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エイジ オブ アイアン ~Ground zero~  作者: ほんこんさん
第2章 ジョブキラーズ
15/20

2-08

「こちらエンジェル、子豚を発見。作戦行動に移る。」

運転席の左、ラジオの脇に置かれているデジタル無線が開いた。淡路は妙な表情をして、左手の細い腕時計を確認する。僕はラジオの時計に目をやったが、まだ時刻は7時10分で、予定までには5分ほど時間があった。

 少し早かったわね、と呟き、淡路は無線を手に取り、言った。

「了解、ちゃっちゃと片付けちゃって。予定は5分早めて行動すること。2人とも、いい?」

「了解。」

「了ー解っ。」

各々無線越しに返信する。そう言えば、今日は双方向性のデジタル無線を使っている。枝の心配をしていたが今日は大丈夫なのだろうか。僕が何となくそれに目をやっていると、淡路はハンドルにもたれかかり、3分の1ほど開いた運転席の窓から外にタバコの灰を落とし、言った。

「変な奴ら。」

人の事言えないだろ。

「だって、島の外のヤクザと手を組んだりしたら、神田組に目を付けられるに決まってるじゃない。ましてや武器取引なんて喧嘩売ってるも同然。そりゃ確かに、ニューポートは闇取引や密輸入には持って来いの裏貿易港だけど、いずれ殺されるのが分かっているのに。こいつら、相当なバカか、金に物言わせるオエラい様方のバカ息子に違いないわね。いずれにしろバカか。」

「殺される前に島を出るつもりだった、とか?」

僕は何気なく言ってみた。問いかけられた気がしたから。淡路はミラー越しにニヤニヤと何やら気味悪く笑っている。その顔が、一瞬いつかテレビで見た怪獣映画の悪魔みたいな怪獣に見えた。デストロイア?だっけ。

「人間、欲を出すとリスクを省みなくなる。」

淡路は言った。

「初期段階で練りに練った計画も、いざ目の前に金を積まれると、さっさとひっくり返してしまう。武器商なんて、特にそうなり得る要素が多い。人に恨まれ、狙われることはあれど感謝される事なんざまず無い職業。だからこそ常に己を律し、身を守らなければならないのに。素人が手を出す分野ではないわね。」


タタタタタタタンッ


 淡路が話し終えると同時に、ビルの狭間に軽い銃声がこだました。

 そう遠くないところから響く、短機関銃が掃射される断続的な発砲音。7発。小野田のMP40が火を噴いている図が頭に浮かぶ。始まった。

「お、来た来た。」

ジーパンの淡路はイグニッションを捻り、バンのエンジンをかける。

「極限まで欲を捨て、一瞬たりとも警戒を怠らない。リスクマネージメントに長け、一切の金に惑わされない。武器商が『死の商人』なんて物騒な名前で呼ばれ、恐れられている理由はその狡猾さにあるが、この島のチンピラ共にその資質は全く無い。他人の死を司る資格も、当然無い。」

サイドブレーキを引き上げ、ギアを1速に入れる。低いディーゼルエンジンを唸らせつつ、バンはそろそろと慎重に発進した。

「他人の死を司っていいのは、己の命にこだわらない者だけよ。」


 

 ビルとビルの隙間を縫うように、軽バンは低速で路地を進んでいく。サブマシンガンが火を噴く音はその間も続くかと思われたが、淡路が最初の十字路でハンドルを切り終わる頃には嘘のように鳴り止んでしまった。代わりに、長くて重い、尾を引くような銃声が、少し間隔を置きつつ断続的に反響する。ナオトのSVDだ。淡路は、引渡しがあるから現場に向かう、と言った。戦闘に巻き込まれはしないか、と聞くと、大丈夫、と答えが返ってきた。行く頃には終わっているから。ズビズビ息切れしそうなエンジン音の向こうで、何かが衝突するような音が聞こえた。再度鳴り響くサブマシンガンの銃声。そいつが鳴り止んだ時、また無線が鳴った。

