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理想のお姫様  作者: 香坂 みや
本編

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20 フォンディアの学校

「ジゼル、ローレンス。こちらへ来てもらえない?」

 応接室の脇にある机で書き付けしていた紙から顔を上げると側に控えていた二人を側へ呼んだ。二人が返事をして側へ来るのを見ると、リリアナも立ち上がり側にあったソファーセットへ座るように促す。

「ディオン叔父様のお屋敷へ向かう時に二人は手伝ってくれると言ってくれたわ。その気持ちは変わらない?」

「はい。もちろんです」

「何をしたらよろしいのですか?」

 二人を見ると、二人はにこりと笑ってリリアナを見た。リリアナは安心したようにほっと笑顔を零してから、さっと表情を固くする。

「では、二人にはこれから色々と手助けしてもらうわ。それは貴方達の仕事の範囲を越えてしまうかもしれない。それも覚悟していてね」

 リリアナの言葉に二人は当然のように頷く。

「私は学校を作ろうとしているけれど、実体験としてこの国の学校へ通ったことが無いわ。まずは二人に学校のことを聞きたいのだけれど良い?ジゼルは寄宿学校へ行っていたのよね?」

 リリアナ自身はフォンディアの教育機関を利用したことがない。幼い頃は身体が弱かったこともあるが、基本的に王族は城内の自室に教師を雇い入れるのが慣例だ。リリアナもそれに従い、1対1の教育を受けていた。

「はい。貴族の子どもは13になると学校へ入ります。よほど余裕のある方は学校へは通わず、教師を雇って屋敷で勉強をしますね」

「そうなの。学校はどれぐらいの期間通っていたの?」

「2年間です」

 リリアナはそれを聞いてふむと考え込んだ。学校を作るに当たって、どのような内容を教えるのか、どのくらいの時間、どうやって人を集めるのか、そして予算はどう捻出するのかの四点を最低限決めなければいけない。

「どういうことを学んだか覚えている範囲で教えて?」

「読み書きと計算ですね。そういえば立派な淑女になるためのマナー講座やふるまい講座などもありましたわね」

「貴族が中心の学校となるとそういう科目もあるわよね。分かったわ。ローレンスの騎士学校はどんな感じなのかしら?」

「騎士学校はやはり技量を磨くことが中心ですね。朝は鳥が鳴く前に起きて鍛錬し、昼は数時間座学を行います。座学は兵法だけでなく、たち振る舞いについてなど広い範囲で叩き込まれます。騎士を目指す者には文字が読めない平民もいますので、その者は別途文字の勉強ありましたね。座学が終われば、また実技練習を行います。練習が終われば自分の道具の手入れ。それが何年続くかは人によるといったところですね」

 ローレンスが話す騎士学校のイメージは昔聞いたものそのままだった。ローレンスの話にうんうんと頷きながら聞いていて、ふと気にかかったことがあった。

「騎士学校は普通の平民も貴族の子も通っているのよね?」

「はい。貴族の子と言っても長子以外の男子は何か職を見つけなければならない家は少なくないですからね。それに平民にとっても騎士になれば町に住む家族を今よりも楽な生活をさせられるのは確実です。それに入ってしまえば貴族とか平民だなんて言っていられないですし」

 ローレンスはそう言って肩を竦めて笑った。

「騎士になるための鍛錬は大変だった?」

「……まぁ、もう二度と体験したくないと思う程度には」

「ローレンス様がおっしゃるくらいですからよっぽどなのでしょうね。騎士のための鍛錬は辛くて逃げ出す人もいると聞きますもの」

 苦々しい顔で言うローレンスを見て、ジゼルは納得したように頷いた。

「まぁ。そうなの?」

「ええ。騎士学校に入ることよりも卒業する方が難しいと言われているのですよ」

「難しいかどうかはその人次第ですが、あまり簡単では兵の上に立って指示することなどできませんからね」

 ジゼルの言葉にローレンスはそう言って苦笑いを浮かべた。

 この国の軍の階級は大まかに二つに分けられる。それは一般兵と騎士だ。一般兵になるのにはそこまで難しいことはない。志願し、身元を保証する人間が居れば兵として入隊することができる。

 しかし、騎士になるには一般兵になるのとは違い騎士学校に入学する必要がある。試験を受けること自体は難しいことではなく、この国の国民であれば誰でも受けられるということになっていて、入学した後の学費も無料だ。

 もちろん入学するためには入学試験を突破しなければならず、その試験は実技試験だ。初めからある程度の技量が無ければ試験を突破することは叶わない。その後、無事に入学できたとしても騎士学校を卒業するためにかかる年数は人による。つまりは、1年で卒業出来る者もいれば3年で退学してしまう人もいるということだ。王と国の治安を守るための組織であるから中途半端な者はいらないということであるが、かなり狭き門であった。

「騎士様に憧れる侍女も少なくないのです。城にいる侍女はクロヴィス様派とランベルト様を見守る派とに大まかに分かれているくらいですわ」

「……ランベルト様を見守る派?」

 ジゼルの言葉がふいに引っかかる。二人を慕うのはよく分かるが、見守る派というのは聞いたことのない話だ。

「ええ。ランベルト様はユリシア王女とご婚約されていますから、どうこうなりたいなんて大それたことは考えないのです。ただランベルト様が幸せになりますようにと見守るのだそうです」

「そういうこと。そういえばジゼルは何かに所属しているの?」

「まさか。私はリリアナ様一筋ですので、他のことに構っている時間はありませんもの」

「ジゼル、ありがとう。けれど、ジゼルも自分の幸せを見つけたらそれを優先してちょうだい。私にはその方が幸せだわ」

 胸を張って言い切るジゼルにリリアナはくすくすと笑みを零す。しかしふとルシールのことを思って考え込んでしまう。ここ数日は忙しくてあまりちゃんと話す時間が無かったが、クロヴィスとはどうなっているのだろう。前に話してからあまり時間が経っていないが、姉にも残された時間は少ないのだった。

「……さて。話がずれてしまったわね。話の続きをしましょう。まず学校を作るに当たって、どのような内容を教えるのか、どのくらいの期間、どうやって人を集めるのか、そして予算はどう捻出するのかの四点を最低限決めなければいけないわ」

「まずは内容と期間ですね。年齢によっても変わると思うのですが、リリアナ様は何才くらいを想定していますか?」

「何才……そうね。この国の貧しい家庭の子どもは何才くらいから働き始めるか知っている?」

 リリアナがそう言って二人を見ると、それぞれ悩ましい顔で考えている。

「……街ではかなり幼い子供も見かけますわね」

「リリアナ様、先日のルークを覚えておりますか?」

「街で会った靴磨きの?」

 前に二人で王都へ下りた時に出会った靴磨きの少年だ。まだ幼く小さな手でローレンスの靴を磨いていた姿は忘れようとしても忘れらないだろう。

「ええ。私の執事の家で下働きとして雇っているのですが、良ければ話を聞いてみるのはどうでしょう?あの子どもは同じ年頃の子どもよりもしっかりした子ですし、他の子どもの話も聞けるかと」

「そうね。それが良さそうね」

「はい。では、ここに連れてくるわけにも行きませんから執事の家まで出向くのが良いでしょう」

「お願いするわ」

「はい。かしこまりました」

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