた姫です」

「それは一体何のことでしょうか」

「ああ、すみません!つい舞い上がってしまって。恥ずかしい話なのですが、子どもの頃に読んだ童話に出てくる姫にリア様が似ていらっしゃるのです」

「はい?」

「王都ですら文字を読める子どもは少ない。しかしここ二、三年のこの町出身の子どもは文字が読めるだけではなく簡単な計算までこなせる。リア様はこの国の将来を憂いておられるのですね」

「いえ、そんな。私は私にできることをしているだけですわ」

「お美しいだけではなく、謙虚でいらっしゃるんですね。貴女のように実際に国のためにと行動に移すことのできる方は少ないですよ。ああ、そうだ!私も微力ながらお手伝いさせて下さい!」

 ローレンスは美しいと言ったが、リリアナにはそれがお世辞だとしか思えなかった。ユリシアのように美しい金の色を持っている訳でもないし、ルシールのように艶やかな髪でもない。どこにでもある栗色の髪とこの国に多い緑の瞳で造詣も際立っているわけでもないリリアナよりも、プラチナブロンドにアイスブルーの瞳を持つローレンスの方がよほど美しいと思われた。

 戸惑うリリアナを他所に、ローレンスはにこりと笑うと断る隙も与えずに畑へと颯爽と歩いて行ってしまった。呆気に取られるリリアナだったが、少女の声にようやく我に返る。


「リア様、今の人誰?」

「もしかして王子様?」

「王子様がこんなところ来るわけないじゃない。あたし知ってるわ。あの人騎士様なんでしょう?」

 幼い少女がキラキラと瞳を輝かせてリリアナを見ている。勉強を教えている子どもたちの中では年長に入るエリーが年下の子どもたちに向かって得意げに言った。騎士だったけれど、キラキラと光って見える彼はむしろ王子様と言った方が納得できたし、子どもたちにそう思わせるには十分だった。

「エリーが正解。今のは騎士様よ。けど、王子様みたいだったわね」

「うん!」

 リリアナは少女に笑いかけると、その手を引いて畑に戻った。

「この草を抜けば良いのですか?」

「あ、はい。でも、服が汚れてしまいますわ」

 汚れ一つ付いていない白の制服のまま畑にしゃがみ込むローレンスにリリアナは慌てて声をかける。

「良いんです。やらせて下さい」

「でも……」

「あっ、シスター。荷物なら私が運びます!」

 止める側からローレンスは自ら服を汚していく。ハラハラしてローレンスを見ていたリリアナもあっという間に汚れた制服を見て笑みを零した。

昔々ある所に、心優しき姫がおりました。

姫が暮らすお城は食べ物に溢れ、姫はいつも美しいドレスを着ています。

しかし、一歩お城の外へ出ると食べ物は少なく、民は明日食べるものにも困る生活を送っています。

姫は貧しく辛い生活を強いられる民に心を痛めていました。

ある時姫は町へ行くと、一人の女の子に声を掛けられました。

「ねぇ、お姫様。そのドレス綺麗だね!」

そう言った女の子が着ている服はボロボロで所々破れているだけでなく、きれいなところの方が少ないのです。

姫の想像以上の暮らしに優しい姫は涙を流し民のためにできることは何だろうと考えました。


そして姫は自分が持っていた宝石やドレスを全て食べ物に変えると、それを全ての民へと配りました。

久しぶりにおなかいっぱいに食べることができた民は姫に本当に感謝しました。

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