「こちらエンジェル、目標を達成、一名を拘束。」

「了解、損害は?」

「無い。これより集合地点に向かう。引き渡すんだろう?」

小野田の声は異様なほど落ち着いていた。淡路はそうだ、と言い、また後で、と残して無線を切る。直後、右折した先、やや開けた200メートルほどの直線の中腹、ビルの袋小路になっているその奥に、何やら建物の壁面に突っ込んだ車体が見えた。白のワンボックス。あれだ。

「あーあー、やってるやってる。」

そう言いつつ、ポニーテールの淡路はダッシュボードの下の収納を開き、拳銃を取り出す。大砲みたいな口径の、シルバーのデザートイーグル。女はバンを事故ったボンゴ・フレンディの右後ろに停めると、僕に自分とともに降りるよう言った。

「死体、苦手なんでしょ?慣れておかないと。何度も吐かれたら困るし。」

うるせえ、お前らの感覚がイカレてるんだ。

 よくよく見てみると、ボンゴの車体のあらゆる所に弾痕が見えた。全てのガラスが吹き飛ばされていて、窓枠からは血が滴り落ちている。エアバッグ全開。鉄の臭いと、かすかに何かが腐ったような臭いが混ざった異臭。淡路は蜂の巣になったワンボックスのスライドドアを蹴破り、手にしている50口径を中でくたばる死体に向ける。屍は4つか、5つ。頭が砕けた者、上半身があらぬ方向を向いている者、手足が千切れている者。強烈な血の臭いが鼻を突き、僕はまた路上に戻す。口の中に広がる胃酸の味。朝飯を食わなかったのは正解だった。口元をぬぐって唾を吐いていると、ふと、ワンボックスのひしゃげた車体の陰から、誰かのすすり泣く声とも、うめき声ともつかない奇妙な声が聞こえてきた。覗いてみると、そこには両手を後ろ手に縛られた茶髪のガキが転がされていた。年齢は僕と同じくらいか、少し下。イケてない坊ちゃん刈り。肩と太股の辺りから出血している。手足をガムテープで縛り上げられ、口にはタオルか何かを噛まされている。傍には空の薬莢と、マガジンを抜かれた黒い拳銃が転がっていた。

「ベレッタ?いや、ベトナム製のコピーか。」

淡路はガキの傍にかがみ、その銃を拾い上げる。

「こんな物で私達に対抗しようなんて無理無理ぜーったい無理。武器商やるなら、ボディガードにプロを雇わなきゃ。見たところ、あんたどこかの金持ちの家のボンボンでしょ?」

そう言って、口のタオルを解いてやる。坊ちゃん刈りのガキは咳き込むと、唾を吐き散らしながら息を荒げて叫んだ。

「お願いだ、命だけは助けてくれ!金ならいくらでも積んでやる、それこそお前たちが見たことも無いような額をだ!」

「うーん、魅力的な提案だけど、お断り。私たちにも『信用』てものがあるし。」

淡路は薄ら笑いを浮かべ、デザートイーグルの銃口をガキに向けた。茶髪は恐怖のあまり意味不明な声を上げながら身をよじる。滑稽なほど怯えた瞳。何かのドラマみたいだ。

「金持ちの神経はやっぱり意味不明よね。何を思ってか知らないけれど、自分のことを全知全能の神か何かと勘違いしている。そんな傲慢な奴に売られる武器も可哀想なものよ。だって、売り手には中国製の安物のオモチャ程にしか思われていないのだから。あんた、自分が何を売っていたのか分かってるの?鉛玉一つで命一つ奪える悪魔のツールなのよ?そんなの、がめつく売ってたら恨まれるに決まってるじゃん。私がクライアントの立場だったら…」

女はそこまで言うと、言葉を切る。袋小路の直線を、向こうから黒い車がこちらに向かって来ていた。一目見てその筋のものだと分かる、猛禽類みたいな顔のBMW。腹の底に響く低音を吐き出しながら、鯨のようにでかくて締まった車体をしたそいつは、バンに横並びになるようにして止まった。

「...私がクライアントだったら、まず確実にあんたを殺すわねぇ。」

淡路の言葉に、ガキは身を縮めたまま狂ったように泣き喚き始めた。

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