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理想のお姫様  作者: 香坂 みや
本編

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14/61

13 決意の日

 リリアナがローレンスを連れて部屋へ戻ると、ジゼルは驚いたような顔で迎え入れた。それもそのはずで、フリアンの町へいる頃であればまだ外にいる時間だ。しかし、そんな驚いた表情を見せても彼女は美しい礼をいつもの通りに見せるだけだ。そんな彼女のいつもと変わらない姿にほっと安心して心の緊張が緩むのが分かった。

「お早いお帰りでいらっしゃったのですね」

「ええ。……ローレンスはもう今日はいいわ。ルークのことも話を通さなければいけないでしょう?」

「しかし」

 ローレンスを振り返ると、彼はそれでもと食い下がるようにリリアナを見た。

「大丈夫よ。城の中からは出ないし、部屋から出る時はちゃんと護衛を連れて行くわ。今までずっとそれで問題が起きたことなんてないのよ?」

 今までずっと専属騎士なんていなかったし、それはこれからも変わらない予定だった。偶然このようなことになってしまったけれど、王位継承権も無ければ差し迫った戦乱の危機もないおかげでリリアナはお気楽な姫というポジションなのだ。彼女の身に降りかかる危険は王太子に比べれば限りなく低い。必要最低限の責務をこなせば、リリアナがどこで何をしようと文句を言う人間はいない。

「……分かりました。では、部屋の前の衛兵にはよく言っておきます。それでも十分にお気を付け下さい。今まで危険が無かろうと、昨日と今日が違うように何が起こるかは誰も分かりません。注意しすぎるくらいで良いのです」

「ええ。分かったわ」

「では。失礼致します」

 リリアナが頷くと、ローレンスは諦めるように一礼をして部屋を出て行った。それを見届けてからジゼルに向き合う。

「初めはお綺麗な方だとしか思っていませんでしたけれど、ローレンス様ならリリアナ様をきちんとお守り下さると思えましたわ」

 ジゼルはローセンスが居なくなったのを確認して、ふわりと嬉しそうに笑った。

「まぁ、それはそうかもしれないわね。けれど、少し心配しすぎじゃないかしら?」

「姫様という身の上に心配しすぎるというお言葉はありません」

「はい、そうだったわね。今日のこの後の予定は晩餐会だけだったわよね?」

 今みたいにピシャリと言い切るジゼルに何を言っても無駄だ。リリアナはそれが分かっているので今日のこれからの予定へと話を変えることにした。

「はい。そのようになっておられます。まだお時間がありますが、それまではいかがされますか?」

 今日の晩餐会はガルヴァンから訪れているヴィルフリートのためのもので、この城に住む王族だけでなく近くに住む王族までが参加する。この城に住む王族は王と王妃、王子や姫たちぐらいなもので、それは王の家族と呼べる範囲の者たちだけだ。

 普段リリアナがこの城にいる間も、王や王妃が執務がある時以外は城に居る王族で集まって食事をすることが多い。それは王の穏やかな性格と家族思いの気持ちから来るものだと思うが、母が生きていた際は僅かな気まずさがあったものだ。母が出席できない食事会にリリアナだけが呼ばれる。王妃はリリアナも娘のように可愛がってくれはしたが、自分が王族として食事をしている際も側妃の母はその間僅かな侍女と部屋で待っている。身分を伴わない母は王族にはなれなかった。

「……そうね。着替えをしてもまだ時間があるわね。図書室に行ってくるわ」

 テーブルの上に置かれた時計に目をやると、今は3時。今のシンプルな服から重いドレスへ着替えても、4時にもならない。晩餐会は7時からであったのでそれまで化粧を直したりしても時間は十分にある。それに手持ちの本もほとんど読み尽くしてしまい、フリアンに帰るまですることがなくなってしまったところだった。

「かしこまりました。それでは、一旦こちらへお着替え下さい」

 さすがに街を歩いたワンピースでは問題があるので、昼間を過ごす用のシンプルなドレスへと着替える。豪華な装飾を好まないリリアナのドレスは質は最上級ではあるが、姫としてはかなりシンプルなものだ。

「ジゼルは着いて来なくていいわ。どうせ図書室で本を借りて来るだけだもの」

「かしこまりました。それでは、6時までには必ずこちらへお戻り下さいませね」

 他にも仕事があるらしいジゼルは念入りに言うだけで無理に付いて来ようとはしなかった。それだけの気安さが二人にはある。それにフリアンの城とは違い、こちらの城は警備も念入りであるのでジゼルも適度に気を抜けるのだろう。

 部屋の前にいた衛兵に声を掛けて図書室へと向かう。図書室はある程度の身分を持つか、王宮で士官をしている者であれば立ち入ることが許可されるので、リリアナの部屋から近いとは言えない。絨毯が敷かれた廊下が石のタイルへ変わる程度の距離はある。しばらく歩くと王族が生活する範囲の豪華さが無くなり、シンプルな石造りの建物へと変わった。

 本を守る重厚な扉を図書室の警備を担当している兵が開けた瞬間に古い紙の匂いと、壁一面に並べられたたくさんの本たちが目に飛び込んで来る。これから何を読もうかと考えるのはまるで宝探しのようでリリアナの心を躍らせるのには十分だった。護衛の衛兵を入り口で待機させると、目的の場所へと移動して綺麗に詰められている本を一冊取り中をぱらぱらと捲った。

 それはよくある御伽噺だった。美しい姫が美しい騎士と恋に落ちる。もちろん姫と騎士は仲睦まじく暮らし、めでたしめでたしとなる。しかし、他の登場人物はどうなるのだ。それについて触れる本はほとんど無い。リリアナはふうとため息を吐いて、反対の棚にある違う本と取った。

「珍しいものを読まれるのだな」

「……ヴィルフリート様」

 掛けられた声に本から顔を上げると、側に立っていたのはヴィルフリートだった。彼はリリアナの手にある本に視線を落としていた。それもそのはずで、手に持っていたのは年頃の女性が好むとは思えないようなドラゴンの絵が描かれているものだ。

「私も読んだことがある。ロウン物語か」

「女性としては良くないことが分かっているのですけど」

 そう言って誤魔化すように笑うと、ヴィルフリートはその本を開いてあるページで手を止めた。

「行動しなければ失敗はしない。しかし、成功をすることもない。…この台詞が気に入っている」

 パタンと本を閉じると本をリリアナへ返した。その本とヴィルフリートの顔を交互に見つめていると、ヴィルフリートが小さく笑った。

「行動をしなければ成功する機会も無い。…確かにそうですね」

 繰り返して小さく頷いた。リリアナは目立つことを避けるが故に行動することをずっと避けてきた。しかし近頃はその状況とも変わって、どちらにしろ変化は訪れている。フリアンの街で行った行動によって、ローレンスと知り合った。そして月夜の夜にヴィルフリートにも出会った。もう何もできないただの大人しい姫では無い。

「……ああ。さて、私はそろそろ戻るが。リリアナ姫はいかがなされる?戻られるのであれば、部屋まで送って行こう」

「いえ。ありがたい申し出ですが、護衛もおりますしもう少し調べ物がありますので失礼致します」

「そうか。では、夜に」

「はい。ありがとうございました」

 ヴィルフリートは背を向けると図書室を出て行った。残されたリリアナは別の本棚へと足を進めた。ずらりと並ぶ本はリリアナが普段読む物語や歴史書とは違う、専門的な書籍だ。何から手を着ければ良いのかも分からないが、それでも始めなければならない。今まで大人しく人前にもまともに出てこないリリアナが何を言おうとも説得力には欠けるだろう。だからこそ、できる限り考えをまとめて具体的な案を出して説得力のある話をしなければならないと考えていた。

 今までずっと大人しい姫という役になりきっていた。何だかんだと逃げていた部分もあり、平凡なリリアナには何もできないと思い込もうとしていた。実際にフリアンの街に出るようになっても、それが精一杯だと思い込んでいた。しかし、フリアンで出来たのに他の街で出来ないなんてことがなぜあるのか。フリアンで出来たのであれば、その経験が生きるはずだ。


 リリアナはただの平凡な姫であることを止めた。

たくさんのお気に入り登録、感想、拍手ありがとうございます!

全てのコメントをありがたく思っています。

まだまだ話は続きますが、これからもお付き合いよろしくお願い致します。

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[良い点] 人物紹介含めた前ふりがこの後の展開へと期待がこもる流れで楽しみです! [気になる点] リリアナはふうとため息を吐いて、反対の棚にある違う本と←『を』?取った
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